外れクラス『転職屋』のせいで冒険者になれず細々と生計を立てていたおじさん。超強スキル【サブクラス付与】取得で最強の冒険者へ。
まんじ
第1話 夢
この世界にはクラスが存在していた。
それは15歳になると、神より与えられる
――カイガンの街・神殿付近
「よし!これで俺も今日から魔法戦士だ!」
「毎度ありー」
お客さんからお金を受け取り、俺は愛想笑いを浮かべる。
転職屋。
それが俺の職業だ。
――子供の頃は冒険者になるのが夢だった。
俺は15の時、神からのギフトによって、ユニーククラスである『転職屋』に覚醒している。
最初はユニーククラスという事で大喜こびしたのだが、実はこのクラス、絶望的な程に冒険者向きではなかった。
能力補正はほぼなし。
スキルは転職関連のみ。
しかもユニーククラスであるため、俺自身は転職する事も出来ない。
――そう、俺は完全に詰んでいたのだ。
だからこうして20年間、転職屋として細々と働いて来た。
仕事内容は、神殿にある神石のチャージ時間待ちをしている人間に有料で転職を行うという物だ。
神石による転職は殆どタダ同然――少額の寄付金を神殿に納めるだけ――だ。
だが一度使うと1時間ほどのチャージタイムが必要になる。
そのため、転職希望者が多い日などは数時間の待機もざらだった。
当然無駄な待ち時間を嫌う人間も多く、そういう奴らを見つけて日銭を稼ぐのが俺の仕事という訳だ。
「魔法戦士ねぇ……夢見すぎ」
魔法戦士と言うクラスは、神のギフトには存在していない。
それは魔法使いから戦士への転職の、ただの通称だった。
俺が夢を見過ぎと言ったのは、クラスを変更すると前職のステータス補正やスキルが消えてしまうからだ。
じゃあ只の戦士じゃんと思うかもしれないが、クラスによって得た力ではなく、努力で会得した物はそのまま残す事が出来た。
ま、そこは当然の話だろう。
クラスを変えたら個人の努力まで消えるとか、酷すぎるからな。
――で、だ。
魔法を覚えるのはかなり大変なのだが、魔法使い系にはその習得速度を速めるパッシブスキルがあった。
それを利用して魔法を短期間で習得し、戦士に転職する事で魔法の使える戦士になる。
これが魔法戦士と呼ばれる存在だった。
ここでもう一度ステータスとスキルの話に戻ろう。
魔法使いには魔法を扱う為のスキルや、それに最適化したステータスの補正がクラスの恩恵として与えられる。
それはかなり強力な物であるため、有る無しで魔法の威力や詠唱速度に段違いの差が生まれてしまう。
つまり……魔法使いとしてそれまで使っていた魔法も、戦士になった途端実践レベルでは役立たずになってしまうという事だ。
彼も2-3日でその事に気付き、失望する事だろう。
そもそも補正のない努力でどうにかなるんだったら、俺は転職屋で食いつなぐなんて真似はしていない。
今頃冒険者として活動していた事だろう。
「神様からの贈り物を、個人の努力で超えるなんて出来る訳ないからな」
まあそんな事は少し考えれば分かる事ではあるが、巷ではこの魔法戦士が流行っていた。
何故か?
実はこのダイタス王国最強の騎士――リウガと言う男が魔法剣士だからだ。
――人の努力で神のギフトを乗り超えるのは不可能だ。
――だが、一部の天才だけはそれを可能にする。
それがリウガと言う男だ。
彼は神がかった天性の才能と、尋常ならざる努力で魔法と剣、その二つをハイレベルで兼ね備える事に成功している。
そして下々の人間は、そんな彼に憧れこぞって魔法剣士になろうとしているという訳だ。
愚かとしか言いようのない行動だが、こっちとしてはそのお陰で商売が繁盛するので大助かりではある。
「ま、俺も人の事は言えないけどな」
転職屋を初めてもう20年経つ。
だが未だに俺は、冒険者になる夢を諦めきれずにいた。
そのため、こうして転職屋として仕事する短時間を除き、俺は生活の殆どの時間を鍛錬につぎ込んでいる。
35歳にもなって小遣い稼ぎみたいな隙間商売をやっているのも、少しでも多く鍛錬の時間を確保するためだ。
――そう、俺はこの20年間努力し続けて来た。
自分の中に眠っている可能性を信じて。
『転職屋』と言うクラスに、戦闘向きのスキルがいつか手に入ると信じて。
「よう。アマルじゃねぇか」
神殿に待ち人がいなかったので、今日の商売を終わらせて帰途に就く。
さあ訓練の時間だ。
そんな事を考えていると、背後から急に声をかけられる。
――それは俺のよく知る声だった。
「ゲゼゼか……」
振り返るとガタイの大きい、性格の悪そうな男が立っていた。
冒険者ゲゼゼ。
俺の幼馴染だ。
彼と顔を会わせるのは3年ぶりぐらいだろうか。
「ひょっとして、お前まだ転職屋なんてやってるのか?」
俺はこいつが嫌いだった。
会えば冒険者としての自慢話か、夢を諦めない俺への嘲りばかり。
好きになる要素は皆無だ。
「まあな……」
「おいおい!俺達もう35だぜ!いつまでそんな仕事してんだよ?もう少し現実を見たらどうだ?」
意見自体はもっともな物だ。
だが奴の言葉は俺の為などではなく、自分が悦に浸る為にこき下ろそうとしているのが見え見えだった。
だから例えそれが正論であっても、そんな奴の言葉に耳を傾ける価値はない。
「ほっといてくれ」
「実はな、俺のパーティーが今度Aランクに昇格する事になったんだよ」
冒険者にはF(最低)からSSS(最高)までのランクがある。
そして個人のランクとは別に、パーティーにも同じくランクがあった。
Aランクと言うのは上から4番目のランクだが、S以上はそもそも化け物の様な――リウガの様な――連中の集団になるので、実質Aが一般的パーティーの上限と思っていい。
「そうか。おめでとう」
正直、妬ましくて仕方がない。
だがそんな感情を押し殺して、俺は祝いの言葉を述べる。
「ああ、ありがとうよ。けどよぉ、そんな俺の幼馴染がいい年して冒険者を目指してるとか……正直恥ずかしいんだよなぁ」
ゲゼゼがニヤけ面で俺を見下して来る。
ぶん殴ってやりたい所だが、ベテラン戦士の奴と喧嘩したら、此方が一方的に負けるのは目に見えていた。
実際、以前我慢できずに手を出した時はボコボコにされてしまったしな。
本当に忌々しい話だ。
努力の量では絶対に負けないというのに。
「俺とお前は赤の他人だ。俺がどう生きようとお前には関係ないだろう?」
「おいおい、何だよその言い草は。幼馴染だから心配してやってんだろうがよ?」
よくもまあ、そんな口から出まかせが言えるもんだ。
これ以上こいつと話しているとまた手を出してしまいそうになるので、早々に退散する事にする。
「忠告は結構だ。俺は俺の生きたい様に生きるんでね。幼馴染だったらそれを見守っててくれ。じゃあな」
俺が背を向けて歩き出すと、背後から――
「へっ!負け犬が!!」
ゲゼゼの罵り声が聞こえて来た。
俺は怒りを堪え、それを無視して家へと変える。
――俺はまだ負けてない。
家に帰ると、早速訓練を始める。
――そう、俺はまだ負けてない!
体の動く限り、歯を食い縛って。
――俺は必ず冒険者になる!!
そう心に誓い、俺は自分を信じて努力を続ける。
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