さよならは言えない

福神漬け

プロローグ

「危ない!!」


「キキー ドンッ!」


「けんご、今日は雨降るから傘持って行きなさいよ!!」


「はいはい」

 僕は母の話に適当に答えていた。



 朝は小雨ぐらいだったのに学校を帰る頃には本降りになっていた。

「あの、すみません。人間ですか?」


 傘をさした女性が不安そうな表情をうかべながらながら話しかけてきた。でも彼女の顔には黒いモヤがかかっていた。


 あの時彼女は、真っ暗なバス停の前でずぶ濡れになって立っている僕を幽霊なのかもと思ったらしい。



 これは走馬灯だろうか?

 楽しかった時の記憶。でも僕が全て奪ってしまった。

 彼女の幸せにおくれたはずの日々を。そして彼女の未来を・・・

 いつから?いつ僕は間違えたのだろうか?あの時だろうか?

 それとも初めて出会った日からだろうか?


 もしやり直せるなら僕は君と出会わない。出会わないことなんて簡単だったんだ。

 あの時母の言うことを聞いて傘を持っていくだけだった。

 そしたら彼女とは出会うことはなかった。彼女を苦しめることも死なせることもなかった。

 そして君は僕なんかじゃなくて、素敵な人と出会って優しい奥さんになって、可愛い子供を産んで可愛いおばあちゃんになる。

 その世界では僕なんていなくていい。


──だからもう2度と間違えはしないよ。


 ただ、もう名前も思い出すことができない君の顔を見たいと望むことは許してはくれないだろうか?



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