遅刻した時計ウサギ - 3rd January

 そう、さっきチクタクは「この物語を終わらせるのは僕か、フックか」と言っていた。

 そのどちらもが。あの物語の中で、登場人物一人を消す事が出来る役割を与えられていた。


 だけどピーターパンは……。


 フック船長を倒しても……何も変わらない、何も残らない。

 そして、帰れない。


 だって、彼のやるべきことは。

 フック船長を倒すことではないからだ。


「つまりピーターは元々、アリスやウェンディと同じ、本来は〝入り込んできた〟側の人物だ」


 ごくり、とチクタクが大きく喉を鳴らした。


「だから、ピーターパンとウェンディはイコールじゃない。そうだろう?」


 真っ直ぐ、ラビは無作為無秩序青いフラミンゴを見た。

 まるで誰かかのように、ラビは大きなニタニタ笑いを全く崩さないまま。


「こっちの世界といわゆる現実世界は対になってる。そして対になる人物が存在してバランスをとっている……違う?」

『アタリ、だ』


 無作為無秩序青いフラミンゴが無感情そのものの声で、そう答える。


 そう、ア・バオ・ア・クゥー はその昔、こうも言っていた。


『鏡の国の赤の女王は現実世界の黒い子猫だった』


 だとしたら、チクタクの役割もわかる。

 その〝終わらせる〟の意味も——。


 片方が消滅すれば、たぶん対の人物も消えてしまうのだ。


 つまり——。


 さぁわっかるかな?

 脳みそを振り絞れ、思考をかき混ぜろ。

 お話の、物語の、その一文にヒントはある。


 ロンドン橋には人柱

 どうするどうする どうしましょう

 物語の軸には人柱

 どうするどうする どうしましょう

 金と銀では盗まれる

 針とピンでは折れちゃうよ

 木と粘土じゃ流される


 どうするどうする どうしましょう


 じゃあこうしよう


 丈夫な石で

 丈夫な意志で

 作りましょう 直しましょう


 ロンドン橋を

 物語を

 現実 仮想の 架け橋を


 さぁ! 何時何分何十秒? 一体全体、世界は正気でいられるのかい?



 歌うように鉄球のトゲの上でバランスを取りながら、ラビがそう呟けば。チクタクは不思議そうな表情で首を傾げた。


「ピーターパン、つまり、奴は現実世界からやって来たフック船長だ」


 そう言って、ラビは牙をむき出しにしてニタリと嗤い。


 

 ——どこかでまたひとつ、扉の開く音がした。

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