11th December
むかしむかし、海辺で泣いていた友と。
多様性があるのに欠けたものと言われた私達の、その後の話——。
「うさぎさんがどうして急にそんな消えたい気持ちの話をしたのか、どうしてここへやってきたのか、ここを通りたいのかは私は知らないけれど。うさぎさんは生きて、もっと笑うべきだ。うん、今心からそう思ったぞ」
「おやおや。はたしてはたして、グリフォンが誰かにこんな助言をするとは。天から岩でも降ってくるだろうか」
ウミガメモドキが少しにこやかに、ぷかぷかと泡を吐きながらそう言った。
「うさぎさん、価値なんかにこだわらなくて良いのだよ。私もウミガメモドキも、昔は自分自身が聖獣なのかモンスターなのか、人目につかないようにひっそりと生きるべきなのか、とても悩んだ事がある。そうして何百年も過ごしてきた。だけど、涙を流し続けるこの相棒を見てある日ふと思ったのさ」
「そう言うグリフォンだって、昔は毎日何かに腹を立ててばかりだったではないか。はたしてはたして」
ウミガメモドキが口をはさむ。それに対し「もう」と少し笑いながら返し、グリフォンはまた話を続けた。
「生まれは仕方がない。それは私達もうさぎさんだって一緒だ。虫に生まれようが象に生まれようが、植物に生まれようが、自分の姿や生い立ちを変えることはできない。しかしだ、どう生きるか、は自分の勝手なのではないだろうかな? たとえまわりがどうあっても、生きてはいけない者なんてきっといないし、誰かが泣き続けるその世界はもし出て行けるのなら飛び出すべきさ」
「悲しいかな、生まれもった自分の身体や場所でそれすら叶わぬ者ももちろん存在する。はたしてはたして」
「だけどね、うさぎさん。私達は途方もなく長生きだった。そして私には使い道もわからない、だけどもとても強い翼があったのさ。泣き続けるこの相棒を長い事見て、初めて私は自分のこの滑稽な身体に感謝をしたよ、そしてそれに気がつかせてくれたウミガメモドキにもね。そうさ、私はその長い年月をウミガメモドキと一緒に佇んでいた海岸から飛び立つことにした、彼を運んでここまで飛んできたのさ」
ああ。
恐らくあの〝アリス〟の物語にも出てきたこの二体のキメラは。
あれから誰にも知られない物語の中で、こうやって時を過ごし生きてきたのだろう。
「ウミガメモドキは……泣かなくなったのか?」
「そうさ、私達を捕まえて食べようなんて奴らももちろん居ないし、こうやってのんびりと考え事をしながら、お喋りだけをして過ごせる毎日を手に入れられたからね」
「はたしてはたして。このような変わりモノのワタシには、このような良き友がいる。バケモノだと言われようが受け流せるようにもなった。そもそも、門番という役目は所謂バケモノにぴったりでもある、ここはある意味安息の地、といったところだろうかね」
「そうそう、生きてはみるものだようさぎさん。素晴らしい、と誰かに褒められなくとも良いんだ。それに囚われて後ろばかりを見ていたら、苦しみからはずっと抜け出せないのだと、私はウミガメモドキと一緒にいることで気づかされたものだよ」
「……二人は、今幸せ?」
「「ああ」」
二体は目を細め、同時に頷いた。
「幸せが壊れる、いつか無くなる、とは思わないの? 幸せな事は怖くない?」
「うさぎさんも、時が来ればきっとわかるよ。〝幸せ〟は失うのが恐ろしいと思うモノでは無いということが」
「幸せだからこそ、守りたいと思え、壊れそうになったとしても感謝し、失くすまいと立ち上がらせてくれるモノであるよ。はたしてはたして」
「〝幸せ〟というのは、その秘訣は。誰かから与えられているようでそうではないという事」
「はたしてはたして。どこぞの奇怪な物書きがはるか大昔に記していたような気もするがな」
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