ネヴァー・ネザー・エヴァーランドと刻ウサギ

すきま讚魚

29th November

 はっくしょん、はっくしょん!!


 はーっくしょんっっ!!!!!


 ああ、やりやがった、とうとうやりやがった。

 だからクシャミをする時は口を手で押さえてじっとしてろと言ったんだ。


 パキィィィィイイイン!! という何かが割れて砕ける音を聞いて、オイラの垂れてない方の耳まで垂れちまった。


 数秒遅れて、もう一度ドシンだのバキンだの、いろんなものが壊れる音が可愛い見た目の小屋の中から響いてくる。


「うえぇええん、どうしようラビ!」

「うるせぇッ! だからあれほど"空飛ぶコショウ瓶"とは仲良くすんなって言ったのに!」


 タンスやキッチンをひっくり返したのか、真っ白なその身体に色とりどりのネクタイや靴下を巻きつけ、ジャムやマスタードをひっかけてベトベトのぐっちゃぐちゃになりながら、半泣きで小屋から出てきたのはオイラの双子の兄貴だ。


「どうしよう! どうしよう!」

「落ち着けよ、ピュア……」


 こいつはいっつもそうなんだ。なんやらかんやら、アチコチとっ散らかすし、ミスは多いしいっつも遅刻ギリギリで走ってる。

 でもそれが世界に何百年と愛されているんだからしょうがない。

 オイラも、別にコイツのことは嫌いじゃない。


 ……コイツの持ってくる、厄介事が嫌いなだけで。


「なんだよ、またカップでも割ったのか? お気に入りのティーポット? それともシュガーポットを落としたか?」


 べそべそと泣く片割れでもあるピュアの、ベッタベタが着かないように細心の注意を払いながら、オイラはその頭を綺麗なウサギの方の手・・・・・・・・・・でよしよしと撫でる。


「ちがうんだ。ああどうしよう、どうしよう。女王様に処刑されちゃうよ」

「あー、あんな偏屈ポンコツ裁判なんか放っておけやい」

「だって、だって大変なんだよラビ。今度は本当のほんとに!」

「ジャバウォッキーの次の復活はもうちょい先だ、落ち着けって。どーせまたオイラのカップを割っ」


 真っ赤な目を更に赤くして、ピュアが差し出したのは、盤面が思いっきり割れ針のぼきりと折れた時計。


「……処刑云々以前に、今世界は正気か??」





 ときウサギを知ってるかい?

 ああそう、時計ウサギでもいい。


 あれだよアレ。つまりオイラとピュアはその刻ウサギだ。


 よいこの皆はそうだなぁ、オイラの事は知らないはずだ。

 おう、そうか。そりゃキミがイイコだった証拠なんだろうよ。


 刻ウサギを見た者は、どっかの不思議な世界へ行っちまうって伝説があるだろう?


 なんでかって、基本的に世界ってのは境界線がきっちり引かれていて、その抜け道を知らなきゃお互い干渉なんてできないからさ。


 あーあ。やっちまったぜ。

 こりゃあヴォーパルソードを探すより、書き物机のカラスを探すより、困難かもしれねー。


 全世界を駆け抜けられる、全世界の時刻を記した時計。

 それをこの日、オイラの双子の兄貴が壊しちまったんだ——。

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