こういうのって最終的に好きになるパターンだよね?そもそも何故


「ねぇ、鵺さん。厄介な従業員が御一人


増えました」


みたらし団子を頬張る伊吹に鵺は顔を引き  


攣らせる。何故この青年は厄介者を引き


連れてくるのだ。抹茶を呑む。


「大体、想像は付く。あいつの子息


だからな」


「茨木童子は良いんです。まぁ、気遣いも


出来ますし。問題は、烏天狗達なんすよね。


……更に問題が、いや、問題児が増えるのは


マジで嫌なんすよ」


「問題を抱えるのが妖護屋じゃなかった


のか」


「いや……だって、これ以上抱えたく無い


ですよ、精神的負担は貰いたくない!」


「…それは皆、同じだ。今度、酒でも


飲むか?」


「有難うございます。奢って下さい」


「いや、お前が奢れ」


二人の周りに重く、近寄り難い空気が漂って


いた。





伊吹は吐瀉した。二日酔いで。


「オロロロロ」


「汚い、臭い! 下戸なんだからそんなに


飲んじゃ吐くに決まってるでしょ?!」


吐く伊吹の姿を眺めた真白は彼に言い


放った。


「水くだせぇ……」


「はい」


湯呑みに水を入れ、伊吹に渡す。


「あぁ、頭痛い」


「当たり前でしょ、あれだけ飲めば。


控えなさい、お酒は」


「いや、それは無理です。だって、美味しい


し、精神的緊張が解されませんよ。あと……


美味しいし」


「美味しいを二回言うな!」







その日、九尾と伊吹、雪花は共に下野国へ


向かう事に決めた。その後、妖護屋へ戻る


つもりだ。なので、嵐山へは暫くは帰って


来ない。


「伊吹、またいつでも帰ってくるんだぞ」


「ぬらりひょんさん……はい、いって


きます」


真白が伊吹の元へ近づく。


「伊吹ちゃん、雪花を宜しく頼むわね」


「任せて下さい……真白さん、いって


きます」


「ええ、いってらっしゃい」







那須にある殺生石の周りには地面が見えない


程に蜂や蝶が死んでいると言われている。


その周りには有毒な気体が蔓延しているとも


噂されている。ので、


「あんたらだけ行ってきて下さい」


「はぁ?! 何言ってんだよ、お前!」


雪花が途中、立ち止まった伊吹を振り返る。


「いや、あんたら妖はそんなん効かないで


しょうが、俺は人間っすよ? 死ぬってば」


正確には雪花は半妖だが。


「な、お前散々死にたいとか言ってた


じゃん!」


「流石にこんな所で死にたくないわ!」


「九尾さん」


何かの合図かのように、九尾が頷く。


次の瞬間、伊吹は九尾に担がれていた。


「いーやーだ!」


子供のように暴れるが、九尾はものとも


しない。道には、途中千体地蔵や、盲目蛇石


などがあった。そのまま彼等は殺生石の元


へやって来た。卵が腐ったような匂いが


漂う。思わず顔を顰めた。


「これ、鼻捥げるんだけど。どんだけ


人間に怨みあるんだよ、お前の本体は」


「すまん……」


謝りながら九尾は伊吹の足を地面に付かす。


地面に立った伊吹は横にいる九尾の背中を


押す。そうでもしなければ九尾は行けない


だろう。足が、体中が震えているのだから。


「……伊吹」


「いってきな、俺はちゃんとここで


待ってる」


安心させるように、その震えが収まるように


と笑いかける。九尾は恐る恐る殺生石に


手を翳す。すると、不思議な事に脳内へ


声が、波動が、感情が流れて来た。これは


……そうだ、いつしかの本体の記憶だ。


自業自得でしか無いのに、ただ愛して


しまった鳥羽上皇の気をこちらへ向けたくて


自分で苦しめて、自分で看病し、ほんの少し


でも良いから好きに、愛して欲しかった


のかもしれない。それは結局、行き過ぎて


失敗に終わり、愛してもらえなかった


けれど。今まで愛してもらえなかった九尾の


渇望、願望だったのかもしれない。


それでも、もう今は違う。本体は消え去って


しまい、写しである自分は要らないと思い


辺んでいた。だから、この場所へ参り、


魂ごと殺生石へ、本体へ返そうと考えて


いた。けれど、本体とは違う。誰かに


愛された、愛した。それが写しである自分


には出来ている。叶った。それが分かったの


ならば未だここへ来るのは早かったという


事だ。


(もう少し、もう少しだけ、この温かい


場所へいさせて欲しい)


誰へ懇願しているのだろう。本体か、伊吹等


か、それとも己自身か。まあ、そのどれでも


良い。居られるのならば。


九尾はその足を、前へと、未来へ向けて


進んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る