悲しい過去持った奴って大体その過去乗り越えたらネタキャラに走るよね。てか、キャラ崩壊する。
夜濟は咳払いをし、話を戻した。
「……その少年の依頼とは?」
「死を望む人間の命を食らいたいから多数
連れて来いと。だけど、怪しかったから
調査する事にしたんだ」
伊吹は夜濟を見た。それは親しみの籠った、
柔らかい微笑だった。
「そして、丁度良い時宜にあんたが来て
くれたから良かったと思ってる」
「え?」
夜濟は首を傾げた。まるで分かって
いない様だ。それもこれも伊吹の説明不足
だが。
「あんたなら死を望んでいる人間を知って
いるだろう? 身近にいるんだから気付いて
いる筈だよ」
夜濟は黙っていた。先程とは大違いだった。
口をまるきり開こうとしない彼女を一瞥し、
伊吹は立ち上がった。
「……」
「数日後、また来ます」
それだけ言い残し、彼女の家から立ち
去った。
残された夜濟は、箪笥にしまってある
髪紐を取り出し、手に乗せ、見つめていた。
「良いのか?」
歩いている伊吹に声をかける。
「うん、彼女ならそれなりの覚悟を持って
来るよ。烏天狗も"見た"でしょ? 」
「ああ」
「なら、すべきなのは何? 俺は妖護屋
だよ、依頼人からの依頼された仕事を最後
までやり遂げる。今は仕事に集中する」
烏天狗は伊吹の横顔を見る。その顔は慈愛に
満ちたものだった。
「俺はどっかの馬鹿を支えなければ
ならない」
「馬鹿って誰だよ」
「決まっている、お前だ」
「ふざけんな、俺はちょっと馬鹿なだけ
だから!」
「それも馬鹿と同じだろう」
伊吹のそんなところが馬鹿なのだが、
言わなくても良いだろう。
帰り道はほんの少し賑やかだった。
__おにいちゃん、どうしてわたしたちは
ふたりきりなの?
__それは、僕達が大人だからだよ。
__おとな? こどもなのに?
__うん、それを聡っているというんだよ。
大人よりもずっと賢くて、物事を冷静に
捉えられる。
__だから、わたしたちはなかないでここに
いることをうけいれてるの?
__うん、それが僕達にとっても正しいと
判断しているから。
__わたしは、おかあさんにあえなくて
さみしい。おにいちゃんはさみしくないの?
__……当たり前じゃないか、寂しくて。
大人に、父に愛してもらえないことも、
目を向けてもらえないことも、受け入れて
しまっているからこそ寂しいんだよ。
__おかあさんは? あいしてもらったから
わたしたちをうんだの?
__お母さんは、お母さんも父に愛して
貰えなかったから。愛なんてなくてもね、
子どもは産めるんだよ。決してそれは愛
じゃない。愛してもらえなかったのに、
どうしてお母さんは父を愛してしまったん
だろうね……僕には分からないや。
深い深い奥に封じ込めていた記憶を引き出し、
感傷に浸っていた夜顔は、足元に転がっていた
人間の死骸に滴る血を掬い上げ、呑み込んだ。
喉がゴクリとなる。既に手も、口の周りも
血の跡がついている。どれだけ人間の肉を、
血を食らったところでこの寂しさは、傷は
埋まらない。夜顔はゆっくりと足を動かし
始めた。向かうのは、妖護屋。不在だとしても
来るまで待とう。孤独が埋められるのなら。
伊吹が長屋に戻ると、戸の前に蹲っている
人影を見つけた。
「…あれ、夜顔?」
伊吹の声に反応したのか、夜顔は顔を上げた。
「伊吹…」
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