昔、耳なし芳一読んだけどただただ芳一が可哀想だったよね。目も見えなくて耳も聞こえないって大変だよね。夏の夜は一人でいる時は気をつけようね。
蝋燭の炎が風に吹かれ揺れる。先程と違い、
空気は静かだ。
「じゃあ俺から話す」
藤堂が話し出す。
「山口の下関、阿弥陀寺に目の不自由な芳一という
琵琶法師がいました。芳一の琵琶の弾き語りは師匠
の和尚さんを凌ぐほどでとくに平家物語の
「壇ノ浦の合戦」は好評でした。ある夏の夜、
一人で琵琶の稽古をしているところに身分の高い人
の使者がやって来ます。琵琶を弾いて欲しいと
頼まれた芳一はその使者に連れられて大きな屋敷の
大広間に連れて行かれました。そこで「壇ノ浦の
合戦」の弾き語りを聞かせると咽び泣く声も
聞こえて来ます。しかし、彼らに芳一は
『今夜から6日間、今日と同じ時間琵琶の演奏を
聞かせてくれ。だが、この事は誰にも言わないで
欲しい』
そう頼まれたのでした。それから毎晩出かける
芳一を見て和尚さんは不審に思ったのですが芳一は
何も言いません。そこで寺尾に尾行させると芳一は
安徳天皇の墓石の前で琵琶を弾いていることが
分かりました。芳一の周りには鬼火が飛んで
います。寺尾は芳一を寺に連れ戻し、和尚さんに
真実を伝えました。このままでは芳一が殺されて
しまうので和尚は亡霊から芳一を守る為に彼の体中
に経文を書き、誰が呼びに来ても返事をしては
いけないと言いつけました。その夜、また亡霊が
芳一の元へやって来たのですが芳一の姿が見えま
せん。しかしなんと和尚さんが耳だけに経文を
書くのを忘れてしまい耳だけ見えてしまっていた為
亡霊は迎えに来た証として彼の耳を引き千切り
持ち帰りました。翌朝和尚さんは耳が千切れた芳一
を見て何度も謝りました。そして、耳を手当て
しました。それから芳一の琵琶は更に有名になり、
いつしか「耳なし芳一」と呼ばれるように
なりました」
終わりと藤堂が決まり文句を言うと瞬間、
部屋が騒がしくなった。
「何か、な…芳一がただただ可哀想だわ」
「それな。てか、お師匠さん耳は忘れちゃ駄目
だろ。普通忘れるか」
個人個人、様々な感想を述べている。作り話
なんだから、怒らなくても良いと思うが。
「怖くなかったぞ、芳一が不憫なだけの話じゃん」
原田が藤堂に対して文句を投げる。
「うっせぇ、次のやつ感動話でも何でも良いから
話せ」
藤堂が指差すのは永倉だった。
「俺かぁ……んじゃ話しますかね」
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