妖護屋
雛倉弥生
いや、猫を返せ、俺の癒し返せ。てめぇの身体と心を持って詫びろ野良鬼がぁぁぁ!!
月が出でる夜、妖と人間の何でも屋である"妖護屋"の九条伊吹は、夜の小径裏で猫を探していた。
しかし、いくら探しても見つからない。猫の気まぐれさは理解しているものの、野良猫が集まる場所を徹底的に調査したにもかかわらず、見つからないとなると、次第に苛立ちが募るのは当然である。
その時、彼が目にしたのは不気味な雰囲気を漂わせる鬼だった。伊吹は文献の一節を思い出す。赤い髪と鋭い爪、それはまさに鬼の王、酒呑童子の姿そのものであった。
高級な服装を想像していたが、実際には貧相な服を着た鬼であり、野良猫を寄せ付けない存在であった。
しかし、恐怖よりも猫を追い払ったことに対する怒りが勝る伊吹は、鬼に向かって叫んだ。
「お前がそこに座っているせいで、猫たちが逃げたじゃねぇかどうしてくれるんだ!」
彼がこれほどまでに怒る理由は、先ほどからの依頼に起因する。依頼者は珍しく妖が見える人間で、その人はなんと猫又を飼っていた。話を聞くと、その猫又が家出したため、探し出してほしいとのことだった。
妖を飼うとは、無謀なのか、それとも度胸があるのか。それ以上に、非常に失礼な態度を取られ、依頼を果たせなければ妖護屋の名に泥を塗るとまで言われたため、彼は寝ずに仕事に取り組んでいた。
そのため、伊吹は疲れと様々な感情から癒しを求めていたのである。たとえ同じ猫であっても。
伊吹は野良鬼に対して怒りをぶつけた。
「お前がそこに座り込んでいるせいで、猫たちが逃げてしまったじゃねぇか、どう責任を取るつもりだ!」
彼がこれほどまでに怒っている理由は、先ほどからの依頼に起因している。依頼者は珍しく妖が見える人間であり、その者はなんと猫又を飼っていた。
話を聞くと、その猫又が家出したため、探し出してほしいとのことだった。妖を飼うとは、無謀なのか、それとも度胸があるのか。それ以上に、失礼な態度を取り、依頼を果たせなければ妖護屋の名を汚すと言い放ったため、伊吹は寝ずに仕事に取り組んでいた。
だからこそ、伊吹は疲れと様々な感情から癒しを求めていたのである。たとえ同じ猫であっても。伊吹は野良鬼に対して怒りを覚えた。自分の癒しを返せと。しかし、鬼にはその怒りが通じないようで、代わりに自らが癒しになろうと奇妙な提案をしてきた。穏やかな表情が逆に鬱陶しく、伊吹は気色悪さを顔に表した。鬼の提案を一蹴すると、鬼は予想外のショックを受けて落ち込んでしまった。
伊吹は咳払いをし、話題を変えた。彼が以前から抱いていた疑念を口にする。
「それで、なんで猫たちを逃がしてまでここにいるんだ?」
「逃がしたわけではないのだが……昔、藤原頼光という者たちに襲われて片目を潰され、角を折られ、なんとか生き延びて旅をしていたら、いつの間にかこの辺りを彷徨っていた。」
鬼の言葉に伊吹は驚愕した。まさか本当に酒呑童子そのものであるとは思ってもみなかった。文献には藤原頼光に倒され、首が奉納されたと記されているが、それは事実ではなく、作り話だったのだろうか。 それにしても、何百年も彷徨っているのだろうか。早く帰ってほしい。鬼が人間の町にいると、妖護屋の評判が下がるのは時間の問題だ。いや、その前に鬼に命を奪われるかもしれない。全力で抵抗はするが。 伊吹の心情を察したのか、酒呑童子は真剣な眼差しで彼を見つめた。
「お前を殺すつもりはないから、安心してくれ」
「それが本当かどうかは信じられないけどね」
「……信じてもらうつもりは全くない」
彼が数百年の間にどれほどの苦悩や痛みを抱えていたのかは知らないし、知りたくもない。妖の苦しみと人間の苦しみは、互いに理解し合えるものではないからだ。
「ところで、お前は無職なのか?」
「そんなわけないだろ、どこをどう見たらそうなるんだ」
「いろんな視点から」
「見すぎだろ、てか、見えないよ!」
突っ込み疲れた伊吹は肩で息をする。しかし、意外な言葉に体が止まる。
「では、あの妖たちの間で名高い妖護屋というわけか?」
いつの間にか、いや、伊吹が気づかなかった酒呑童子の懐に、探し続けていた猫又が丸くなっていた。完全に罠だった。こちらが妖護屋であることを既に知っていて、猫又を隠していたのだ。必ず、自分の元へ探しに来ると確信していた。
すべては自らの依頼を受けるためである。伊吹は、してやられたと感じる気持ちを隠しながら、路地を進んでいく。こうなった以上、徹底的にやり遂げるつもりだ。月を背にした伊吹は振り返り、優しく親しみやすい微笑みを浮かべる。
「どんな妖怪や人間の依頼でもお受けいたします。命を懸けて依頼者に力をお貸しします。数多の依頼主のもとへ、年中無休で駆けつけます。妖護屋とは、私、九条伊吹のことです。それでは、赤鬼様は私にどのようなご依頼をお持ちでしょうか?」
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