第68話
重火器の使用からして、政府から所持許可を得ている迷宮探索協会の機動部隊による行動だった。
立ち込める霧に向けての発砲が一通り終わると、体調格が片手を挙げて射撃を中止させる。
「破損音あり、実体には接触している可能性大です」
機動隊の一人が隊長格に報告する。
既に、協会は加咬弦の所在を掴んでいた。
だが、こうして機動隊を送りつけてみれば、加咬弦の周囲には迷宮遺物の効果によって霧で溢れていた。
既に機動隊の一部隊員が視界の悪い霧の中に突入して連絡が取れなくなっていた。
この霧の異常性を解明するべく、機動部隊が調査部隊に連絡を行い、解明に取り掛かっていた。
「調査から察するに、この霧は生物に対して有効な有毒ガスです。ガスの吸引か症状を発症させるものではなく、ガスが舞う範囲に侵入する事で平衡感覚を狂わせ、ガス内部に侵入した部外者を外部へ排出させます。機械系統による位置把握も試みましたが、ガス内部では全て狂わせられます」
そう仮説を組んでいく調査隊員。
しかし、銃弾が発砲された時、建物に被弾した事に関して伺う。
「弾丸が正確に飛んだ理由としては、弾丸が発砲時に籠る熱が霧を焼いた為では?」
「急に馬鹿になったか?弾丸の発射に発生したウェーブが霧を寄せ付けずに飛んだんだ」
「機械だと狂い易くさせるだけで、単純な仕掛けならば反応しない可能性もあります」
「それかガスの効果範囲外から攻撃をした為に弾丸が適用されなかったかも知れません」
複数の調査隊員が各々の持論を並べて討論を始めていた。
その内の一人が機動部隊に言う。
「ともかく、銃撃が有効です。反対側に待機している隊員から話を聞きましたが、発砲された弾丸が霧を貫通したとの報告です、建物の破壊音も聞こえているので、建物事態は普通の耐久だと思われます」
更に、機動部隊の隊長格に、連絡が入る。
「どうした?…そうか、地層からは影響がないか」
機動部隊の一部が政府から認可された迷宮遺物を使い、ガスの範囲外から穴を掘っていた。
時間が掛かるが、それでも後一時間もすれば、別荘の下にトンネルを開通することが出来る。
「現状、トンネルの開通を優先とする。我々の目的は加咬弦及び、統道旭の処分である。これは政府から正式に決まった事だ」
だから、その二人を殺害する事は正しいことである。
機動部隊は自分達の正統性を告げて。
隊長格の首から、骨が砕ける音が聞こえた。
「それは困る」
隊長格がどさり、と倒れると、機動部隊の隊員が後ろを振り向いた。
黒い外套に身を包む、髑髏の仮面を装着した細長い男が立ち尽くしている。
何処から現れたのか、何故隊長が殺されたのか。
彼らは知らぬが、関係ない事だった。
「銃器は使うな、見方に当たる、窯元班は調査部隊を護衛しつつ撤退、残りは現状対処に徹する。後は全員、手筈通りに動け」
副隊長格が告げる。
黒隠は周囲を見渡して人数を数えると。
「手筈通りだ、全員殺す」
黒隠は仮面の奥からくぐもった声でそう言った。
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