第66話

双蛇刹那の目には嫉妬が感じられた。


「恋とか愛とかそういうのはどうでもいいって感じだったのに。性に対しては積極的なんですね、私は、魅力がないですか?」


迫る彼女、その気迫に加咬弦は後退し、テーブルに当たる。


「そう言うワケじゃない…成り行きと言うか」


成り行き。

なんとも、覚悟の無い言葉であった。

口に出して悔やんでしまう。


「じゃあ、これでもッ」


押し切られる。

テーブルに尻を吐く加咬弦。

その上に跨り、彼の手を取って自らの胸に当てる双蛇刹那。


「私の胸を触って、これでも、感じませんか?このまま、成り行きになりませんか?」


顔を真っ赤にしている双蛇刹那。

だがその目は覚悟が決まっていた。

此処で…双蛇刹那は、加咬弦を篭絡するつもりだ。


「…」


柔らかな感触。

統道旭の慎ましい胸とは違い、弾力のある極めて暴力性の高い胸部。

女性の魅力が詰まる淫靡な肉が、彼の指を容易く埋めていく。


「感触では、駄目ですか…でしたら」


双蛇刹那は身を引っ込める。

シャツのボタンに手を掛けると、丁寧に上から下に向けてボタンを外していく。


「おい、もう止めろ」


静止の言葉を掛ける。

だが、その声は彼女の素肌を見ると掠れて消える。


「私の、裸を見ても…性を感じませんか?」


欲を湧き立てる彼女の白い肌。

雪の様に冷たく、それでいて柔らかい。

目を奪われて、理性をなくし、味わい尽くしたい。

既に果てて無い彼ならば、そう思った事だろう。


「…何がしたいんだよ」


冷静に、加咬弦は言う。


「何がしたい?…あなたと、したいのです」


まるで子供の言葉遊びだ。

下着にすら手を掛けて、抑えつけていた彼女の胸部が重力と共に下がる。


「答えになってない…」


当然、言葉遊びに付き合う気はないと一蹴する。


「いいえ、きちんとした答えです…私はあなたが、好き、ですから」


最早裸同然の姿で、加咬弦に詰め寄る。


「そのかたちが、愛でも、恋でもない…欲望のまま、性欲でも、私は構わない」


テーブルが邪魔で、加咬弦は逃げる事が出来ない。

いや、それは言い訳だ。

テーブルが無くとも、遮るモノが無かったとしても。

彼女の魅力からは、逃げる事が出来なかっただろう。


「あなたが、欲しい、から」


顔が近づく。

目と鼻の先。薄桜色の唇が触れそうな程に近く距離が縮まる。

だが、それ以上、唇を重ねる事は無かった。


「ふぅん…」


聞きなれた声が聞こえて来る。

その声に驚いて、二人は扉の方に顔を向けた。


「っ?!」


其処に立っていたのは、統道旭だった。

疲弊故に休んでいた彼女だったが、女の勘が働き、この場へと立ち会っていた。

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