第33話
『迷宮三色を知ってるかな?』
白い病室。
『カウンセラー』と呼ばれる男がテーブルの上に置かれたコップに温めたミルクを移す。
『白と灰と黒の三つの色でね、基本的に、色が黒くなればなる程に危険度が高まると言うものだよ』
ミルクの入ったコップにインスタントの珈琲を入れて掻き混ぜる。
ホットミルクだからか、珈琲はすぐに解けて、黒ずんでいく。
『で、何故、危険度が高まるのかと言えば、迷宮の大気は毒性を持つ為だ、空気の過多供給を行えば、肉体に蓄積される量によって精神的異常性を発生してしまう』
ミルクコーヒーを飲んで一息吐くと。
背に靠れてポケットから煙草を取り出した、それを口に銜えると、百均ライターで火を点す。
『無論、その大気の毒性は人によって耐性を持つ、長時間迷宮内部に居ても白のままの人間がいるし、逆に短時間滞在するだけで黒になる人間も居る』
紫煙を吐いて、煙草の灰を灰皿に落とそうとするが、何を間違えたのか、カップの中に灰を落としてしまう。
『あっ……んんっ、まあ、異常性を発揮した人間は、狂暴性を増したり、サイコパスの様な思想になる者も多く、スキルと組み合わされば危険だと判断され、今では黒の人間は人権を剥奪され処刑か、あるいは施設で老衰するまで拘束されている』
カップを下げて、灰皿に火を点した煙草を置いて、手を組んで仰け反ると。
『私の目標は、黒をどうにか灰や白に変える事は出来ないか?そう考えて、私は迷宮探索協会の研究部門に属している。だからこそ、キミは私を呼んだんだろう?』
そして『カウンセラー』は目の前に座る少女の顔を伺う。
『天吏くん、〈万能なる助手〉よ』
天吏尊は頷く。
彼女が『万能なる助手』と呼ばれているのは、あらゆる分野において助言、指摘、補助に対する能力が抜群に優れており、あらゆる分野に置いて万能である『気怠き神童』天吏帝の妹として遜色ない実力を持っている。
彼女の才能を買って、多くの技術者や研究者が彼女からの手を借りていた。
『…先生、彼をどうか助けて下さい』
天吏尊は事前に報告した『
『モルモットが増える事は嬉しい事だよ、けれど、君は何故彼を救おうとする?』
その男は、彼の実の兄を見殺しにした人間である。
助けるどころか、恨みを持って復讐をすべき人間ではないのか?一部始終を知る『カウンセラー』は訝しんだ。
『…あの人のスキルを後になって知りました。そして、あの人が兄を治癒しなかったのは、治せば死者になる事が予期できたからです。それなのに私は、酷いことを言ってしまいました。それなのにあの人は、兄の意思を尊重してくれました…今度は私があの人を救います』
今はもう、恨みなどない。
そう天吏尊は告げる。
『成る程。面白い思想だ。では天吏くん、一つ、私の治療に付き合ってくれたまえ』
『私に出来る事があれば…』
天吏尊は覚悟をして頷く。
硬くなるなと、『カウンセラー』は言うと。
『簡単な仕事だ。彼を精神的に縛りたまえ、やり方は君に任せる。まずは記憶から死んだ人物を消していき、時が過ぎると共に一人ずつ思い出させて、精神的ショックを慣れさせる。全てを思い出せば、再び異常性を発揮させてしまうだろうが……縛り、支えを作ることで、寄る辺に添わせる』
つまりは、最終的に、天吏尊に依存させる事で、精神的異常性を抑える。
『君が彼を依存させるんだ』
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