第14話
夜の八時頃。
比較的早い時間帯で統道が眠ってくれた。
後は彼女が癇癪を起こさない様に祈りつつも、俺は彼女の病室から出て息を吐いた。
なんだか今日は疲れた。
そう思いながら、気の休まる場所へ行こうと思って、エレベーターではなく、階段で上層へと歩いた。
階段の最長上には、屋上が展開されている。
人が入っても問題なく、その代わり、転落防止用のフェンスが敷かれていた。
「は、ぁ」
辺りを見渡せるフェンスの前に、木製のベンチが置かれている。
腰掛けて、重苦しい吐息を周囲に四散させた。
穏やかな時間だ。
誰にも邪魔されず、孤独の時間を味わえる。
こんな時、暖かいコーヒーがあれば、と思った。
その代わりに、俺の視界から現れる、一人の女性の姿があった。
「…あぁ、
感傷に浸る俺の前に現れたのは、稲穂の様な色をした髪を靡かせた癖毛の少女だ。
「どしたのー?そんなに疲れた顔してさ」
金鹿は、転入試験の参加者である三十二名の内の一人だ。
俺の傍に近寄って、隣に座る金鹿。
「色々とな、お前はどうだ?」
「どうだって、ねぇー見ての通りじゃん、笑っちゃうなぁ」
手をヒラヒラとさせながら、金鹿冥慈はケラケラと笑う。
俺は彼女の姿を見た。金鹿冥慈の姿は俺が彼女と初めて出会った時と同じ格好だ。
肉体は怪我などしておらず、景気の良い調子具合から、精神面も安定している。
「はぁー…お腹空いたねぇ。ここから出たら、ラーメンでも食べに行きたいねぇ」
「あぁ…ラーメン、そう言えば、一年くらい、食べて無いなら」
「ここから出たら、食べにでも行くぅ?」
金鹿冥慈が俺の顔を見て言う。
俺も彼女の目を見て頷く。
優しい眼だ。昔、近所に住んでいた、お菓子とか勉強を教えてくれた優しいお姉さんも、そんな柔和な目をしていたのを思い出す。
「お前と話していると、なんだか気分が良くなるよ。…ありがとな、金鹿」
感謝の言葉を伝える。
金鹿冥慈は何も言わず、ニコニコとした笑みを浮かべていた。
「…コーヒーでも買うか」
寒くなってきたから、俺は屋内へ戻る事にする。
「お前も、体が冷えない内に戻れよ」
そう言って、俺は金鹿と別れた。
曇りだした心だったけど、彼女のお陰で少し気分が晴れた様だ。
少し軽くなった足取りで下へと降りて、俺は病室に戻る。
自室の中で、俺はベッドに転がると、シャワーを浴びる事すら忘れて、眠りに落ちた。
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