突如発生したダンジョン化、多くの生徒が犠牲になり狂気を得たヒロインは主人公に依存する

三流木青二斎無一門

第1話

その日は、転入試験だった。

迷宮専門学校には五つの科目が存在する。

迷宮探索師になるには、迷宮探索科に入らなければならない。

俺は迷宮探索師になる為に、転入試験に挑んだ。

今回、その転入試験を受ける生徒は全部で三十二名。

誰が選ばれても可笑しくない実力と実績持ちを持つ彼らと、抽選で選ばれた補欠候補生の俺が競い合う。

その最初の1日。

生徒による顔合わせを込めて転入試験の説明会が体育館で行われる筈だった。


結論から言えば。

体育館が突如として迷宮化した。

それによって、三十二名の生徒たちが迷宮の奥底へと強制的に転移し、強制的なダンジョンサバイバルが行われてしまった。

不測の事態、それによって、迷宮から脱出する事が出来た生徒は、三十二名中、たったの六名だけ。

そして、残る生徒は行方不明及び、生き残った生徒の証言によって死亡が確定された。



「死亡した生徒はそれで全員ですか?」


迷宮協会の役員がキーボードを指で叩きながら聞く。

下に視線を向けると、メガネがズレてそれを人差し指で調整する役員の人。

俺はそうだと言ったつもりだったが、声が掠れて聞き取りにくかったらしく、女性の顔が俺を見詰めてくる。


もう一度、声を出そうとしたが、頷いた方が早かっただろう。俺は首を縦に動かして肯定の意を唱えた。


「そうですか…、では、今日の所はこれまでにしておきましょう。ご協力感謝します」


無機質な声を響かせて、会釈をすると、彼女はそのまま俺の側から離れていった。

俺は軽く息を吐いて背中を壁に凭れさせた。

静かな場所だった。迷宮探索師の怪我や精神症状は全て、旧迷宮学病院で治療や療養を行われるのだ。


基本的に迷宮へ潜った人間は、その肉体に未知の病原体を発生してないか、この病院で検査を受ける必要があった。

ダンジョン化してしまった建物の中に残された人間を迷宮迷子と称される。

年間約二千人ほどの迷宮迷子が存在して、生還した迷宮迷子は三日から一週間ほどの検査を終えて、異常が無ければ退院する事が出来るのだが、迷宮から戻って二ヶ月が経過した今でも退院の兆しが見えない。


「あぁ、早く家に帰りたい…」


つい呟いてしまう。

俺は迷宮迷子の中でも軽傷で、すぐに帰れると思ったが、それは無理な話だった。


加咬かがみげんさま、至急、第二階225号室までお願いします』


アナウンスが流れて、俺は溜め息を吐いた。

手首の周りを掴んで擦りながら俺は立ち上がる。

俺が向かう先は精神を磨耗させる場所だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る