第50話「ウィルVSオーグン」
ウィルはここに着いてから、
ずっと自分の手を見ている…
「ウィル!もうやめよう、こんなこと!
今まで通り、皆で楽しく暮らそう!」
「……」
俺の話を聞こうともしないで、
ずっと手を見ている。
手から風が起きたのを合図に、話し出した。
「この世界の秩序が変わり…崩壊した…」
「なぁウィル!テンとまた三人で…」
「テンは死んだよ」
「な、何言ってんだ!
テンが死ぬはずないだろう!」
「君には、こんな事すら感じ取れないのかい…」
俺の首に、つむじ風が起きる。
寒気がして、一歩横にずれると、
首にかすり傷が出来た。
明らかな殺意…
「自分の事は、多少敏感になった…
思えば、君はいつも自分の事ばかりだったね。
自分の欲望のままに…
一時は、羨ましいと思ったことも、あったけれど、
やっぱり僕は君が嫌いだよ」
「俺はお前が好きだウィル!
他人の幸せが自分の幸せとか、
恰好つけてんじゃねぇ!
お前はもっと、
自分が幸せになることを考えろ!」
拳が混じわる。
御子との特訓で、多少強くなったと思っていた。
自分の弱点と向き合い、
克服できたと思っていた。
ウィルに勝てると思っていた。
いや、実際、サシで戦ったら、
いつものように、引き分けだっただろう…
でも今回は違う。
いつもは笑って、俺らの喧嘩を見ていたムーが、
本気で参戦してきている。
ウィルのつむじ風を躱すも、
その先には、必ずムーの攻撃が待っている。
ムーも俺を殺しに来ている。
変態精霊王の力と同じ力。
凝縮された魔力玉が、
俺の身体を、徐々に抉っていく。
俺はずっと勘違いしていた。
妖精は人間を援助する存在なのだと。
妖精にも意思がある。
ずっと一緒にいたからなのだろうか…
彼らはまるでお互いが、
何を考えているのか、
分かり切ったように、動いている。
この連携をどうにかしないと…
一方的にやられるだけだ…
どうする…
ウィルもムーも基本的に、
俺に近づいてこないで、魔法を打ってくる。
ウィルはいつも通り、立ち位置を変えず、
ムーは的を絞らせないように、
定期的に場所を移動しながら…
ウィルに一か八か、距離を詰めて戦う…?
いや、それはいつもやっていることだ。
ウィルには防御もある…
ウィルたちが、対策していないはずがない…
…ムーはなぜ瞬間移動で、
場所を変えながら、攻撃してくる…?
ムーの気まぐれ?
そうかもしれないけど、もしかしたら…
右足の裏につむじ風…
ズパァアン
「なっ…」
右足の腱を切られる。
激痛が走り、右ひざが崩れる…
右足首が思う様に動かない。
重心を左に移す。
「そこだぁ!」
たった今、右手で拾った石を、
左に振り向きざまに、
そこにいるはずの、ムーに投げる。
ムーは魔力玉を放つ瞬間。
反応が遅れ、小石が激突。
俺にもムーの魔力玉が激突した。
ムーはその場で地に伏した。
「む、ムー!オーグン…!
君は…なんてことを!」
ウィルは俺の頭上に、雷雲を集める。
その魔力が濃くなるにつれて、
雷雲の色も黒く、漆黒になっていく。
ムーの魔力玉は致命傷には、ならなかったものの、
もう身体は動けない…
ウィルのこの雷を受けたら、
確実に死ぬ…
手で這いずろうとするも、
地に伏しているムーが、
手を着くと同時に、魔力玉を打ち込んでくる。
うっ…
ここまでなのか…
テン…本当に死んでしまったのか…
友達…に殺されるなら、
良い人生だったのかな…
女の子とは仲良くなれなかったな…
まだやり残している事もある。
ウィルとはまだ本当の意味で、
友達になったわけじゃないんだ。
俺はまだ死ねない。
死にたくない…
「オーグン…
僕も信じてないけれど、
あの世ってものがあるなら、
僕もすぐ行く。
その時にテンと、僕を気が済むまで、
ぶん殴ってくれ」
ふざけるな!
あの世なんてない!
お前の言葉…
今ぶん殴ってやる!
くそ!
身体が動かねぇ…
死ぬわけにはいかねぇのに…
「またあとで…」
ウィルが振り上げた手を下ろすと、
俺の目の前が、真っ暗になった。
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