第11話 「帰郷 オーガの里」


なんとか山脈を超え

ほにゃらら砂漠を歩き

名もない大河を渡り

妖精が住むと言われる大森林を迂回し


数ヶ月間人間と魔族の境界よりずっと魔族側の奥

オーガの里へ帰るべく旅をした


人間は強い力を持つものほど魔族との境界線に住んでいる

ウィルの王国が一番の例だろう


それに対して魔族は強い魔族や魔物ほど人との境界線には住みたがらない

よって知能の低い魔物が境界線近くに住んでいる


オーガの里は魔族側よりだいぶ奥の方にある

長い旅だ


行きは一人だったのでどこでも野宿をしながら魔物を狩りながら旅をしていたが

今回は違う


ウィルは強くとも人間、俺みたいにどこでも寝られる訳ではない

テンもこのあたりの魔物は強いため常に気を張っている

メルサは特に長旅には慣れていなかった


ゆっくりと腰をおろして休憩が出来る場所は各地に点々とある悪魔軍の拠点だけだった


ウィルなんかは国に攻め込まれているだけあって悪魔を警戒していたが


悪魔軍の拠点とはいっても実際は

流れ者の集まる場所


むしろ悪魔の方がオーグンを警戒していた


拠点といっても村のようなもので女、子供も生活していた


来るもの拒まず

去るもの追わず


一族から迫害されたはぐれものが隠れて住み着いているような所だ

治安はお世辞にも良いとは言えない雰囲気であったが

ここを出たら生きていけない者ばかりであったため際立った事件は起こらないらしい


様々な種族の文化が融合され結構発展していた


案外居心地は悪くなかった



が、やはり魔族の村は入れさえしなかった


今回は一人旅ではなく

砂漠で食糧がなくなってしまった

魔物もほとんどおらず

どうしようも無くなった時にたまたまリザードの村にたどり着いたが


リザードの村の門は硬く閉ざされ中は大騒ぎ


なんとか門前でなけなしの金を払って食糧だけわけて貰った




悪魔もそうだがどこも似たような言語と通貨、暦が流通している

なぜこんなに文化が似ているのに交流が無いのだろうか…?



そうこうしている内に懐かしの故郷についた


火山が近く緑がほとんどない

荒れた岩だらけの土地


到着すると門番のオーガ達が慌てだし

一人は大急ぎで村へ入っていった


住んでいる時は感じなかったが

やはり人間の国と比べると村はわりと小さい

いや、人間の国が大きすぎるのだろうか

初めて見た時の興奮は凄かったな…

人間は寿命が短いから入れ変わりが激しく文化もどんどん発展していくんだろうか


オーガの里はゴブリンの村よりは大きいが

点々としてない

この一帯で大体1000人くらいだ

一年に4人程生まれ

1人程寿命で死に

病気か事故で同数ほど程死ぬ


旅をしていた身からするととてもゆったりとした時間が流れている


この辺は強い魔物ばかりだが

オーガもかなり強い種族

隠れる必要はないのだろう


帰ってきたからには実家に帰り親父とおふくろの顔を見なきゃな


見たらウィルとテンがニヤニヤしていた

心の中を見透かされている…

そんなに俺は分かりやすいだろうか…?


門番のオーガが帰ってきた

彼女らは丁重にお辞儀すると門が開いた


あっという間に人だかりが出来ていた

ほとんど…女

こことぞばかりに触ってくる


オーガは性欲が強いのだが、男が少ない

つまり、女の競争率がものすごく高い


そんな高い性欲と競争率の不釣り合いがオーガが強い所以なんだろうが


俺はそんな女が怖い


小さな時からあらゆるとこを触られ

それこそトラウマだ



「しずまれぇええええ」

図太い声がこだまする


声のする方 この近くで一番高い岩山の上に男のオーガが一人

懐かしい…

オーガには珍しく筋肉より脂肪が多い

中年のオーガ


親父だ…

感動的な再会…


「オーグン なんだてめぇもう帰ってきたのか

がはははが なんだかんだ言ってみみっちいなぁ‼」

では無かった…


想像していたのと違う…


「どうだ? つえぇだけじゃ世の中通用しね…」

話しの途中でドンっと親父が岩山から蹴落とされた


うぉおあああああと叫びながら親父が転び落ちる


親父を蹴落としたのはおふくろだった


親父とは正反対の

細い女性の身体にきっちり無駄無く詰め込まれた筋肉

中年のはずだが若く見える

一般的には美しいという言葉が当てはまるのだろう


だが、それ以上に歩くという一動作だけで身体中すべてを思いのままに操っていると分かる佇まい

見ただけで分かる強者の風格


「オーグンよく帰ってきたわね

あなたもいい年になってきたんだから早く女に子を生ませなさ…

なぁーにオーグン?その女?」

おふくろの視線がメルサに注がれる


メルサが身震いする

メルサの並外れた感覚がこの人のヤバさを感じ取っている


思ってた家族の再会と違う…


いや、アキナで美化しすぎていたが

うちの親はこんなのだ

帰ってくるべきではなかったのか…?


「族長のあなたはオーガを嫁としオーガを生まなくてはいけないのよ

分かっているわよね?」


今まで発情していた周りの女オーガ達の雰囲気が一気に怯えに変わった

それほどまでに皆が思っている


母は怖い


両親の馴れ初めなんて聞きたくは無かったが

いやというほど周囲から聞かされた


族長であった父は各地を放浪していた


その間オーガの里は長が不在

収集がつかなく荒れるはずだが

母がいた


母は歴代のオーガの族長を入れても群をぬいて強かった

女であるのが悔やまれる程に…

彼女の強さの下にオーガは反乱など起こること無くまとまっていたらしい


そして誰もが父の婚約者として疑わなかった


父がふらっと帰ってきたときに母は父を捕らえ結婚した

一夫多妻のなか他に嫁になる気概のある女は他に居なかったので父に妻は一人だ


懐妊し難くまた、男の出生率も低いオーガだったが

「私は男の跡継ぎを生む」といって

一発で俺を生んで隠居した


母が隠居すると

その分抑えていた他の女の欲求が全て俺にぶつけられ

母に続けと俺に執拗にまとわりつくのだろう


そう考えると俺の生まれながらの強さは

族長の父のではなく母の遺伝だ

父のは放浪癖だ


母の強さにメルサは心の底から恐怖している


いや、俺ですら足がすくんでる



「お、大奥様、私は悪魔軍幹部メルサと申します

私は悪魔軍内部にて生涯を共にする伴侶がいる身

オーグン様には手出しなど出来ません」


うん?

メルサにはパートナーがいたのか?


テンの尻尾がピーンと立った

あ、今のは嘘だな…

意外と嘘は分かりやすいのか

でも、母とメルサは初対面…通用するのだろうか


「あら、うちの子があなたみたいのといて手を出さないと思わないけれども?」


「ハッ、ウィル殿とも契りを躱しましたので

我が主悪魔王に誓って」


メルサは自身の手に刻まれた魔法陣を見せる


「そう、そこまで言うなら良いわ

私が今からすることを邪魔さえしなければあなた達に危害は加えません

村でご自由にお過ごし頂いて結構です」


すぅっと母は息を吸い込むと

「皆の衆…」


魅力的な声という点では似ているが

以前のムーン様の包容力のある声とは違う


人を従える威厳のある声だ


「我が息子オーグンの貞操を奪った者すべてにオーグン族長との婚約を認めましょう

オーグンは私が此村から逃がしませんので」


貞操…ちょっとまった…


と言おうと思ったのもつかの間

きゃあああああ


オーグンに一気に群がるオーガの女

「お、おい!ウィル助けてくれ!」


ウィルは両手を広げ諦めのポーズをしている


「僕もオーグンレベルのあの人がいる村で

この数のオーガ相手には何も出来ないよ、はは」


はは、じゃねぇ!あの野郎…また楽しんでやがる


うぎゃあああああ



族長、自分の村での逃走生活が幕をあけるのであった

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