087:嚥獄合同ダイブ①

 『青龍』との合同パーティまでの一週間、日中は攻略ダイブをし、夜は日国に現れる怪と戦ったりと、普段とあまり変わりのない生活を送っていた。ここ最近は毎日嚥獄に潜っているし、ダイブ自体の緊張感というのはほとんどない。だが、少し俺の中で浮ついている気がする。その原因は『青龍』と一緒にダイブするということは分かっているのだが、この緊張感は特段嫌な感じはしなかった。


 今回のダイブは俺と瀬那だけということもあり、準備も元々購入していたストックで賄えそうだったので、特別買い出しするなどはしていない。ダイブ中の食事に関しても、黒衣が念の為と言って12日分作ってくれた料理をロックアップに入れてくれたので、こちらに関しても問題はなかった。


 それでも俺たちは警戒だけはしていた。というのもやはり気になるのは優吾たちの刺すような視線。あいつらは俺たちに対する敵対心を隠そうとしていなかったからな。ないとは思うが不測の事態を考慮して、念の為俺たちは色々なシミュレーションだけして、『青龍』との合同パーティに挑むのであった。




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「今日から6日間よろしくな!」



 俺たちが集合場所に到着して数分後に『青龍』パーティがやってきて、俺を見つけるなりハヤトさんは握手を求めてくる。その握手に応じながらも、俺は『青龍』メンバーの統制の取れた動きにちょっとした感動を覚えていた。それに気付いたのか、ハヤトさんは「俺たちは同じクラン内で合同パーティを組むことも多いから、統制を取るための訓練は良くしてるんだ」と教えてくれた。

 今回の『青龍』からは6パーティの合計35名のハンターが参加すると聞いている。その全てのメンバーが全く無駄のない動きをしているのだから、さすが最強クランと呼ばれているだけあるなと納得してしまうのだった。


 そして、俺との挨拶が終わると、ハヤトさんは隊列を組んで並んでいる『青龍』のメンバーを見渡して「これから嚥獄にダイブする」と号令をかけ始める。



「今回の目的は俺たちの未踏の階層でもある、27階層以上に進むことだ。しかし、みんなも知っての通り俺たちは一年以上26階層で足止めを食らっている。――今回はそんな停滞している俺たちの現状を打開するためにも、『清澄の波紋』さんに協力を願って27階層目より更に奥へと行きたいと思っている」



 ハヤトさんがクランメンバーに檄を飛ばす姿は、俺の目から見てもとてもかっこよかった。オーラは本来目に見えるものではないのだが、何故だかハヤトさんの周りがキラキラと輝いているような気がする。――これがカリスマ性ってやつなのか。

 確かにハヤトさんを見ていると、この人のところで一緒に戦いたいって思ってしまうから不思議だ。それと同時に、俺はこの人のようにはなれないな、と思ってしまう。

 そう考えるとハムハムさんも天真爛漫ではあるが、不思議な魅力に溢れる人だった。大所帯を持つ人たちは人を惹きつけるオーラというものがあるのだろう。



「今回のダイブは往路を4日間、帰路を2日間の計6日間を予定している。それ故に各階層をスピーディーに進行する必要がある。みんな『清澄の波紋』の詩庵くん、そして瀬那さんの指示にしっかりと従ってくれ」



 その後は『青龍』トップパーティの副リーダー、ミヤビさんから隊列や魔獣と遭遇した際に、どのパーティがメインで戦うのかなどの細かな説明があった。今回は急ぎということもあるので、戦闘に関しては俺たちにほぼ依存する形になっている。『青龍』メンバーは俺たちのサポートという形だ。

 事前に知らされていたと思うので、説明時に質問などはなかったのだが、『青龍』メンバーの視線からは、まだ俺たちを値踏みしているのが伝わってくる。

 彼らにしてみたら今まで自他ともに認める最強クランだったのに、こんな若造が突然自分たち以上の成果を出してしまったのだ。簡単に認めることはできないだろう。正直これに関しては口で説明するよりも、俺たちが実際に戦っているところを、間近で見せて納得してもらうしかないと思っている。




 ―




「配信で気になってたんだけど、詩庵くんが持ってるそれは何なんだい?」と嚥獄にダイブして早速取り出した『探るんだ君』を指差してハヤトさんが訪ねてきた。別に隠すことではないので、正直に『探るんだ君』の性能を伝えると、「そんなものを開発したのか!」と驚愕の表情を浮かべていた。その後「いいな。俺たちも欲しいな」と言っていたが、正直ハヤトさんやそのメンバーたちのことをまだ信頼することが出来ていないので、「来年くらいに一般販売されると思いますよ」とだけ伝えておいた。



 ダイブに関しては順調そのものだった。魔獣が現れたとしても、俺と瀬那で簡単に倒すことができるし、『探るんだ君』があることで下の階層に続く階段を素早く見つけることができるからだ。俺たちの手際の良さに、ハヤトさんはもちろん、他のメンバーも驚きを隠せない。



「お前たち本当に強いんだな」そう声を掛けてきてくれたのは、夏の海でライフセーバーをしていそうな浅黒い肌と輝く白い歯が特徴の人だった。


「直接挨拶するのは初めてだな、改めて自己紹介すると俺はセカンドパーティのリーダーをしている張本トシロウだ。気軽にトシロウとでも呼んでくれ」と白い歯を輝かせてニッコリと笑ってくる。


「よろしくお願いします。今回は依頼とはいえ、俺たちが主体になってしまい、ちょっと気まずかったので、こうやって話し掛けてきてもらえて嬉しいです」と俺は素直に本音を伝えた。



 その言葉を聞いたトシロウさんは「そりゃそうだよな!」と笑い声を上げそうになって必死に堪えていた。ダンジョン内で大声を出すと、魔獣を呼び寄せてしまう可能性があるため、緊急事態以外は大声を出さないのは鉄則なのだ。


「それにしても詩庵だけじゃなくて、瀬那さんもめちゃくちゃ強いんだもんな。正直自信なくしちまうぜ」そう言いながらも、全然自信無くしてなさそうな感じで、トシロウさんは陽気に笑っている。


「私も皆さんの戦いを見て勉強させてもらってます」と瀬那が返すが、これに関しては俺も完全に同意だった。


「いや、お前たちの方が圧倒的に強いだろ?」


「いえ、皆さんのパーティとしての練度は本当に圧倒されてしまいました」



 魔獣との戦いのほとんどを俺たちが請け負っているのだが、背後や横から襲ってきた魔獣に関してはどうしても初動が遅れてしまうので、『青龍』の皆さんにも戦ってもらうことがある。『紅蓮』や『猪突猛進』の連携にも驚いたのだが、『青龍』の連携に比べてしまうとまだまだ未熟だということが分かってしまう。


 その後も順調にダイブを進めて嚥獄ダイブの一日目は13階層まで進んで終了となった。セオリー通りで行くとボス戦の前に一日休むのだが、今回は短期間で進まないといけないので一気に進んだ感じだ。これには一部の『青龍』のメンバーから疑問の声が上がったが、ハヤトさんの「『清澄の波紋』の言う通りにするぞ」という一言で話がまとまっただのだった。

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