外伝 第1話  正倉院蓮の決意

私の央にはダイアモンドが宿っている。

原因、理由は一切不明。

意識を常に目標へ向かい続ける気持ちだけを支え、

いつの日から強硬な塊が宿り続けていた。

結晶という世界の中で何よりも硬く、

元から星という塊の上で生まれてきたもの。

動物の感覚としては金属などといった様だとは思わず、

人知れず体内に支えられて密かに輝いていた。

そして、世直しと一世一代の変革のため。

この塊も1つの役目を果たす運命がここに在ると。

私がこれから決起する事はそれだけ大きく、

また、人としての生業を超えたものになるからだ。


生きる意味はひたすら国に尽くす事。

人はその枠のどこかに必ず住んでいる。

使命、責任、重い言葉ならいくらでもあるだろうそれは

自身、かつて親からそう教え込まれてきた。

家柄は軍事。

父親が陸軍の1人で、自分も同様にしつけられてきた。

口癖は明鏡止水めいきょうしすい

己を定めて自己研鑽を積み、磨き上げる事。

時にはくじけそうになる事もあろう。

だが、死ぬ気でやれば何だってできる。

典型的な叩き上げの言葉ながら、

当の時代ではよく使われてきた。

敗戦から必死で立ち直り、現在に至るまで

まだ警察予備隊だった頃の父は戦後の混乱から

金属を熱して矯正きょうせいする如く、何が起ころうと

ひたすら国のために捧げてきた。

家系、流れで等しい理念をもつのも宿命か、

そう受けてきた私は自衛隊への道を歩いてゆく。

しかし、道というものは己の意思でも簡単に

求められない時もある。同じ性質、運命をもつ者との

関わりも巡り合わせる事も。

ある結晶との出会いが私の意思を動かした。



「ほう、これが?」

「サンセットファイアオパール。

 ヨーロッパの出店がようやく解禁されてきたの、

 今日来たのはこれを購入する予定よ」


 1990年、晃京ドームで開かれるミネラルショーに

いた私と妻、沙苗はある購入場で1つの鉱石に留まる。

というのは、妻がこれに関する商業者で、案内がてら

ついでに自分達も同行してきていた。

私自身、宝石や結晶の類はまったく関わった事もなく、

興味すら接点をもち合わせていない。

彼女の用件で今日はここに来ていた。

そこで1つ何かを購入するらしく、どんな物か

共に拝見するともう1つの空を切り抜いた様に

目を引き寄せられた。


「これか、何やら今まで見たことない色合いだな」

「実は私が事前注文していた物で、オークションなく

 ここに持ってきてもらったの。現地は危ない人も

 出回っていて直に買いに行けなかったから」


マフィアや裏社会の連中もこういった物に目がない。

安全圏の強いここで取引するのは良い案だ。

こんな小さな鉱石に価値を見出すのも何だが、

2~3cm程、夕陽を閉じ込めた様な橙色の宝石が

楕円形の央に収められていた。

が、値段が2,000,000,000と

売買という度を超越する契約だ。


「わあ、きれい~」

「これは・・・かなりの値がするぞ?」

「大丈夫よ、家からもきちんと承諾されているから

 家計に影響はないわ。売り手も実家で登録してない

 契約だから跡をつけられないようにしてる」

「そ、そうか。確かにこんな物を持っていれば

 泥棒などいくらでもやってきそうな雰囲気だ。

 今の日本さながら大盤振る舞いだな」

「円高も近いうちにすぐ止まるわ。

 ホールマーク制度も変動し始めるのを知っていて、

 ヨーロッパ方面からも買い手が出てくる」

「希少価値も国ごとに異なるのだな。

 安くなろうものなら買い手も増す。

 つまり・・・」

「今のうちに購入した方が有利。

 希少物がすぐ手前にあるものは早期に手に入れる」


妻は制度変革の合間に手に入れようとした。

ホールマーク制度はヨーロッパ貴金属を扱うシステムで、

日本物価が低下するスタグフレーションで

バランス変革が起こる前にこれを購入したいという。

彼女の家は大富豪のそれで、ポケットマネーの感覚で

買えてしまうくらい普通の買い物だ。

妻との出会いはヨーロッパ遠征、自衛隊派遣で

復興支援でやりとりするための通訳者だった。

海外派遣の流れで出会い、幾度も渡って今に至る。

何故、付き合えたのかと問われても迷う。

私も結婚当時は金目当てだの言われた。

決してそんなつもりはないが、言いようのない縁で

いつの間にか引き寄せられていたのだ。

今思えば、冒頭の語りが当たる。

話を戻すが、この時代の日本は目まぐるしい物色の最中。

日本は高度経済成長期より、世界中から物資を取り入れて

ありとあらゆる物流の渦を生成。鉱石に限らず、

我が物顔で持て余すように各国から資源を取り入ってきた。

そんなバブルというバベルの塔高理想の建造物を築こうとしたが、

1991年に潰える。バブルが崩壊した今、

他国が宝石を再び買い戻しに日本へ介入しにくる。

妻は予言とばかりそこを読み、早目に購入したいようだ。

しかし、今回の買い物はこれで終えると言う。

1つ気になるのはサンセットファイアオパールのみを

集中するように欲しがるところだ。


「ところで、何故オパールを?」

「「あれ、相当なポテンシャルをもっているのよ」」

「ん、よく聴こえなかった。何をもっている?」

「「ポテンシャルよ、ACの中でも類をみないくらいの

  祈念を行うにあたってかなりの性質、効果があるの。

  こんなに近づくだけでも私には分かる」」

「ポテンシャル・・・いわゆるお前の取り柄だな」


いつもより小声で発する。

妻は異界との連携で力を得られる事は知っていた。

神来杜、祓魔師ふつましとよばれる詳細不明の役職。

結晶に祈りを捧げ、念じる事で悪しきものを遠ざける

能力をもつ一族。古来から秘匿されてきた能力をもち、

人類を見守ってきた者だ。

私も自衛隊に入るまでは小耳にすら入ってこない、

出生のまったく不明なところが多く、

政府も彼らについて大きく干渉されてないらしい。

今日は何やら大層な御納めを施すらしいが。

値段が20億はかかるこの結晶を神来杜から

出資して払うという。

彼女の家系は表向きは宝石業者だが、通訳がてら

結晶の何かと精通する役割をもつ家でもあり、

特別な施しを執行する者である。

婚約条件も苗字を継ぐのが掟で、

私も懐事情が他家よりも複雑そうと内心意識。

結婚できた事自体が奇跡という他になかったそうだ。

そこいらのダイアモンドよりも遥かに上回る

オパールが存在するのも珍しい。

先で彼女の言ったポテンシャル。

意味は塊に刻み、世を願い続けるという。

最初は信じられなかったが、手品でもトリックでもなく

結晶内部で文字が刻まれていたのはこの目で見て、

現実として受け止めるようになる。

彼女の生き字引きが何より無知な私でも理解できる

証明なのだから。

ただ、少々引けを取る自分もいる。

鉱物という塊がどうして内側から何かが現れるのか

理解できないのだ。


「本当に何もかもが常識を超えていて理解が追い付けん、

 私にとってはまだ科学の見方が強いかもしれない。

 お前の御両親の前では言えないからな」

「まったく、まだ遠慮しちゃって。

 確かに根本は私でも説明しきれないけど、

 祈念は単に語りかけているからよ」

「語りかけている・・・そこの原理がどうなっているか

 分からないから不思議でな」

「普通からすればそうだけど、結晶は他世界と繋がる

 性質で凝結は距離も関係なく閉ざされた位相で

 意識も繋げてやりとりしているの。

 このオパールも何か訴えている。

 ある意味、“止めて”とささやいている気がする」

「とめる~?」

「世の中には怖い流れが起こるの沙苗。

 時にはそういうものを止めなきゃダメって」

「他星からの声か。常々不思議に思ってはいるが、

 宇宙を隔てた別世界と交信し、文明開化を保護し合う。

 刻印者とはそういうものなのか?」

「伝える役目も大事な要素よ。

 同じ地球でも、初めて外国人と面会したら

 言葉無しでも何かしらの交信を行っていたでしょう?」

「確かにそうだが、ケースがあまりにも遠くてな。

 まったく、世界が違いすぎて追い付くのも一苦労だ」

「意識が別のところにある人っているからね。

 身はここにあっても、心は異なる位置に滞在するような」

「「結晶への意思・・・」」


話によると、地球外にも意識をもつ者が存在し、

力の支えを補い合っていたらしい。

人間というのは現実より想像や思い出の方が

きれいに見えるから、消えかかる程意思はより強くなる。

現実に直面するほど陳腐化ちんぷかする。

私という男から観ても、女性の結晶感性は金額的価値

くらいだと思っているが、彼女は絶対に異なる。

神来杜家の具現化は未だに理解しきれない。

結晶というものは変わらない強さ、魅力をもつ。

岩石学を少しだけ読んでも追いつかずに、

今はそこで答えを止めている。

先は一部の者にしか見つけられずに

妻のような超越者が発見してゆくのだろう。

ダイアモンドが最も硬い・・・という話なら分かる、

婚約指輪は6点留めの型を買ってあげた。

不器用でどんな贈り物が良いかも分からない自分が

高橋隊長から教えてもらった事を実行するので精一杯。

税金を宝石に投資、集約するのが恥ずかしく感じてゆく。


「はあ、私は鉱石の在り様が程々でこの有り様だ。

 税金をこの様に使用するのも恐縮だ」

「どうしたのよ、突然?」

「い、いや、何でもない。

 そ、それよりも、よく物価を伸ばせたもんだと思うな」

「敗戦から復興した成果・・・と言えばそうね。

 まあ、私も少し不明な点も感じているの。

 国がここまで怖いもの知らずに価値を変えられたと

 懸念していたわ」

「国がか?」

「ええ、売れないリスクをきちんと考えているのなら

 むやみに商品を高値にしたりしないもの。

 “時代が変わろうとも代えられない価値”。

 政府は隠し棚をどこかで備えている節も感じるわ」

「・・・・・・」


さり気に読心された様だ。

実は自分も気掛かりに思っていたところであった。

政府は株価暴落が訪れるのをすでに予測している。

地価はいつまでも上がり続けられない。

しかし、内閣はすらりと予算を取り出して賄い、

万全を期したように配分を落ち着かせている。

不透明な出資は今回が初めてではないが、

補助金制度の疑問にとらわれる。

国も資金難が訪れると分かっているのに、

余裕ぶりを見せている感じだ。

妻はかっていた。

これからこの国は経済低迷すると。

しかし、潤沢とした日本はまだ他国にとって蜜の溜まりが

十分に残る所としてみなされている。

蜜が琥珀こはくに変わっても

さらに他により狙われる機会が残るもの。

私自身が結晶を内に宿す運命はここに訪れる。


晃京湾に数百人のテロリストが襲来。

私は高橋、武田、蒔村と共に縦浜区でそれぞれ対応した。

脚を撃たれ、身動きができなかった傍らにあった

黒いACにすがり付き、当時の状況を送る。

気が付けば敵兵は殲滅せんめつ

喰われるような音や蒸発したような音が聴こえ、

黒い蟲が一斉に辺りを埋め尽くしたのは覚えている。

当時の自衛隊幹部、防衛省大臣からの質問攻めに

連日を送る日ばかり。

私はただ、闇雲に抵抗したと述べるしかなかった。


さらに追い打ちをかけてくる。

妻のサンセットファイアオパールは盗まれた。

留守の合間を狙われてテロリストの一味が自宅を急襲。

奇跡的に沙苗と聖夜は助かった。

以来、ヨーロッパからの刺客は来なかったが、

安堵あんどを得た。

肉体的保護としていえばそのままの意味だが、

同僚や仲間達のサポートで一時難を越せた。

だが、敵は外から来るとは限らなかった。

まだ追い打ちは逃れられずに続く。

内なる魔が背中を削ぎにくる。


「蓮くぅん、君の発した珍妙な力で海外による懸念が

 より深刻な状況ぉにまで陥っている。

 ヨーロッパからのバッシングは止まない、

 私も対応にこれでもかと大いに苦しんでいるんだが」

「・・・・・・」


防衛省に移籍した後も、国からの追及は受け続けていた。

自衛隊引退後、すぐに上り詰めていた蒔村知事に

揶揄やゆされる。(からかわれる事)

元国土交通省を親族に置いていた彼が海外による波及を

懸念され、この呼び出しが場面の一端となる。

私が発生した黒き力は十分な検証も挙げられず、

日本で大量破壊兵器を嫌疑にかけられたと挙げてきた。


「蒔村都知事、何度も申しますが私も当時の事について

 これ以上答えられません。

 何かがまとわりいたと述べるのみです」

「先日だけでも海外から60件も問い合わせがきた。

 黒の何とかやらも、説明不十分だ。

 こちらでも擁護ようごに限界があるのだから」

「では、どうしろと?」

「立場だよ、立場さえ理解してくれれば良いんだ。

 組織の移転を考えてくれないか?

 キレイに体裁をつくろうのが時代のやり方なんだから。

 国も温厚に済ませたい」

「・・・・・・」

「できれば海外への移住を推奨するよ。

 亡命の申請なら私が手配しても良いが、

 よく考えてくれたまえ」

「「くっ!」」


テロリストを撃退したのに、反動は消えずに

海外からの波及は残り続けていた。

確かに力を発動したのは自分だが、本意ではない。

都知事は辞めろと言いたいのだろう。

責任を全て自分に押し付けられた。


「検討しておきます・・・失礼します」


拳を握りしめながら退出。

Yesとは言わなかった。

この国は何か1つでも問題が起これば責任を誰かに

集中させ、絞りにくる。

しかし、これは蒔村だけに限った話ではなかった。

政治界にも腐敗が蔓延まんえんし、

自身も耐えがたきを耐え、忍び難きを忍び、

濁った界隈に居続けてきた。

自分の胸を触れ、鼓動が正常か再認識する。

さらにある現象が起こり、予想もつかない運命が

再び起きてしまう。



「「聖夜に・・・あの黒き塊が?」」


この時、結晶に覚えのある者が接してくる。

頼りになるエドワード先生に検査してもらっていた。

彼と出会ったのは1992年のテロリスト襲撃で

治療を受けた時以来。妻が出産時にも担当してくれた

間で予期せぬ出来事も生まれる。

ここで妻は影響で耐えられずに死亡。

幸運にも聖夜は助かった。

しかし、先生は意外な話を伝えにくる。

そこでは予想もつかない真実が待ち受けていた。


「結論から伝えよう、君はダイアモンドの適性がある。

 世界でも極稀にしか存在しない強大な性質だ」

「私がダイアの力を?」


突然伝えられた鉱石に直ぐ納得は頭に収められなかった。

私はダイアモンドの適性、ACでも非常に高いものが

体内に宿ると言われた。それ自体は分かるが、

何故それが私の体内に宿っていたのか。

続きをうかがうと先の事件から判明したらしい。


「急患で君が運ばれてきた時に握っていたのは

 ブラックダイアモンド。だが、君自身は反対の

 性質となるダイアモンドの適性なのだ。

 無関係ならば手にしても反応は起こらない、

 もしやと思って検査したら判明できたのだ。

 それは間違いないのだな?」

「確かに、奇襲を受けて妙な黒い物は手にしました。

 もちろん当初から用いる気などあるはずもなく」

「君はテロリストの奇襲時に手に入れたのだろう?

 そうか・・・ならば双方の起因は必然的に?

 考えられるとすれば生命の消失の激しい領域に

 出現したのかもしれない」

「ええ、当時はどうして側にあったのかは分からず。

 わらをもつかむ思いで握りしめていました」

「ふむ、そうか・・・私の見解ではダイアモンドの

 性質は相当強力なもの。留めるだけの制御も難しく、

 力を奮い続ければ大きな反動が生じるだろう」

「ですが、力がなければ己の身すら守れません。

 気概だけでこなせる事ばかりではないんです・・・

 サンセットファイアオパールも――」

「気持ちは理解できる。

 君は力があれば身を守れると思っている。

 しかし、それがあっても身をほろぼす者もいる」

「・・・・・・」


私のACは世界でも比類なき分類のもの。

神来杜と縁を結べた理由もここでようやく分かる。

今さらこんな目に遭ったからどうこう言っても遅い。

橙色の結晶も妻がいなければ保有する意味も失い、

数年の時を進めていった。

しばらくの自問自答の日々が続く。


以来、先生との付き合いがここから始まる。

立場云々うんぬんでもなく、完全に個人としての事で

他においても様々な話を教えてもらっていた。


「人の意思と結晶がお互いに関わり合うのは

 どちらも凝結現象から寄せられたものだから?」

「うむ、意識とはこの世界からすれば電気的信号の

 様で結晶は無線機器の役割をもつ。仮説ではあるが、

 金属質には+-の性質を超越する可能性をもち、

 空間を省略する程に遠隔操作できるようだ」

「確かに人間が造った無線通信も電気を信号化して、

 離れた相手に連絡できます。ACはさらに高い性質で

 精神やエネルギーのやりとりができるわけですか。

 中に文字が刻まれているだけで・・・原理がまるで」

「そうだな、私でも全て解明ができておらん。

 一応、私的には存在の硬質化と呼称している。

 君にとって成すべき事は平和への理念を保つ事。

 献身的にこそ、

 永く争わぬ安泰あんたいを得られる事があるのだ。

 徳川家康のようにな」

「硬質化・・・」


この時は先生の言葉の意味がよく理解できなかった。

防衛省直下で常にもち続けろという献身的構え、

身を固める意味は風習でお互い結束しろといった

言い方をしていたに違いない。

安泰、誰よりも強く願っているのは自分だ。

現に、家を奇襲されて息子、娘を危険な目に遭わせたので

無力は恥だと私の時代で特に教え込まされた。

話ではヨーロッパ出身で高度経済成長期において

派遣参加してきたらしく、初めて会った時から日本語も

上手に話していた。ACへの見識も相当高く、

何かを追究しているらしいが動機はよく分からない。

安定化を徳川家康に置き換えたつもりなのか。

先生は話題を変える。


「先の質問の答えだ、志の高さこそより高質なACが

 身に宿るだろうと思う。ダイアモンド、実在する

 それもモース硬度10と最高クラスである。

 もちろん、きちんと証明できたわけでない。

 推論の域だが、私の観点から人の強き思念、

 意思の固さが異界の者に選ばれた可能性もある」

「・・・・・・」

「当時、君が黒き物を手にしたのはやはり偶然。

 光と闇の相互関係としか言いようがない。

 共有結晶による硬度が君の理念や思想に

 相反しつつも同質として反応したかもしれん」

「「私は・・・内心、混沌を望んでいたと?」」

「そうとは限らん、同質が同時に出現したかもしれん。

 後、もう1つ伝えなけれならない事がある。

 特に光と闇はAC界において非常に大きな性質で、

 さらに相反する傾向が強いのが分かった。

 周囲に多大なる影響を及ぼすだろう」

「なんですって!?」

「元々、ダイアが対になる所以もまったくつかめてないが、

 以上の関連性はみえないものの、

 君と息子をそばに居続けるのも危険性が高い。

 例の物はまだ体内に保有させておるのだろう?

 いつ、反発し合うか想定できんのだ」

「「なんという、なんという事だ・・・」」


ここで重大な話を宣告されるとは思いもよらなかった。

テロリストが晃京の港から来たのも理由があると言う。

サンセットファイアオパールを強奪しにきただけではなく、

国の中枢が関与する、とある逸物にあるという。


「後1つ気になっていたのだが、テロリストがどこを

 目標に狙っていたか。何故、縦浜にわざわざ来たのか

 気掛かりとなるところもある」

「そこですが、未だ特定できておりません。

 私の家が襲撃されたのもACが狙いだったようですが、

 金銭で貴金属を目当てにしていたとは思えなくて」

「うむ、確かにAC価値のある物が優先だろう。

 開発途中だが、X線のAC反応でおよその範囲を

 探してみた。これを観てみたまえ。

 調べてみると、重要区画が設置されているようだが?」

「まさか、ここは・・・晃京駅!?」

「テロリストが目指していたのはおそらくこの辺り、

 晃京地下施設ではないかと推測される。

 地下鉄の一角で入れぬ所はないか?」

「あそこは確か政府関係者しか入れない区画が。

 私も知りませんが、何の?」

「先に歴史の人物を挙げた所以がそこにある。

 徳川埋蔵金という伝説があるのだろう?

 そういった類の資源を調達しにきた可能性がある」

「内閣が・・・」


先生は国が資金を捻出する思惑を示唆しさした。

いざ、不景気が長引いても財政が保てている理由が。

だが、文化財保護法を資金に企てる事は禁じられている。

あらかじめ、内閣が、独占を。


「妻も似たような事を言っていた・・・。

 財源確保を文化財から・・・なんという事だ、

 すぐに通達を――!」

「待つのだ、私から伝えておく。

 君が報告すると後々の立場に響く。

 地層の見解から歪な理があると示唆しさする。

 地熱を装って高温石英を設置しておこう」


直接的な指摘だと隠蔽、隔離される。

国債の負担は地下から捻出していたのか。

いにしえの財源でまかない、来ると知っていた

不況を結晶の原価で自身の世代を凌ごうと、

いや、やり過ごそうとするつもりだ。


「何かしら検知技術をもつヨーロッパの者達が

 日本の隠蔽を暴き、横領しにきたのだろう。

 と推定すれば合致しやすい」

「「盲点だった・・・関連するのは国土交通省。

  おそらく都知事も現地を熟知しているはず。

  身の保全を最優先として不透明を生み出していた。

  内も外も・・・上も下も」」

「晃京に限る話でもないがね。

 知識者程、安全圏を保有する蓑を欲しがるもの」

「守りの要が腐りだし、理念の持ちようが定まらなく。

 私はどうすれば?」

「その点については君は気にしなくて良い。

 出来る限り睡眠時間を多くとるようにしなさい」

「わ、分かりました」


いずれは家族という塊もなくなると思うと、

大きな空洞が開けられるような気がする。

本来なら戻らなければならない家に、

脚が思う様に動かしにくく躊躇ためらいが強まってゆく。

沙苗に連絡して今日は病院に泊まる事にした。

特別待遇的な1日入院。

特別扱いは私も同じのようだ。

就寝灯だけは付けてもらい、寝台で横になる。

暗闇は相も変わらず慣れない。



自分は時々奇妙な夢ばかり見る。

夜のはずなのに、異様に空が明るかったり、

昼のはずなのに、空が暗かったりする。

月が太陽の様に明るく、太陽が光を失ったかの様に

セピア色になったりする。

浅い眠りに起こる意識の混濁こんだくが、

対の反転を真逆に交わらせて流れてゆく。



起きた。

意識は現実へと引き戻される、私がここにいるのは

紛れもなく事実。れっきとした地球の住人で、

それぞれの役目を果たすために生きている。

今日は都内の巡回で自ら視察する予定。

そして、晃京内を歩き、守るべき対象者を見回る。

数人のSPに警護されながら街を歩く。


「やってらんねーからバイトバックレた

 ●●に出演しただけで30万稼いじゃった

 あのサイトが気に入らない、荒らしてやる

 市県民税なんて払う意味あるの?

 ナマポもらってりゃ、安泰じゃね?

 今月はCD50枚買った、これでもっと認知してくれる」


周囲の雑音。

街の様子、雰囲気は人々で溢れるものの、音に違和感。

視察研修は義務感がこじれるように思惑する。

度々耳に入るそれらの内容はきくにえない。

守られる者の言葉は私のかんに障るなどと軽いものでない。

堕落、腐敗、負の思念ばかり混ざる様な内容の中で、

支えるべき民が軽く視えてくる。

死ぬ気の代償があまりにも失望へ塗り替わってゆく。

今まで何をしてきたのだろう、発展の先がこんな事で

命を賭ける意味がそこにあるのか。

発展させる道理があるのか。

諭してゆく潤滑があるのか。











  この世界は本当に守る価値があるのだろうか



 気が付けば、文化会館に足を運んでいた。

理由、意味は特にない。何となく世界の生い立ちに

自然と目が追ってそこまで着いていただけだ。

先祖達も創造と破壊の狭間に動かされてきたはず。

日本は核を落とされたにもかかわらず、

民主主義も独裁も理想の世界に近づけられない。


(頑張れど、頑張れど、いつまでも叶わない。

 一部の厳しさも今ではとどかないものもあるのか)


ふと、自衛隊時代を思い出していた。

常に周囲と合わせ、ホウレンソウをきちんとこなして

乱れぬ配列、整列が理想的な世界に思えてくる。

表も裏も無き、強硬な存在こそ統制がとれる。

せっかくの休日に、答えも見出せない自分が不甲斐ふがいない。

こんな時でも体の機能は常に回る。

展示物を横切り、トイレに行こうとした時だ。











「「「刻は止まる」」」

「え!?」


突然、声が聴こえた。

側には誰もいない、聴き間違えたと思いきや

幻聴らしい台詞にしては覚えがなさすぎた。

自衛隊時代の音感は鈍ったわけでない。

外部から誰かが大声で発したものなのか。

いや、防音設備でドアが開いたわけでもない。

どうやら反響はすぐ身近から巡り、

発生源は周囲ではなく自身の中からだった。


(声は・・・・・・私の中からだ)


そういえば、妻が似た言葉を言っていた。

遠い星にいる何者かが結晶を介して訴えにくると、

他人に気付かれずにひっそりと届かせる。

私の場合は体内に潜む位置から響かせてきたのだ。


(そうか・・・だから私にも)


当時、ミネラルショーで妻に言われた言葉が

今更ながらここで理解できた。

ダイアモンドの結晶を宿す自分にようやく御告げの様な

声が聴こえてくる。

巫女云々うんぬんの区別もなく、不特定多数の人間には

骨以外の金属塊が生成されているのだろう。

だが、止まるとは何だ?

刻とは時間を意味するものだと推測するものの、

そんな事を当然出来るわけがない。



 以来、硬質を秘めたまま人間社会を継続した。

そして、また蒔村都知事に呼ばれて勧告を受ける。

早く日本から出て行けと無心され、

総理大臣も次第に体裁を懸念し始めてゆく。

対する私は防衛大臣としての成果は大きくこなしたとも

言えずにそのまま生きてゆく。

大きな戦乱が起こらずとも事件で小粒に命は消え、

不況はいつまでも終わらず、自殺者数も減少せず。

人民どころか自分の身すらも守れやしない。

ただ、ダイアモンドの声は度々体内に響かせていた。

強硬 凝結 不可侵 破壊不可 停滞 平 和

単なる結晶の性質がいつまでも脳内に伝わり、

説得とも宣告とも判別できずに悩まされる。


(私だけ・・・何故・・・こんな言葉が?)


ダイアモンドから告げられた言葉と己の信念が並ぶ。

意思と石。

己の思想と言語が重なり、固まり、凝縮してゆく。

何だか頭が重くなる。

どうして、無関係な言語どうしが集うのか?

周囲から不審に思われないように姿勢を真っ直ぐ保つ。

その時、背後から声をかけられる。


「正倉院大臣ですか?」

「あなたは?」


参事会員で後ろ姿でも私だと気付いたという。

この人は晃京都旗の交換をしにきたらしく、

帰る途中で見かけたようだ。

あの旗は彼の先祖がデザインして代々管理しつつ、

役員を務めている。最近の近況はどうかと話をした。

最中、ふと思った事を聞いてみる。


「そういえば、あの模様はいかにして決められたのか?」

「先祖の話によると、あれは太陽の六方向から光を放つ

 イメージを用いて日本を照らすようにと決めたそうです。

 首都であるここだけに、輝かしき発展のためとして」

「太陽・・・か」

「晃京告示として今でも通用しているのかは定かでは

 ないと思いますが、経済が低迷しかけた今でこそ

 再起を図れる機会が訪れたら良いですね。

 亀の子マークなんて呼ばれていたりもします」

「真上からそう見えるからか」


彼の言う様に、近年よりずっと曇りが続く現代で

光の当てる機会も迷いがちとなる。

街の様子があんな風では私とて弁論もしきれない。

そこを懸念していようと場合は変わらず。

もう声が聴こえない、だからとはいえ自分との関係はなく

いつまでもこんな所で往生していられず、

顔を上げ直すと、旗が視界に収まった。


「!!??」


晃京都旗の紋様に目が留まる。

6角形より光を放つ様な6本の線。

中心の点は中心故に留まり、不動の如く位置。

模様は知っていたものの、今日の今で見て何かしら

印象が頭の中に入った気がした。

どこにもぶれぬ等しい波紋が静かに整う感じになる。

シンプルな装飾を表現しているだけの

まるで結晶みたいなもの。

動かない、動かさせない。

当然絵であるから不動たる物であるわけだが。

紫の背景に白い線の模様。

外見からシンプルながらも総掛かりとした説得で、

フレームに目を留まらせている時だった。





   死ぬ気でやれば何だってできる

   止めてと私にささやいている

   明鏡止水

   ダイアモンド、結晶は固まる

   世界を固める





「「止まれ・・・トマッテシマエ」」


止まるというのは平和的現象と想像。

世界そのものを止めてしまえば?

内心のしんから案が生まれてくる。

肥溜めの中にあろうがダイアモンドは不変。

妻に買ってあげたダイアモンドの指輪。

あの6点留めが都旗と重なり、

平和の象徴を想像し始めてゆく。

助言されて選んだ型は自分が果たせなかった



(6点留めは欠けにくく、しっかりと姿勢を保ち続ける。

 時は絶えず回り続ける。

 私の本質は空間を制御できる事)


意識を通じて思考が変わってゆく。

1~2点留めは支えが取れやすい。

何事にも動じぬ6はあらゆる方向を守り、

自分の迷いをどうにか振り払うべく

鬱屈うっくつがどこか理想への出口に向かう感じが

頭をザラザラと巡っている。


「「はあっ、はあっ、不干渉こそナニよりの平和。

  凝結した内在こそ動態の完全制御ォ」」


人間は自由をたがえ過ぎた。

脳内に電気が走る様に役目の囲いを決定付ける。

ダイアモンドの適性とは刻の停止。

この性質、力の存在意義を絶対に絶やしてはならない。

これでようやく自分のやるべき道が明かされた。

己に内在するしるべは時を凝結するという事。

世界最高度の塊で世を包み、正し、乱れぬ空間を

形成する御題なのだ。


「ど、どうしたんですか?」

「い、いえ・・・大丈夫です」


不審な態度をしてしまったか、様子を聞かれる。

正体は気付かれていないから問題はないだろう、

この思想は突然ながらも重要な意味をもち、

今後の使命としてずっと懐に閉まっておく。



以来、さらに時を進み続けてゆく。

防衛大臣に就き、権力ある立場についても

まだ止まるわけにはいかなかった。

ただ、1人のみでそのような事ができるのか

確信にとどいていない。

とある某所のホテルで度々落ち合っている。

仕事以外はほぼ、ここで皆と会談している。

外部に話が漏れる心配はないが、

今日は珍しく無影師範が訪ねてきた。

武道を教え込まされてきた昔話など、

積もる話を通り越して人生の過程を分かち合うように

話し合う。はたから見ればただの会合。

それなりの立場となれば職務以外でも他業界と接する

機会は普通に与えられる。

そして、苗字の由来について聞かれる。


これは1993年にあった話。

突然言われた理由は神来杜という語が珍しいようで、

今まで疑問に思った事を当時で話した。


「神来杜は巫女の様な役目だというのか?」

「はい、様々な条件付きの下、めいを妻の側として

 継続する事が向こうとの承諾事項でした」

「結晶の生業、儂と同じ構成か。

 聞いた事はあるが、どこの末裔まつえいだったか。

 宝石商の者か?」

「そうですね、海外遠征で縁をもち今に至りました。

 ただ・・・今はおいそれと神来杜を出すのが

 遺憾いかんに思えています」


師範も家系とどこか接点をもつと覚えがあるそうだが、

正倉院も神来杜も生い立ちが分かっていない。

ACという世界から秘匿されてきた存在を司る家柄に、

末裔が辿る事すら困難な道に違いはない。

向かいから小さな凬と共に発言した。


「うむ、そうだな。家が違えど、志は等しきしるべ

 教えが培ったようで何よりだ。

 武道より鍛錬された臓結晶には少々興味がある」

「本当ですか!?

 あなたに気概があれば是非とも!」

「後、儂からも案がある。正倉院の名を貸そう」

「師範の苗字をですか!?」

「神来杜のままでは辿られるだろう?

 あくまでも、身を案じてだ」


苗字を変更するよう勧められた。

スキャンダルやAC関連を狙う者が必ず現れて

家族にまた被害が及ぶ。沙苗に任せて家を出る決意も

こうして2人のために忍ぶ他になかったのだ。


そして、現代に戻る。

彼も世界最高峰たるACを宿し、巡り合わせもある意味

必然的にそうなったのかもしれないだろう。

師範は天藍会、政治家などの有権者を主に警護する

寺院を拠点とする組織。

神来杜以外でも結晶をまつわる一派がいて、

当時はそういう類の所以ゆえんは聞かされていない。

理由は何となくだが師範の適性も知りたくなる。

エドワード先生の機材で確認、

ここで新たに驚異的なACが判明。

師範はエメラルドの適正者だった。

念を入れて確認をとると世界最高峰、

四大ACの1つなのが明らかになる。

ダイアモンドもそれらの1つだ。

私の素性を話すべきか。

えにしを信じてあの計画を少し漏出した。


「新たなる再構築世界?」

「はい、私今・・・体内にある結晶を宿しています。

 内より声は、歪な現状をこの力で変革をもたらす

 計画を考えています」

「・・・・・・」


正直に打ち明けた。

正直、師範は理解していない面構つらがまええだ。

説明が荒唐無稽こうとうむけいすぎたか。

自分は出来る範囲で語ったつもりだが。

約30秒くらいの沈黙。

この人は基本、何を考えているのか理解できない。

だからとはいえ、私もまともな説明や事情もできていない

間柄で互いのキャッチボールの再確認が必要だ。

結晶は常に資源価値をもち、人を魅惑させる惑物わくぶつ

星も塊であり、重力の網でき付ける。

天藍会もよくACを狙う者が絶えず、

従うフリをして物色する輩も度々いるらしい。

確かにもう神来杜を名乗る資格もなく、

家族を形成する事ができない失格者。

こちらは断る理由はないが、余程に肝心な理由。

家族について懸念があると師範は述べた。


「代を継いできた経験においても、希少物は

 いつの時代でも数多あまたより気を引かせる。

 ヨーロッパからの介入がないとは言い切れん。

 それに息子がいるのだろう?

 彼にも再び凶行の手が来ないとは言い切れん。

 同類たる異端者などがまた君を狙ってくるだろう」

「確かに・・・」


聖夜の黒は接近しようものなら、再び噴き出してくる。

自分は承諾し、正倉院を名乗る事を決めた。

20になった沙苗に預けている。

生活費も毎月振り込み、生活は保障させているが、

ダイアモンドの件は一切話していない。

聖夜に真実を知られる恐れもあり、私と同じように

社会の迫害などで自害される危険もあった。

そこで迷いなくあの計画を打ち明ける。

師範は条件付きで受け入れて、組織に加入。

また1人=1つのかけがえなき者が寄せてくれた。



こうして、また月日は去ってゆき、通常の生活を送る。

さらに新たなメンバー達も加わった。

海外派遣のビ・エンド、教会のジネヴラ・アヴィリオス、

息子と同じ学園の白峰光一も私の思想に参加。

少しずつ賛同者を増やし続けてゆく。

時を経て、より強力な鉱石に刻印を刻み、

エドワード先生にサファイアの適正。

ジネヴラにルビーの適正が次々と明かされてゆく。

試行錯誤さくごを幾度もこなし、そして

ダイアモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの

四大ACの精製に成功した。


とはいえ、無影師範の言葉に胸に突く。

異質なる力を求めて自分を狙ってくる。

決して逃れられない宿命をどう克服するべきか、

防衛大臣に相応しい働きかといえば多少の否定が入る。

姑息こそくなネズミの様に立ち回る事をしている

今の自分など、どうでも良い。


後、もう1つ重要な課題も残る。

ダイアモンドの勅令をいつどこでどのように起こすのか、

計画もまともに立てられていない。

平和のためとはいえ、完遂までのルートを設計できず。

刻を止める場所はどこで行うべきか?

元から困難を極めるものであやふやに迷うところ、

エドワード先生から意外な場所をもたらされた。


「絶対防壁、アブソルート?」

「金環日食時に大いなる異界の連携として支えとなる

 アンテナ役といっても良い」


2012年、5月21日に日本で発生する金環日食。

太陽と月の視点が重なる事で結晶の効果が最も増幅する

時期だと指摘された。

しかし、途中で邪魔される危険性も当然あり、

先生の絶対防壁内で行う方が安定するようだ。

さらに、ビ・エンドのポリカーボネート障壁を

晃京周囲に張り巡らし、維持する事で

計画を成功させる根城を提案される。

ダイアモンドからさらに強固な七色に輝く壁は、

核ミサイル直撃すら不可能な程強固らしい。


「そのような仕様は一体?」

「現代兵器の砲撃すら破壊不可能のそれは

 かつて、星の偉人と交わした設備といわれている。

 紛争から身を守るためと書いてある」


同時に星に対する掲示でもあり、

計画推進を大きく促すものであった。

仕組みはまったくといって理解できない構造で、

女性の血から生成された性質だという。

アブソルートは古来に避戦地として居住区を

設けるために生成された。

しかし、誰でも開発できる代物ではなく、

教会はまだ製法を知る者がいるものの、

実際に造れず選ばれた資質のみ構築可能な存在なようだ。


「そこに生成が可能なのがダイアモンド適性者、

 私の央にそんな能力があるとは・・・」

「ダイアモンドは確かに最高度を誇る。

 女性の血に限る条件はまだ不明だが、

 介入できるのも、またダイアモンドに限るようだ」

「私と同類の何者かが圧倒的な防壁を築いたのか。

 歴史上にもダイアモンドの適性をもつ者がいたとは」

「医学からして数滴の血液と結晶の混合で

 細胞分裂を起こす様に増幅するくらいしか分からん。

 また、新たに判明したら伝えよう。

 この本を読んでみるといい。

 専門外でも理解しやすくなるだろう」


入門書、らしき文献を受け取る。

しかし、内部で生成すると外出時に奇襲を受けるので

施設を借りて複数のACを実行日に適性者を招いて

1人ずつ理想世界を築く事を立てた。

そのためには電気エネルギーが必要であり、

それを晃京のどこかに備えてゆく必要もあるという。

防衛省直下の設備は無理、直に指示を出そうものなら

すぐに発覚される。

思えば、組織結成から彼らに助言されてばかり。

世界最高のACを秘める自分が身にもちつつも、

ろくに結晶を知らないというのも少々恥だ。



 そして、またしばらくの月日が流れる。

組織は少しでも多くの賛同者と結晶追究のために、

アブソルートから次々とACを生み出してゆく。

そこには常識を疑う性質、能力が発見されて私の頭も

理解が追い付かせるのに一苦労しがちだ。

もう常識の通じない世界に居る。

分かっていたが、目に入る情報があまりにも奇怪。

エドワード先生から借りた本をきちんと少しずつ読む。

そう鑑みつつ文字を辿っていくと、

見慣れぬ単語が目に付く。


(オリハルコン・・・)


という単語が目に付いた。

現実には存在しない鉱石が記載されているのは何故か。

話によると、古代ギリシャ、ローマの文献に記載された

物語で書かれた造語らしい。

理想を形にする未知のもの。

ただ、実在しない物に考慮しても特に意味を見出せず。

これといった事情がなく初めて知ったものの、

あくまでも想像上の存在。

個人的入れ知恵はないが、意識の底に沈めておく。



 2011年、11月を迎えた。

政府は自衛隊、軍備縮小の方針を行うと言う。

防衛省とて全てが自分の意思で賛同するわけがない。

慎重に事を進めていこうとしのんだ。

だが、ここで予想もつかぬ展開が起こる。

自衛隊らしき組織に待ち伏せされていた。

自分の指揮下ではない。

“防衛出動”の権限から内閣が発動したに違いない。

高橋か武田かが迂回して上に通達を出したようだ。

よって、ACは晃京各地に散開。

砲撃の一部を受け、散り散りになってしまった。

もし、私を嫌疑にかけているのならば

いずれ隙をうかがって自分を拘束してくるはずだ。

超極秘裏に派遣で呼び出したビ・エンドを回らせて

防衛省外の対策をとろうと図る。


また思わぬ情報が入ってきた。

聖夜の同期がACの回収を依頼させる。

それを機に、本格的な結晶との関わりをもつ。

予想していたのと違い、時期早々だ。

報告によると、暴動者排除に悪魔召喚の実験で

エドワード先生がスケルトンの召喚を一部誤り、

学園に向かってしまったようでエンドを配置させた。

公共の場は人の出入りが多く、かつ息子の動向も

見やすいのでおあつらえ向きだ。

どういう訳か、首都高速道路にいたのは心外だが。

エンドにアメジスト回収がてら近づかないよう

気を配らせたのが慎重を要する。


私も結晶の知識を多少蓄えなくてはならない。

先生を始めとした優秀な者達も集い、振り回されるのは

リーダーとしても適さない。借りた本にも目を通して

読み進めると、もう1つの架空物質

ミスリルとよばれる鉱石が書かれていた。

これも非実在物質で、海外作者が現実的説得として

ファンタジー小説の設定として作られた造語だ。

それにしても、人とは随分と想像豊かに結晶を思いつく。

確かに想像、意思より繋がりを求めて形成されるが、

実際は金銭的価値、工業価値くらいのはず。

賛同とは一体どういう要素が含まれるのか。

異界の従者は何故我々に訴えてくるのだろう。

ジネヴラと白峰が近況を語る。


「ボス、お身体のダイアモンドは本調子で?」

「私はずっと変わらん、来たるべき日のために

 いつでも本懐を成す覚悟はできている。

 聖夜も大分、ACと馴染んでいるようだが。

 ところで、教会の意向はどうなんだ?」

「相変わらず都庁解放の方針を変えてないようで。

 でも、私がいる限り中に入られる事はありません。

 聖夜君の熟成も5月までには間に合わせます。

 妹も、いずれは私が関与してる事に気付くでしょう」

「彼女はこちらに来る意思はありそうか?

 できれば、彼女も我々の下に加わってほしいが」

「そうですね・・・来るべき時に私が説得します。

 あ、それから新たな適性者を見つける方法が

 あるそうです」

「更なる方法が?」

「ええ、刻印をインターネット上に表示して

 観た者の眼から適性者を見分けられる術です」

「そんな事も可能なのか!?」

「白峰君のアイデアを不特定多数の中から

 適性者を選出する方法を編み出したようです。

 エドワード先生の手助けもありますが」


彼は文明の利器もACに利用する方法を模索。

図書館管理者の息子で刻印を目視して、

当日に肉体を停止させずに選ぶようだ。

眼は水晶体を含み、クォーツ内にある刻印を見せると

視神経を辿って体内の金属性を調べられるという。

しかも、きちんとしたサイトなどではなく、

端々のコメント欄でも効果があるようで、

今文明の粋を借りて招集効率に拍車をかけられた。

眼圧測定とばかり、悪魔の検査もここまでくるとは。

いや、異界の者だ。

自分に言い聞かせるように妻の語源へ立ち戻る。

AC集合体の行き先、顕末けんまつに何が迎えるのか。

後、気になるのがジネヴラの妹であるマナを

この組織に加入させるかどうか。

実姉が招くのが当然だと推測するが、白峰が誘うと言った。


「僕が直接招待しましょうか?

 図書委員のよしみもあり、

 誘いやすいポジションに位置しています」

「紛れて変な事するつもりじゃないでしょーね?

 あんたがスケコマシなの知ってるんだから」

「な、ナニを言うんですか!?

 僕は同期として肩を並べようと思ったのが動機で――」

「ゴホン」

「あ・・・ええ、すみません。

 対処につきましては私が直に当たります。

その時は・・・その時で」

「そうか・・・」

(女は着眼点が違う)


今のやり取りはともかく、招集はメンバー達に

引き続き任せておこうとした。

対して、こちらの双対たるダイアモンドの都合は

きちんと成せる段取りを備えているのか不安も否めず。

エドワード先生の供述のまま従い、最硬度どうしを

アブソルート内で重ねて合わせる事で計画は成就。

肝心の聖夜は都合よく引き受けるだろうか。

黒の力は侮れない。

私ですらまったく制御が及ばずにみるみる溢れ出し、

テロリスト集団の体液を吸収しきった恐るべき

破滅の情勢を白の力で均衡を図る。

もし、息子が拒否して同じ動向となったら・・・。

まだ考えない事にする。

映像刻印についてはジネヴラと白峰が対応してくれる。

ネットを介して4月1日に公開するという。

架空と空想の交わる要素の果ては現実か、虚無きょむか。

無影師範も天藍会を離脱。

私の組織に参加表明をして頂いた。


「もう少しで我々の塊は成就を果たせます。

 師範がエメラルドの最適性となった事に、

 光栄に存じます」

「風を理解しきれるのは儂しかおらんだろう。

 が、武士道はもう必要のない存在となる。

 居場所はすでに限られてこよう」

「そうでしょうか?」

「例えばだ・・・人体にとって要らぬ角質が出ると、

 皮膚から溢れるあかを削り落とすには?」

「硬質化した物質でこする」

「という事だ。

 効率とは無駄をぐ事。

 取れぬ瘡蓋カサブタは何であれ、

 擦らねばいつまでも本分まで重しをもたらせる」


有機物は無機物と違い、老廃物を生む。

組織結成から異なる生い立ちや様々な視点で

一癖ある師範の話も直ぐに理解できるようになった。

結局は一種の武力介入で変えてゆかねばならない。

戦場に英雄など存在しない。

歯車がせめぎ合うだけだ。

そう、架空だからこそ実現への道を求め、

犠牲をもってしても踏み固めた道を歩くべき。

死ぬ気でやれば何でもできる。

組織名も新たに命名。

新たな力を得た今、本当の意味で防衛する義務と使命を

世界の救世として果たす刻を待つ。

真の平和へ近づく機会をここでこそ生み出すべきなのだ。


「後は太陽と月の重なりを待つのみ」


本当にこんな現実を迎えるなど思っていなかった。

九死に一生を得たあの日から、もう運命は定まり

生きる重圧で質と心は固められてゆく。

もう止められない。

2012年、5月21日7時34分。

全てはこのトキにより世界は変わる。

結晶こそ我が理想に相応しき世界なのだ。


「息子の覚醒を待ち、変革の刻を待とう」


白峰光一、ビ・エンド、ジネヴラ・アヴィリオス、

正倉院無影、エドワード・エルジェーベト。

等しき境遇より選ばれた者達へ、

かけがえなき御石のメンバー達に号令をかけた。











「我々はオリハルコンオーダーズ。

 歪なる世界を静寂に導く者なり。

 並進対称性に整う固の配列こそ、真の平和である」

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