最終話  聖晶を胸に

「俺は帰る!」


 自分はどこにいるのかも分からない相手に叫ぶ。

奥から問いかけてきただろう結晶の従者に、

本音を打ち明けた。

応えは断固拒否。

ここで生涯を終わらせるつもりはない。

何者かがいるだろう、この世界の主に

確固たる意思表示を伝えて静止した晃京を

解放するよう訴え出た。


「俺は・・・いつもの生活に戻る。

 ダイアモンド云々うんぬんじゃない。

 塊じゃなく、人として帰るんだ!」


言葉が通じているのかは分からない。

おそらく頭の中へ語りかけたのなら、仕組みうんぬんなど

細かく考えずに胸の内から返すまで。

結晶が広がるここで様々な色彩が周囲をうごめく中、

ありったけ思いをぶつけた後に渦は動き始めた。


「お前が何者かなんて、どうでも良いんだ!

 止まった世界をまた動かす!」


態度はこんな様子でも相手に伝わらなければ意味がない。

でも、時に影響を及ぼすダイアならばまた元に戻せる

可能性もあるという事。

日本語で言ったつもりだが、反応はどうか。

返答がない。

どれだけ広いのか、この巨大な空洞の色彩が

目移りしそうになる直前、動きが現れた。


(・・・・・・来る!)


返事とは打って変わり、言葉ではなく動作。

周囲の結晶の色が白、灰色へ変化した先に

無数の白金の人体が床から浮いてきた。

攻撃するつもりか、相手の意思が見えない。

ただ、普通に歩いているだけの仕草なものの、

体当たりをしてくる。

これは攻撃といえるだろうか。


「これが返事か? こんなもの、日常茶飯事だ!」


何がしたいのかよく分からない行動に、

自分もついトリックに引っかかりがちになる。

だからとはいえ、こんな芸術作品を観に来たのではなく、

相手の思うように促されるわけにはいかない。

結晶界の主でよほど特殊な仕掛けをするだろうと

とっさに避けた瞬間、遠くから音が聴こえてきた。



プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


どこかで聴いたような音と同時に細長いモノが横切る。

人の頭を模したヘビの姿と分かるおぞましい存在が現れた。

カエルになったつもりではないが、

白目の無表情でこちらを見ている。


(この世界の主・・・じゃない)


誰かが操っている模造石の類だと気付く。

説明できずとも、原動力が結晶でも意思が見えずに

自身の心臓がオプションの一種と告げていたからだ。

こんなものに付き合うわけにもいかず、

自分も再回帰した能力で対抗する。

だが、ミストルティンはまだ重く満足に振れない。

とにかく他の能力で凌ぎ、

元凶がどこにいるか見つける事を先決。

ヘビ型の頭部に穴が開く。

おそらく取り込ませて支配するつもりだ。

高スピードで迫る物からグリーンフローライトで回避。

相手も追うようにジグザグ移動を続けて惑わせる。

避けた先をよく見ていたのか、足の着地際の直後だった。


「向きを変えた!?」


つい、リビアングラスを発動してしまい

とっさに避けるも、急旋回で思わず脚を取られて転倒。

このヘビで取り込もうとするつもりか、

覆いかぶさろうとしたその時。


赤黒い結晶が自分の前から発生。

ヘビ型は奥へ引っ込み始める。

黒い球体が現れた。


「静江・・・京香!?」


同級生の2人がさえぎってくれた。

死してもなお結晶を借りた媒介で身をていしてもらう。

リリアによって病院で吸い取った血の味も、

どことなく彼女達を示唆しさするように、

そこにいた様な感じはした。


(皆が・・・俺に)


胸の中にあるダイアがあらゆる性質のAC、

性質を生み出す何かが湧き上がってきた。

来る前にも、マナが言っていたサポートが

発揮されているのが分かる。

いるのは彼女達だけではなく、思念を交わして

全てを自分に向けて収束させてくれた。


ここで戦っているのは1人じゃない。

結晶を通じた能力や恩恵、思念は胸を通じて

確実に自分の源には晃京の人達が宿っていた。

改めて奮闘を図る。

複数のACを解き放つ力が次々と湧いて出る。


「俳優の人、力を貸してくれ」


白蛇の蛇行をリビアングラスで反射してかわす。

決して遅くない相手でも、速さはこちらが有利なので

光速でよけてゆく。

しかし、空中は足場や障壁もろくになく

跳ね返った先も有利な位置が取れない。

たとえ空中であろうと今の自分はもうどこにいられる

形を生み出せる手段はある。

かつて、自分の脚を止めた者の力があるからだ。


「福沢先生、頼む!」


マーブルの白で空中に障害壁を発生。

学園地下でお仕置きと称されて閉じ込められた

力を発動させ、周囲に直方体をいくつか展開。

リビアングラスの反射留めに足場を追加して

猛攻を防ごうとした。

咬みついてくるかと思いきや、口は開いていない。

何をするつもりか襲っている様子には見えるが、

殺しにきている風には思えなかった。

突進を垂直にジャンプして頭を踏み、上に逃げる。

平地だとすぐに巻き付かれて囲われる。

場数を少しでも増やせば安易に接近でいない。

だが、ヘビ型は間をくぐり抜けてくる。

細長いものはどこまでもうねりながら隙間をくぐった。


「拓男ォ、お前の力も必要だ!」


メタモルフォーゼスで分身を精製、

ターゲットをらさせてAC発動に時間を

費やせる機会を生み出す。

外見に囚われて姿を変えようとした男、

拓男の追求したアバターは自分にとって

複数のデコイとして放った。

手口は確かに恐ろしく、下界では禁忌を起こしていたが

今では人の事を言えずに解決のために使用。

ヘビ型は迷いかけ、本物の自分を見失っている。

こちらの手順に気が付いたか、周囲からさらに

目玉の球体が複数浮かんできた。


「透子ッ!」


アンタークチサイトで猛吹雪を発生。

余りの球体を氷漬けする。

事件当時は直視したわけではないが、

彼女の通念は胸を通して伝わる。

だから、複数のてつく放射は

代替するかの如くここで晴らしてみせる。

それにしても、こんなモノをけしかけてまで

何をしたいのか目的が不明だ。

自分を招き入れた理由がこんな結晶物を見せつけさせ、

取り込ませる事だったのか。

相手は受け入れろと言った。

ここで殺しても何のメリットもないはずで、

殺傷するためではなく別の意味があると踏む。

何かしら試されている気がした。


(どこかで俺を視ている)


やたら人工物を自分にぶつける意味とは?

戦闘態勢といえばその通りに見えるものの、

殺傷行為をする感じにも思えなかった。

ダイアモンドは世界でわずかに適性すると教わった。

向こうの世界においても必要不可欠な価値があるのか、

堂々と自身の姿も見せずに丸め込もうと。

そして、あらゆる結晶を操って相手しているだろう。

今見えなくとも、すぐ近くにいるのは分かる。

肉眼に頼らず、ACの目で正体を探った。


「光一ィ!」


オブシディアンで闇を広げる。

自分と同じ属性だった力を別系統から発生させ、

晃京の隅を見渡していた能力を用いて探す。

この性質は特に大きな効果を発せられたようで、

ブラックダイアモンドと大きく掛け合う様な

ブラインド効果の相乗を試みた。

もちろん、目で見ていない。

自分は溶けてざる暗から、闇を区別して

異なる存在を認識した。


(あれが本体か?)


10mはある暗黒とよぶに相応しい球体の真下から

人影が浮いている。

オブシディアンの力で結晶界の主らしき者の姿を

映し出せた。同じ人間だったのか、散々弱みを握り

多くの人をけ込ませていた創造者らしき者がいて、

おそらく自分のACもずっと付け狙われていただろう

闇の剣を引き出した張本人で間違いないだろう。

今一度声を上げて叫ぶ。


「あんたがこの世界の支配者か!?

 俺、いや、俺達は絶対ACに取り込まれない!

 人は・・・ただの物なんかじゃない!

 意思をもって星に生きる者なんだァ!」


人は確かに誰しも欲をもっている。

でも、同じく望みももっている生き物だ。

ACそのものに善悪は無いかもしれない。

欲を反映させ、具現化させるまでの恐ろしい力を

ところかまわずに分け与えてきた。

ダイアモンドという最高峰の存在が人に多大な

影響をもたらすならば、代表格らしく良い方へ

変えるだけ。

気持ちは変わらずに主張。

それでもヘビは動きを止めていない。

暗闇でもお構いなく平然と移動しているので、

これは大して効いていない。

この結晶界の主も黒の塊そのもので、

返って闇を誘引する危険がある。

当然、相手は再び自分を取り込みにかかるはず。

以前ならそうなっていたけど、今は違う。

闇以外の加護をもっているからだ。


(今なら・・・できる。この剣は、いや、この剣も)


ミストルティンの柄を握りしめて引き抜く。

以前のような重さはなく、拒否された様な具合は

すでに消えて黒い衝動も外側に追いやったものか、

感覚としては皆のACの力で支えられて持った感じだ。

自分の状況を気にせずに相手は螺旋らせんを描き、

取り込もうと巻き付こうとする。

胴体の上に登りなけなしの腕力で振る。

中腰の姿勢で光木刀をどうにか支えながら突き刺す。

ヘビ型を打ち砕いた。


(効いた・・・?)


確実な効力をもたらしたようだ。

無心で動き続けてたのでよく見えなかったが、

木の筋から発した光は硬い結晶に大きく影響を与えた。

結晶の長らしき相手でも、弱点があるのか。

ただの木刀でないのは今更で、

たった1つの剣を握りしめてACも頼る。

負けられない、結晶の統率者であろうと人の自由、

そして、意思までこれ以上侵されるわけにはいかない。

おそらく自身に宿る黒い力で支配するつもりだろう。

焦燥感は否定しない間で、構え続けるのみ。

予想通り、次はカメの様な甲羅が丸くなった物が

前方から浮いて現れた。

しかし、頭がない。

まるでメガホンに似ているも、次の手に気を緩めない。

甲羅が分裂して散開を始めた、すると。


「Hsbfhvyrikazolemnfubcjdg」

「がっ!?」


声を上げている様にも聴こえるが、言葉の一片すら

まともに拾えないくらいひどい。

音で狂わせるつもりか、思念を耳から入れさせようと

今度は精神攻撃の一種でかかりにこようとする。

先から自分を受け入れろと言うのも不審に思う。

狂人一歩手前だった自分に何の意味が?

40m離れている発信者に訴える術は、

広がるくうに弱点とよべる箇所が特定できていない。

しかし、通信を断絶させる術はまだ残っている。

自身に秘める力をさらに放出した。


「マナ!!」


インペリアルトパーズの雷で1機ずつ撃ち落として阻止。

こちらも世界有数のACで強力な放射を発する。

だが、破壊による停止は見込めない。

石は元から電気を通さないくらい学んでいるから、

耐電くらい対策されているかもしれない。

黄色の分裂する炸裂線は場の支配を超える様に通し、

相手も察知していたようで物体を避け始める。

何か膜の様な物を広げ始めて防ごうとした。


「厘香!!」


ラピスラズリの風を放出、調和の凬とよばれる

男とは違った能力も援護して放出してもらう。

等間隔で分かたれたカメ型の位置を変えてゆく。

それでも動こうと抵抗する分解体に、風圧だけでは

抑制できそうにない。さらに抑える術はまだある。


「カロリーナ!!」


一か所にまとまりかけているところで

パライバトルマリンで収束させ、固める。

氷漬けで音を出さなくなり、

透子の力もさらに加わったようだ。

マーブルの出が少し悪くなりつつある。

ならば、氷を足場に目標へ向かうのが良手。

反動で上に立ち、風で足場を動かせて黒い球体へ向かう。

もう少しで本体へ接近できる。

主が何者なのか、別世界の悪魔、いや、自分達と

同じような住人か。新たな邂逅かいこうに恐怖心も否定できず。

ミストルティンを上に構えた瞬間だった。



「なっ!?」


突如、大きな口が目前に現れる。

事前にここに辿り着くと察知されていたのか、

空間から飛び出して待ち伏せされていた。


ガリィッ


「ACがァ!?」


嚙みついていたのは自分ではなくAC。

慌てて複数の力を発動しても食べられてゆく。

離れようにも足場が揺らぎ、他は遠くに行ってしまい

逃げられないのでどうにか能力を発動したが、

あらゆる属性も通用できる状態にない。


バリィン


ACが崩壊、砕け散ってしまう。

皆のACが次々と破壊され、対抗策を潰されてゆく。

進路も退路も塞がれた今に、取り残された自分は

孤立無援のままをまとわされている。

やはり、結晶の主に挑むのは無謀なのか。

たった1人という1つの塊がダイアモンドといえど、

敵う事はできないのか。


「「終わるのか・・・俺・・・みんな」」











ドバッ


口から細かい砂が吐き出されてゆく。

砂、という表現しか言いようにないものは

よく見ると、明るくなっていた事に気が付く。


(光?)


わずかに光る何かが漂い始める。

砂というよりかは結晶を細かくされたもので、

ACをみ砕いてきた処理役だろう。

それだけではない。

懐から同じく光り輝くものが伝っている。

自身にも変化が見られていた。



ミストルティンに輝きの粒が集まってくる。

拡散したはずの結晶の欠片は星、または心臓の様な

形をしたものが再形成。

そして、場は反転するかの様に自分の辺りを照らし、

一斉に光を放ち、視覚転換。

確実に輝くそれは恒星の誕生とばかり思わせる

微塵みじんも光を見せなかった木は

重さはあるものの、以前とは比較にならない程軽く

十分に振る事ができる。

今まで持ち上げる事すら難しかったのは対なる性質、

いや、他にも元からそうだった己にもう納得できていた。


(オレは・・・闇そのものだった。

 皆のおかげで俺は、光をもてた)


闇とは空間を覆う存在。

光は集いにより生まれる存在。

一時の殺意に飲み込まれそうになった時も、

彼女達の制止より協力して抑えてくれた。

いわば集まり、単なる個は小さなものがそこにあるだけ。

ACの性質としては一現象に過ぎない。

大きな何かが誕生するのだ。

結晶、星、塊の存在が何なのか。

ダイアモンドというものはもしかしたら・・・。

理解が少しずつとどきそうになるが判明できない。

今はここの支配者から解放するのが先決。

黒い球体も目前に迫る。

ミストルティンを力一杯握りしめて腕を振るった。


「セイヤアァァァ!!!」











プツンッ


突然、視界が暗くなる。

当たったという手応えがない。

しかし、糸が切れた様な音と共に周囲の結晶も

忽然と見えなくなり突然姿を消す。

終わったのか?

または逃げられたのか?

ただ、振っただけの輝木刀は勢いよく重心から

下に向かい、宙に投げ出された空洞感。

あたかも世界そのものが消えた様な感じだ。

呼吸は普通にできる、いや、元から吸っている感覚も

あまりないが、ここに居るという存在感くらいしか

分からない。

頭が回転して下まで回り、漂っていると思った瞬間

不意に身体が落下し始めた。


「うああああああああああああああああああああっ!?」











ザブン


どこかへ飛び込んだ様に液体らしき所に着水する。

景色も次第に白く精錬とした明るさと変わり、

先にいたはずの黒い球体の姿はどこにもない。

手でかき分けても触れずにどんどん沈んでゆくが、

呼吸はできる。

いや、息をしているのかすら分からずに

今の自分はここに留まっている。

結晶の主の罠にめられたのか。

しかし、掛かった感じもしない。

それ以上に、戦ってきた感が薄らいで安らぎが

ますます落ち着きへいざなっている様に思える。



(暖かい・・・)


少し心地良い。

なんだか生まれもった当時の・・・どこだろうか。

誰が例えているわけでもないが、昔どこかで覚えた

安らぎがゆっくりと身を伝わる感じがする。

ここは結晶の羊水。

かつてそこにいた胎児の様に包まれ、満たされてゆく。

言いようのない涙を流すも、液体と混じり

誰に見られているわけでもなく場に流れる。

黒い塊は白に変わり、そしてまた暗くなる。

なんだか眠くなってきて、自分も気付かないまま

意識も次第に薄くなって眠りについた。











「聖夜さん」

「聖夜君」

「聖夜」


3人の声が聴こえる。

意識で気が付いたのはこの辺りからだろう。

もう何回きいてきたのか、いつもの彼女達。

マナ、厘香、カロリーナ。

ここにいるという事は地上に戻ってこられたようで、

始めから今までずっと付き添ってくれた彼女達は

都庁の屋上で自分を迎えにきてくれた。


「「戻ってきたのか・・・」」

「おかえりなさい」

「おかえり」

「遅かったじゃない、心配したわよまったく」


順番ずつ言われる労いの言葉通りに、

結果が整理しきれない中で役目は終わっていた。

というより、自分の肉体がこちらに戻ってこられたのは

元凶の介入を断たせる事に成功したのか?

目が覚めたと言うべきなのか、意識を失ってから

自分の胸の中も禍々しいものが消えて解放されていた。

胸に手を当ててみると、能力はまだ残っていて

心臓は黒でなく、白く変わり果てていた。

これが元のダイアなのだろうか、父に与えられた

黒き石は見る影すら無くなっている。

日食の黒を打ち破ったおかげなのか、

結晶界の主らしき者が人なのか悪魔なのか、

ACの正体も結局何なのか分かっていない。


「あいつは、結局何だったんだ?」

「星の者と云うしかないわ。

 世界に反映されたカタチのない、塊。

 今回起きたのは金環日食が起きたここで、

 たまたま晃京での出来事って事」

「星の周期で結晶の有り様も大きく変わるといいます。

 根拠はまったくもって理解できないものですが、

 防衛大臣はどこかで理を理解し、

 そこを狙って事件を起こしたと思います」

「時代の波で対を成す強固な存在は

 度々結晶化して誕生するといわれてるわ。

 何というか・・・もうまったく分かんない。

 けど、またどこかで生まれてくるでしょうね」


3人は伝承で聞いた事を語る。

星も結晶の塊の様なもの。

星々の重なりは思わぬ現象を招く時があるという。

晃京そのものを反晶に、強大なAC内の何者かが

自分へアプローチしに現れたのかもしれない。

たまたまダイアモンドの適性者として招かれたが、

拒否して再び帰還してきただけ。

彼女達もここで色々な思いをしていたようだが。


「そういえば、他の人達は?」

「・・・・・・」


目を閉じて首を横に振る。

警視総監と陸将補は指揮に戻り、都庁の調査を再開。

気付けば七色結晶の防壁も全て消え去り、

悪魔の姿も一体すらいなくなったようだ。

オリハルコンオーダーズのメンバー達は彼女それぞれの

関係者で、事はすでに終えていた。

犠牲になったのは自分の近親者だけでなく、

同じくすぐ身内にいた彼女達も同じだ。

先の話、自分に黙ってここに来させたのは事実。

巧妙なる算段で今ここにいるのが結果だが。

口にする前にマナから告げられる。


「でも、言い出せなかったんです・・・。

 首謀者と常に近い聖夜さんと上手に関わる方法で、

 全てを打ち明けるなんてとても・・・」

「あんたが魔王クラスの適合者だなんて知ったら、

 きっと自暴自棄じぼうじきになる。

 しまいには学園にも来なくなるし、

 マスコミに追い込まれて人生すぐに終わってた」

「ダイアモンド程じゃないけど、私達だって

 結晶の羅性に生まれてからずっと縛られていたの。

 同じ境遇の聖夜君を裏切るなんてできるわけない。

 ずっと願っていたんだよ。

 必ず共に終われる日がくるって・・・」

「そうか・・・そういうものだよな」


父に止めてもらう手段も重ねて

強大な悪魔に成り下がるのを止めたいだけだった。

3人は裏切って騙していたんじゃない。

あくまでも自分を救うために騙していた。

3つの日はあの日イヴから今日のために

闇から解放されるべくこうして集いにきたのだ。


「「みんな、ずっと俺を見守ってくれてたんだな」」

「「正直、私も・・・不安が・・・大きく。

  本当に心配して・・・わたし」」

「「皆も辛かったんだよ・・・閉じた世界で公にできなく。

  私、もう、なんて言えば・・・」」

「「終わり良ければすべて良しって言うじゃない。

  あの・・・えっと、ほら・・・言葉がぁ。

  こっ恥ずかしいけど、友達・・・でしょ?」」


皆も宿命に囚われて今まで日々を送ってきた。

自身の異質さと身内の異常さに挟まれながらも、

人知られずにずっと終われる日を待ち続けて。

同じ境遇の人も求めていただろう彼女達の手は

彷徨いつつ自分のところに辿って求めていたから。


「「ありがとう、本当にありがとうぅ・・・」」


4人は寄り添った。

性的な意味ではなく、上心として恩恵を込めて。

太陽と月が分かたれた後はいつもの生活に戻る。

もちろん、都民のみんなは止まった自覚がない。

普通の天体現象として観測していただけで、

何が起きたのか誰も知らずに至る。

都庁に張り付いていた結晶もいつの間にか消え、

鑑識課も調べようがなく足手を止めたままだった。

まるで御伽おとぎ話にでるように夢の如し。

世界は再び解放されていた。











「・・・・・・」


4人の塊を遠くで見つめる1人の影がすっと消える。

誰一人気付かれず、ひっそりと姿をくらました。

気が付けば太陽と月は分かれ、夕方のような色だった

空は青く清々しい空間に変わっている。

これにて様々な反射光を放って人々を惑わせてきた

晃京で起きた事件は解決。

以来、悪魔達は姿を現すことなく見えなくなり、

ACを悪用する者達の検挙もなくなる。

いつもの世界、に戻ったのだろう。

全て止まっていたはずの物体は何もなかったように

すんなりと動き出して、ガラスの欠片も不変なく

大都会らしい形を保ってそびえる。

都民の人々は再び賑わいを見せ始めていった。

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