第32話 高度なる痕跡
2012年2月14日
「透子の様子はどうでした?」
「無理、
ACも、ただ拾ったとしか言わない始末」
聖夜とカロリーナはマーガレット主任から
留置所に入れられた透子の事情聴取をうかがう。
自分が風邪をひいていた間に吹雪事件は治まっていた。
いつの間にか事件を解決していた彼女をあっけに見る。
探偵を名乗るだけあって、若さな未経験っぽさなど
どこ吹く風の見た目によらない鮮やかさに
対して、氷の悪魔を操っていたのは透子だった。
逮捕されてからも一切本当の事を話さずに強情を見せ、
泣き叫び、錯乱状態で自分は悪くないの一点張り。
誰と関わっていたのか一向に明かそうとしなかった。
しかし、所持していたACの種類は判明。
主任は今回の結晶は珍しい性質のものだと伝えた。
「持っていたのはアンタークチサイト。
結晶の性質として非常に珍妙な代物よ」
「これは・・・?」
和名で南極石とよばれた結晶は氷の悪魔を生み出す性質で、
極度の低温を引き起こす力をもっていた。
突然の襲来も、何故か学園周辺のみに発生して
透子がいつも被害者の周囲にいた事を不審に思った
カロリーナは女性同士のトラブルを決め手に
彼女が隠し持っていたこのACの存在に気が付いた。
「でも、透子が倒れていた時、
ACを持っていなかったはずじゃ?」
「溶けるのよ、これ。
最初の事件の時、体が濡れていたからおかしいと思って」
「溶けるって、それ氷じゃないのか!?」
「れっきとした鉱石の一種よ。
ハロゲン化鉱物で25℃になると液体化するの」
「溶けても石なのか・・・。
氷は0℃を上回ればそうなるなんて、
一種類で思い込んでただけなんだな」
「確かにそう思いたくなるくらい特殊な性質よ。
で、バレそうになるとACを見つけられないよう
状況に応じてホカカカ(商品名)で溶かしてたの」
「・・・だから、体は濡れていたのか」
一方的な説明。
学園という限定された場所のみで、大規模計画でない
個人的な動機が透けて浮き彫りになる。
まるで雪女そのものに、気付かれないように冷たく
吹雪の中で殺害対象を狙い続けていた。
動機は嫌がらせ行為の復讐なのは理解していたけど、
ACを所有した経緯まではまったく明かしていなかった。
ただ、透子はどこかで拾ったという線はないと言う。
2人の見解は素人が今回のACがすぐ扱える代物じゃない
高度な性質だとプロの線をなぞった。
「まあ、あたしも少しは手を
上級者と手合わせしてるみたいな感じだったわ」
「ACの悪魔から学んだのか?」
「AC内から結晶の性質を教わるなんて事はないわ。
体幹と体感から会得するケースがほとんど。
あの子の頭でも無理。
即効性再凝結なんて、あたしらだってできないし。
そこいらの素人じゃ扱えないわ」
「つまり、ACに精通している誰かからもらった
可能性があるのか。オリハルコンオーダーズか!?」
「みたいだけど、透子が近日接触していた連中は
ほとんど一般層ばっかりで、そいつららしき人物も
結晶と接点もまるで見つかってないわ。
もちろん、他県に行ってた形跡もなし」
「都笠図書館、水完公園、精神科、喫茶店黄昏くらいで
行っていた場所も共通点なくバラバラね」
(俺の家に来てたのか・・・)
今回のACは偶然拾っただけで扱うには特殊で、
前知識なしで融解、再凝結するのは不可能。
吹雪を放出するくらいならできるかもしれないが、
少しの適性だけで結晶の出し入れを繰り出す
能力は彼女だけで起こせられないのだ。
主任も、今回は剣に変えられないと言う。
「これも、結晶というカテゴリーでは不可思議な代物よ。
温度変化で剣の形状も・・・ムリそうね。
よって、今回もパス。
補助機能として使うしかないわ」
「そんなに難しいものなら俺でも無理そうか。
なら、カロリーナが持ってた方が良いだろ」
「・・・・・・」
「カロリーナ、どうした?」
「ん、ちょっと気になるとこがあって」
「身に覚えでもあるのか?」
「まだ、ハッキリしてないからなんとも・・・
気にしないで」
何か引っかかるような顔つきをする。
肝心の透子は後に少年院へ送致される。
もちろん実行者の捕縛だけで終わる話ではない。
彼女の性格からして、
誰かに利用された可能性が高いと考えているらしい。
オリハルコンオーダーズの存在に気付かず、
おそらくは無意識に結晶を差し出してきたのかもしれない。
一般層の誰でも利用できるという要素が改めて
背筋を凍る感覚をよぎらせた。
「俺が言うのもなんだけど、適性っていうのは
極少数とも限らないんだな。
ACに手を付けているのは俺達だけじゃないんだ」
「気に入らないけど、事実よね。
オリハルコンオーダーズが造ってるかもしれないし。
一般職の中にいる奴らかもしれないんじゃない?」
「ばらまかれたACはまだ全部見つかってないだろ?」
「これからも予想していた展開になるでしょうよ。
拓男や透子みたいに生徒だけじゃなく、
結晶を手にした人間は皆・・・」
だからとはいえ、適性に染まっても自身の心までは不変。
もちろん、自分が手に負える分野じゃないので
仕組み
ただ、手口が次第に巧妙化してゆくような気がする。
悪魔の意思ではなく人間の意思。
一度ある事は二度もある。
絶え間なく発生する同類の招く現状に、
一方的正義感を振りかざせずに目をつむるだけだった。
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