ヴェンガンザ・アンタルティカ3
人気のない路地裏の隅で
あたかも歩く場所を知っているかのように特定して
同じ女生徒を標的として見定める。
事件を起こして人が少なくなっても、
まだ学園周辺を警察の目を欺くように
ACを握りしめた瞬間、声をかけられた。
「茶番はもうやめようよ・・・・・・透子」
「!?」
カロリーナは容疑者と思わしき人物に声をかける。
なんと、女子生徒達を襲っていたのは透子本人。
被害者の1人だったはずの者であった。
電信柱から手を離して
自分を警戒するように向き直した。
「な、なによいきなり?
私がやったって証拠でもあるの!?」
「今から隠したって無理よね~。
25℃に達しなければ溶けないんだから、それ」
「・・・・・・」
自分はACで透子の周囲の温度を下げた。
言い逃れをさせないよう、見えなくなる前に。
氷の悪魔を召喚しても真逆の行為で気を逸らすやり口に、
どこまでいっても体温をもった冷酷な心の人間なんだと
彼女は普通の人間と変わらない生活をしていたのだから。
「低温の状況下では物質も時に特殊な状態へ
変わる事もありまーす!
内の1つ粉雪が降るはずのない関東で、見られたし」
「それがどうしたっていうの!?
粉雪なんて、雪国じゃいくらでもあるし。
私が直接やったっていう証拠でも――!」
「それ、あんたが図書室で借りてた本の中に
まったく同じ雪が入ってたのよ?」
「なっ!?」
「貸し出し期間の履歴にあんたの名前があって。
再確認しようと催しをさせてもらったの」
「まさか・・・あの学園の!?」
「だから、あのイベントを起こしたのよ。
あんたが差し出したキンッキンに冷やした
超
普通に冷やせない
ACに気が付いたんだから」
「あれは・・・液体窒素で――!」
「なわけー、それなら-196℃はいってるはずだし。
Ge半導体の抵抗値はそこまで下回ってません!」
「・・・・・・」
「力をもった者は“多様化”に染めてゆく。
若い子程、タイミングを考えずに実行するから
隙間だけは見つけやすかったかな。
アイツの趣向に感謝するわ」
イベントで透子は自作にAC能力を用いていた。
理由は-60℃を下回る業務用冷凍庫よりも
冷たいチョコレートを送っていた事が決め手になった。
箱にも自身の名前がはっきりと記載されていて、
言い逃れできないシチュエーションを
彼女へ迫ろうと画策していたのだ。
まったく反論も出せずに黙り込む。
「バレたのなら、仕方ないわね。
アハハ、アハハハハハハハ!」
透子は認めたかのように高笑いする。
ACの性質を見抜かれたのか、
本性を
「私にやっと幸運が巡ってくれた。
去年からこの世界は少しずつ変わっているって、
まさか、意外にも同じ能力をもっていたなんて」
「あたしも最初は学園内に氷AC使いがいたとは
思えなかったわよ。
まして、周りに自己主張しないあんたがって
意外だと思ってたけどさ。なんで?」
「復讐が止められなくなったの。
胸がスッキリして清々しい気分になれる」
「被害者の共通点から身近にいるのが怪しいって
思ってたけど、あんたの手口は驚いたわ。
しまいにゃ、冷気の使い手。
同級生が次々と異形になっていくなんて、
時代もここまでくるかって思うわけだわ。
どこで手に入れたの?」
「拾ったのよ、庭に落ちていたから」
「ウソつき。
素人が溶解と凝結の方法なんてできるわけない。
高度すぎる施術をなんであんたができるのよ?」
「拾ったって言ってるでしょ?
これがワタシの才能なんだから」
「・・・・・・」
「低温の世界って中々良いものよ。
怒りの念を鎮めてくれる。
思ったの、熱くない方が人のためになる。
だから、舞い上がった者を冷たくするって」
透子は意図的に結晶を溶かしては再び凝結させて
疑いから逃れていた。
隙をうかがって氷の人型の魔物に襲わせて忍ぶ。
そして、見つかりそうになると倒れた振りをして
被害者を装い、なりすましを図った。
真夏の時期に用いるなら人気を得やすい能力に
足りるかもしれないが、
彼女の所業は真逆の方向に進んでしまっている。
「だけど、人に危害を与えるなら話は別だわ。
何、悲劇のヒロイン気取ってんの?」
「この世界は邪魔者が多すぎる。
正直は裏取りされるだけなのよ、女の
あっけなく関係なんて裏切られるんだから」
透子は襲撃した動機を語る。
襲った相手はどれも敵対する派閥組であった。
始まりはバレンタインデーの情報交換。
誰が誰にチョコレートをわたすのか記帳に書いて
去年から交わし始めてきた。
しかし、好みの男が重なっていた組が衝突を起こし
恋愛徒党はあっけなく解散。
秘密にしていた自分の男が明かされると
次は自分自身が目の敵にされてしまい、
「好きな男の筆記を他クラスで? そんな事が?」
「あの人の候補が多かったから、私は書くのをためらった。
でも、どうしてもチョコをあげたかったから、
私は仲が良い子だけに好きな男の名を言った。
だけど、密告された。
他に好きだった同じ男がかぶってただけで・・・」
「あのノートにあんたの名前がなかったのはそれで?
わずかに信じていた子が口を滑らせて」
「私は悪くない、仕方なかったのよ!
自業自得よ・・・あんな奴ら――」
「まあ、よくある話よね。
でもさ、今回はさすがにやりすぎよ。
イキりすぎてカチコチにあんな氷漬けしてまで
復讐しなくてもよくない?
氷のゲンコツくらいで分からせれば良かったんじゃ」
「身動きできなくなるまでやるしかないでしょ?
あいつらだって潰すまで終わりがないし。
徹底的にやるしかなかったの」
「・・・・・・」
「あんたはあの人と一緒に付き合ってるって聞いた。
・・・あんたの性格も気に入らない。
アイツラトオナジ、ガサツナオンナ。
ドクシャモデル、キニイラナイ」
「別に付き合ってるわけじゃない。
女の
氷魔法ならあたしも負けないわよ?」
「フーッ、フーッ。
あの人を奪った、私の正体も知った。
あんたのイノチ、トウケツサセテヤル!」
もう説得の余地もない。
2人は近場の空き地に移動して対決する事にした。
「
いきなり氷の槍を飛ばす。
警戒済みなので、とっさに避けられた。
当人も昔から能力を奮っていたとも思えない。
氷の射出タイミング、立ち回りが素人らしく
やっとやっとに発動しているように見えたからだ。
最近になってから力を手に入れたようで、
万が一、自分より能力蓄積が多いなら分が悪くなる。
「
透子がそうしていたように吹雪で一度視界を遮り、
氷パンチでサッサと黙らせようと死角から迫る。
「なっ!?」
しかし、氷の女神型がカウンターパンチ。
人以外のものが視ていたようだ。
ならば、氷の小粒を放ち手数の
悪魔ごと粉砕しにかけようとする。
だが、氷の壁を精製されて防がれた。
「それで終わり?」
「あ~ら、小手先を見せただけで得意になっちゃって!
ちょっと
「別に、自分をカワイイなんて思った事なんてない。
しっかりと自己判断ができてるから。
あんたと違ってね」
「「くっ!」」
正直、ここまで冷気が強いと思わなかった。
ちょっとの寒さではへこたれないものの、
より以下の温度まで下げられようならば活動力も
低下して動けなくなる。
いっそ、ACもろとも破壊する事も考慮したが、
主任や聖夜の都合を思うとできそうにない。
「とにかく吹っ飛べェ《paurgoncephcephundongal》!」
あんまり長期戦になると、こっちも危うくなる。
命にかかわると踏んだ時、
強硬する最終手段に踏み切った。
「いい加減、やめなさい!」
「コオレ、コオッテシマエェ!」
雪女どうしで氷や冷気の飛ばし合いが続く。
2人は共に場の制圧にかかろうと吹雪を放射。
辺りはさらに極低温化してゆく。
-50℃は下がっているだろう。
能力を発生させても人体までは追いつけずに
制御をこなせていない。
構わずに、持ち前の冷気をありったけ放出。
「うっ!?」
「キャアッ!?」
結晶より出でるエネルギーが臨界の如く透明の塊へ変化し、
双方ともに顔だけが見えた氷漬けになる。
ACの余力もお互い力尽きたのか、
女神型もすっかりと姿を消していた。
「ぐっ、動けない!?」
「何、あんた・・・!?
こんなに寒いのに、機敏に動け――?」
背景が
精通する能力を発動できずに動くのは口だけ。
雪だるまの状態のまま、まだ意地も張って
なけなしの気力で再び口喧嘩が再開した。
「もうあきらめなさいよ!
復讐なんてなんにもならない。
邪魔だと事繰り返すんじゃ、あんただって一緒よ!」
「だから何?
私が止めたらあいつらは止めるの?」
「学園は当てにならないから、警察に相談しなさいよ!
休校になったんだから、別の所に行けるでしょ!?」
「行ってるわ!
1人だけで過ごせるように晃京を回って。
ひっそりと静かに過ごせる場所を転々と!
それに比べて、あんたは良い身分よね、
白人だから周りからチヤホヤされてさ。
愛想よく演技してればおいしい生活できるんだから!」
「演技ならあんたもウマかったわよ!
しまいにはわざと人前バタンキューで被害者面。
マスコミに注目される事も計算に入れてたよね?
人の目だけは意識してコソコソ隠れちゃって、
この卑怯者!」
「卑怯なのはどっちよォ!?
よってたかってネチネチと嫌味言、
物を隠して、仲間はずれ!」
まだ
お互い
プライドを見せる。
自分もこれ以上手は打てないが、開戦前に戻るように
しぶとく説得を試みようとした。
「あたしが見逃しても、いずれ捕まるわよ?」
「どこにいたって一緒よ。
やり過ごし人生で、生きている実感が湧かない。
学園生活も、もう終わり。
どうせ、なんにもならないのよ。
女の友情なんて紙よりも薄い。
お
あんたの戯言シリーズなんて意味あるの?
あるんなら言ってみなさいよ!」
「じゃあ言ってやるわよ!
ACで人を殺し過ぎると悪魔になるのよ!」
「!?」
「大昔からとおおおぉっくに繰り返されてんの。
そして、最終的に悪魔は排除される。
歴史の有力者達が
処刑されてきた奴くらい知ってるでしょ!?
ACに魅了されて
しまいには自分の体ごと粉々にされるのよ!」
「ううっ、ひぐっ」
透子は顔を歪ませ始め、寒さに乗じる以上に震えだし、
なけなしの発言しかできなかった。
「もう、こんな・・・しょうがないじゃない!?
わたし・・・こんな・・・仕打ちってェ!」
もう抵抗する様子を見せる事はしなかった。
身動きがとれない中、サイレンの音が聴こえてくる。
すでに警察には連絡済みで、計画通りには運ぶ。
始めから時間稼ぎで相手にしていただけだった。
到着したパトカーから来た2人の警官に迫られるように
捕縛を突き付けられた。
「森本透子だな。
殺人、及び殺人未遂の現行犯で逮捕する!」
「ううっ、うわああああ″あ″っ!!」
様子を観ていた住民の協力によって氷は溶かされ、
手錠をかけられた金属の冷たさには抵抗できず、
車内に入るまで叫び声をあげる。
透子はなすすべもなく連行されていった。
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