エイマル・カラコル3

 犯人は前触れも音もなく侵入してきた。

張本人らしき人間の頭が液体混じりに変形。

その顔は見覚えのある、昴峰学園の生徒。

去年から見かけなかった同級生だった。


「お前・・・拓男か!?」

「聖夜・・・なんで・・・ここに!?」


正体は風見鳥かざみどり拓男たくお

クラスメイトの生徒が現れた。

天然パーマの男は自分の姿を見て驚く。

鉢合わせで言い逃れもできない状況の中、

同級生の悪魔同化に自分も言葉を失う。

人が魔物と化すのは川上と同様。

言い方が悪いが、拓男は場違いだと思うくらい

ホストクラブと無縁な性格にみえた。

休校からほとんど顔を出さず、こんな繫華街で

常軌をいっした行為を繰り返していた。

それがどうして?

部屋の背景と人物像のズレをみながら問い出した。


「おれだって、カッコよくなりたいんだ・・・」

「身成りの問題か?」

「ちがうゥ! 顔だ!」

「お前・・・たかが見た目くらいで殺人なんて

 起こそうと思うか普通?」

「顔はカンタンに変えられやしない!

 化粧なんていう低レベルな誤魔化しじゃなく、

 骨格、肉付き、整った形相だ」

「単純に整形すれば良いだけじゃないか?」

「整形する金もないけど、それでもいずれは劣化する。

 ある日、道端で結晶を見つけたんだ。

 拾うと、中から聴こえてきた。

 “変わりたくないか”と」

「声が聴こえてきただって?

 お前もACを!?」

「外見を変えてくれると言った。

 相手に気付かれずに頭をしとる。

 どれだけ年を取っても、若い顔のままでいられるって。

 そこで思ったんだ、いつどこでも道を歩けるように

 効率よく頭部まるごと変えてしまえって」


拓男は自身の外見にコンプレックスをもっていた。

ふとした事で自宅の庭に落ちていたACを拾い、

悪魔の力で変装できると知ると、そのまま鵜呑うのみにして

催涙効果の体液を散布して争乱もなく、

目標にすら気付かれないまま首を持ち去っていった。

しかし、ホストクラブを集中して襲う理由は分からない。

若者なんて身近にいるのに、同所ばかりこだわるのが

不思議に思った。


「それで、なんで繫華街を狙うんだ?

 お前は普段からあんな所には行かないだろう?」

「おれが・・・じゃないんだよぉ。

 人が判断しているからだろぉ。

 お前、張りぼて大国のここでそれ言うか?」

「そんな事で首を持っていく動機にならない!

 人を殺してまで欲しがるものなのか?

 何があったんだ!?」

「隣のクラスに好きな子がいた・・・。

 いつも読書をして、周りと大きな声も出さずに

 図書室でよくましていた。

 だけど、あいつは・・・遊び人。

 よりによってこんなチャラい場所、

 ホストクラブに入りびたっていたんだよ!

 おまし系じゃなくオスし系、ビッチビッチィィ!」


彼女は黒髪ロングで清楚な子だった。

しかし、学園でみる外見とは裏腹に外では

様々な男と遊びほうけていた。


「でも、外見で判断してたのはおれも同じなんだ。

 中身をみようともせず、ガワだけであの子を。

 男も女も・・・目だけで目だけ、シュシュウ」

「・・・・・・」

「人間なんて、どうせ目先のビジュアルしか向けない

 チンパンジーと同じ感性なんだ。

 別じゃ、同じ穴のムジナ

 しょせん、人は見た目が10割。

 外見で選ばれ、外見で弾かれる。

 うわついたポップな馬鹿ばかり。

 男の場合、気取ったチャラそうな世界は?

 その代表格がここ、ホストクラブだからさ」

「そうかもしれない。

 でも、中身でしか通用できない世界もあるだろう?

 何か成果を見せれば分かってくれるところもある」

「外見で先に判断するのがヲカシイだろぉ!?

 世の中よくてから言えよォ!

 面接だって学院通った奴ですら数十社も落とされる。

 見た目がキモイってだけでなぁ!」


男女不遇の葛藤の果てが拓男の行動原理だった。

見た目が最優先される世の中を疎ましく憎み、

結局は自分も変わろうとして凶行に及んだ。


「そんな訳だけで・・・お前は」

「人間平等、ビョウドウなんだ。

 おれにも権利がある・・・イケメンになるケンリが。

 自分が変われば、顔が変われば、ふりむいてくれる。

 あの子はおれをミてくれるんだああァァ!」

「お前はただの犯罪者だ!

 やってるのは平等どころじゃない。

 顔面どころじゃ済まない事をやってるんだぞ!」

「おれが報われてないからイラプション噴火不可避。

 人間平等ならつがいも平等だ!

 光一から聞いたぞ。

 聖夜もずいぶん女子生徒と一緒にいるんだって?

 あの3人と仲が良いそうじゃないかぁ?

 モテてる奴、気に入らなひィ。

 銀髪に色白肌・・・ホシイゾオォ。

 次は・・・お前のカオだぁ!」


拓男はカタツムリ型悪魔に変身。

異能力を借りて自分の首を狙おうとした。


「拓男ォ!?」

「粘着ネンチャクウゥ! インドアアァァオ!!」


体内から射出した粘膜でドアを塞ぐ。

強力な粘着力で開きそうにない。

拓男は防音施設という仕様の裏をかいて

あえて人の少ない密室を狙っていた。

そして、あろうことか声優が演じるキャラクターの

ギャップに逆に招かれていた。


「オレハコレクションガスキダ。

 ナノニ、リカイシナイ。

 ニンギョウヲアツメルノガナニガワルイ!?」


だが、レア物のフィギュアに釣られたのは

予想外で、ホストクラブの席に置いてあったのは

おかしいと思ったようだ。

始めは警戒するものの、確認と己の欲求混じりで

つい触手を伸ばしにきてしまった。


「ACが関わっているなら見逃せない。

 拓男、縄についてもらう」

「ブルアッ、ブチョチョ!」


カタツムリ型は壁をって天井に着く。

拓男の顔が別の形状に変化して

ホストクラブ会員の頭に変わった。


「クビィ!」


雄叫おたけびと同時に触手の様なものが伸びてきて回避。

ACで強化していなかったら、首が落ちていた。


「イケメン、イケメン、メンクライ。

 アリノママ、ミナイナラ、カエルマデ」


性格に合わせたかの様な粘着質のある攻撃。

血が飛び散っていなかったのも、分かった気がした。

ドアに付着している液体で出血を抑えながら

大きな音をたてずに首を溶かしていたのだろう。

説得の余地もなく、こちらの攻撃も余儀なくする。

モーションは遅いが、殻が固くて剣を弾かれる。

クラーレでは上手に毒を回せられない。


「お前、剣持ってるのか!?

 イヒヒ、おれに負けないくらいの中二だな」

「これは悪魔を斬る刃だ!

 晃京を解放するために今、俺は戦っている!」

「シュシュシュ、この上なくファンタジーを極めてるな!

 ま、主人公は剣っていうのもありきな設定だよなぁ。

 でも、定番すぎても飽きられる。

 だからな、これからの時代は裏方が表を制するんだ。

 計算高く立ち回るコッソリ系なんだよぉ。

 というのは・・・現代人が狡猾こうかつだからだよォ!」


口から霧の様な何かを吐き出した。

催涙効果のガスでホストクラブ店員を奇襲した手口で

同じように行動を抑えにかかる。


(まずい・・・眠くなる)


拓男は倒れたのを確認。

歪んだ顔付きで体内から液体をにじませる。

聖夜の首に触手を伸ばした時であった。











バシュッ


「ゴォエアア!?」


カロリーナの置いたフィギュアから氷が発散する。

急激な冷気の放出に驚いてった。

人形に反応を示したのか、部屋の外から救援が来ている。

彼女も異変に気付いて加勢に入ろうとした。


「「聖夜、すぐに開けるから待ってなさい!?」」

「待ち伏せか、くそぉっ!」


拓男は今更囲まれていると気付き、脱出を図る。

しかし、氷漬けでダクトが塞がれて出られずに

おどおどしながら立ち往生し始めた。

さらに冷気で耐性が落ちたのか、

冷たさで目が覚めた自分は状況を再確認し直して

剣を握りしめた。


「「ううっ、危なかった。

  拓男、もう諦めろ。逃げ場はない」」


リビアングラスの先端がカタツムリ型の前に

辿り着くように角度を調整して見やる。

拓男も複数反射する移動先は読めずに、

触手の伸ばす先が判断できないようだ。

ピエトラの先端が頭部の細長い接続部を斬り、

ホストクラブ会員の首が落ちる。


「おれの頭がない、ないいイイィィッ!?」

(まずい・・・)


頭を落とした光景に反吐へどが出そうになり、

罪悪感が自分の頭に返ってくる。

だが、拓男は苦痛の感覚もなく発言しながら

自身の体内でモゾモゾとしている。

そして、すぐに別の頭に交換した。


「もういい、カッコイイ頭に代えてやる!

 あんな顔なんていらない、もう」

(平気なのか・・・?)


拓男は普通に意識をもってしゃべっているが、

頭部を入れ替えて何か対策しようとしている。

しかし、様子がおかしい。

額に所持しているであろう淡い白色ACが見えた。

本人を突き動かす根源を発見。

そして、白は石の様な灰色に変化する。


(色が変わった?)

「オギィッ、頭が取れない!?

 硬い、取れろ・・・とれろおおおおオオオォォッ!!」


元の頭に戻ってゆく。

ピエトラの効果か、硬質化で軟体動物のぬめりけと

滑らかさを失っているようだ。


「おれはセメントなんかじゃない、

 彼女をつくる権利、道理、筋合いがあるはずだ!

 なのに、なんで、相手をしてくれないんだ!?

 どうしておれをウケイレテクレナイ!?」

「もう諦めて投降しろ!」


苦しんでいるようでグネグネし始める。

中で代わりの頭を取り出そうともがくも、

石化で上手く引き出せなくなっていた。

ビジュアルに恵まれないゆえに、自身を変えたいという

願望の末路は石の塊で抑えられてゆく。

ACは所有者の意識で能力を引き出す仕組みで、

拓男ならではの悩み、コンプレックスが

自意識と結晶内の制御がとれていないのか、

天井に張り付く体制がグラついてきた。


「オレハカッコイイイケメン!

 カワリ、カワル、カワレ!

 モテタイ、モテタイ、モテ――」


グシャッ


拓男の体は粉砕してしまった。

肉体そのものを結晶と化す望みが強すぎたのか、

砕け散る最後を迎えてしまう。

首狩りを引き起こしたACを残しながら、

拓男の体はどこにもなく、石の欠片だけ散乱していた。


「拓男・・・」

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