エイマル・カラコル2

 結局、この日は何も起こらなかった。

室内は沈黙を保つだけで、首を取られるどころか

悪魔の姿すら何も兆候ちょうこうが起きず。

しかし、事件は気付かれる事なく静かに発生。

首狩りは別の店で行われ、すり抜けられる様に

男達の頭部は持ち逃げされていった。


「違う店で起きたって?」

「そう、あたしらが見張ってたとこ以外の店で。

 してやられたわ」


狙われたのは同業であるホストクラブだが、

チェーン店ではなく、個室制以外の普通の店だった。

驚く事に、複数のテーブルが設置されている多人数が

収容する部屋と思いきや、スタッフが休憩する待機室の

狭い業務室も狙われる対象にされたのだ。


「個室制に留まるだけじゃ意味ないって事か。

 で、俺達はどうする?」

「まだ・・・続行するわ。

 あたしがここで退くわけないでしょ」


カロリーナはまだあきらめずに追跡続行を決意。

一ヶ所だけで待ち伏せしても相手が来る可能性が低く、

人の思考をもつなら他を狙う可能性も十分考えられる。

直に悪魔の姿があるなら、そのまま討伐するだけ。

だからといって、自分は良いアイデアがないので

推理の得意な彼女の言われた通りに動く。

警察の力を借りて他店でも同じ作戦をとり続けた。


だが、別の店で同じ事をしても直に来ない。

まるでタイミングを見計らうようにすり抜けられてゆく。


「なんで、俺が来た時だけ違う店なんだ?」

「・・・・・・」


わざとらしく個室で待ち伏せしても、

フェイントだと気付かれているのか、かすりもせず

ターゲットにされる気配のみじんもなかった。


「もしかしたら、もしかしたらだけど、

 犯人はアンタを知ってる奴じゃないのかな?」

「俺を?」


しかし、根拠がまったくない。

犯人が人間だとしても、男の面を欲しがる女かもしれない。

カロリーナプロファイリングで探して見せると豪語。

ここで聖夜からカロリーナに視点をバトンタッチ。

最初は目撃情報を知るために、警察同様に発見者の

言葉から聞く事にした。


「というわけで、何か知っているかお聞きしたいです。

 どんなに小さな事でも良いので」

「そ~ね」


まずは1人の女性から御伺おうかがい。

第1発見者が犯人という線もありえる。

口には出さずとも、わずかな挙動を見極めようと

割り出させようとした。


「襲われたのは個室制の他でもですか?」

「ホストクラブといっても、全てが個室制じゃなくて

 たいていは広いフロアに椅子やテーブルを置いて

 分けて応対してるの。

 でも、別の個室で襲われた人もいたの」

「そこ以外の?」

「トイレや事務所倉庫とか、狭い部屋で・・・。

 どんなに広いお店も、必ず裏方に小さな部屋があるから」


ホストクラブの質や制度は関係なく襲っているようだ。

とにかく少人数になった瞬間を見計らって

音もたてずに首を抜き取っていく。

つまり、設備仕様とかでなく範囲の狭い場所。

この点で、特定の店や個人的恨みではない可能性がある。

しかし、犯人像はまだ完全に判明せず。

そして、次は2人目の目撃者と話し合う。

が、来たのは超意外にも学園の生徒だった。


「あ、あんた!?」

「カロ!? なんでここにいんのよ!?」


なんと、学園生徒でC組の女生徒もいた。

休校から自由気ままに生きる者との再会を巡る。

こんな時にちゃっかりと男遊びするのも

良い度胸をしているなとジト目。

さすがに犯人じゃないとは思うも、話は聞くべき。

しかし、彼女はおかしな事を言い出した。


「でも、おかしいっちゃあおかしい話もあるわ。

 ××君、春葉原にいたって話を聞いたの」

「被害者のホストが? いつ?」

「事件のあった次の日。

 いきつけの客の知り合いがどう見ても本人と同じ

 外見と体格で店に入っていったって」

「・・・・・・次の日?」


見間違えかと思いきや、本人そのものの顔だったという。

死んだはずの男が街の中にいる。

しかも、本人がほとんど行かない区にいたなんて

普通なら別人と思う節だ。


「で、その人と面会して話しかけたんだけど、

 いつもと態度が全然違くて、モゴモゴ言いながら

 逃げちゃったんだって。違う人かと思ったけど

 顔、声、間違いなく本人そのものだったって」

「双子だったってオチでもないよね?」

「その人、一人っ子。

 実は生きてるんじゃないかってファンの間では

 まだ望みもってる子もいるよ」

(んなアホな・・・)


彼女の言い分に到底理解しきれない現象だ。

近親者でもないなら、ソックリさんの可能性も

一様に認めるわけにはいかない。

自分は犠牲者の頭だけが取り除かれていた件についても

引っ掛かっていた。

想像もしたくないが、面を被った別人の線も。

まるで、それが欲しいような動機がジワジワと

寄せてゆくような気がする。


(犯人は自分の外見にコンプレックスをもっている?)


春葉原方面で事件は起きていない。

他人にすり替わったとして、一部の区で猟奇事件を

起こさないのは不審を感じる。

この話は警察はまだ知らないようで、

一度現地に行って調査する必要もある。

だけど、ヤサ男が行きそうな場所を特定するのが先。

聖夜はそこに行くような趣味をもっていない。

人付き合いの広めな郷から聞いてみようと電話した。


「「カロリーか、どした!?」」

「エネルギー単位じゃないっての。

 ねえ、あんたの周りで春葉原に行ってる男子とかいる?」

「「けっこういるぜ?

  アイドルCDやフィギュアを買いにいく奴多いし、

  俺も電化製品買いにいくことあるしな」」

「そう、例えばイケメンみたいな男が行くような

 有名な店とか知らない?」

「「なんだそりゃ?

  あの区に色男が来る店なんて、あんまねーな」」

「まったく来ないってわけでもないんじゃない?

 男だって、隠れ趣味の1つでもあるだろうし」

「「んな事言われても、全て知ってるわけじゃねえぞ?

  いるっちゃ、いるかもしれねえし。

  ないっちゃ、ないかもしれねえわ」」

「どっちなのよ? とにかく、他に何かある?」

「「そういや近頃、コレクトファンタジアのイベントで

  声優が出るって話が持ち上がってたな。

  あれ言ったの誰だっけな?」」

「女声優?」


という結果に、他愛もない話しか聞けなかった。

手っ取り早く知人に聞いても、

情報集約にしては不足しすぎるので効率が悪いのだ。



 が、翌日、科警研に行った時。

ここで、1つの朗報が舞い降りる。



「事件のあった部屋にケミカルライト成分が?」

「そうよ、解けかけたそれが付着してた報告があった。

 店側は使用した事にまったく覚えがないそうよ」


主任から新たに聞いた報告で意外なきっかけを得た。

よくイベントでもらう蛍光棒の中に含まれる

ジオキセタンジオンが事件現場で残されていて、

近日間は春葉原しか用いられていなかったという。

星が確かにそこいらのイベントを観に行っていた。

ここで、女が犯人の線が沈む。

つまり、自身のとらわれ解消のために

事件を引き起こしている線が強まった。

しかし、証拠がなく催し物に結び付く確実性も足りず。

都心で1人ずつなんて捜索していられない。

だから、星を直接引き寄せる手段を選ぶ。

そういった者をおびき寄せるには?

当人の気をかせる何かをアピールする必要がある。

今までの経緯を整理しなおしてまとめてみた。


・自分の外見にコンプレックスをもっている

・聖夜に面識がある?

・何かを集める趣味をもっている


趣向がドンピシャで行動心理が当てはまるのがこれら。

ならば、声優が犯人にアプローチする解釈を見せたら?

接触といっても、好意的な態度では素のままで

やってくる恐れもあって現行犯逮捕にもち込めず。

男というものは異性に影がチラつくと本性をみせやすい。

よって、こちらの陰を用意して発狂させる方法を考えた。


「な・・・俺が声優の相方役に!?」

「そうよ、声優のサポート役で春葉原に待ち伏せするの。

 商品PRとして星をおびき寄せなさい!」


 クルリと聖夜の視点に代わり、カロリーナの逸脱した

案を聞いて両腕を上げそうになった。

有名ホストがゲスト登場・・・という見出しを、だす。

というのは、男の嫉妬しっと感をあおっていくスタイルによる

場違いな炎上狙いでおびき寄せようとする寸法だ。

もちろん、本物を部屋で待たせるなんてしない。

本人がいると思わせて、陰から自分が飛び出して

討伐を図ろうという仕込みだ。

どう考えても犯人どころか会場そのものが

大暴動と起こりそうになると思うが、その時はその時だ。

声優の作品そっちのけで緊急出演として

警察の力でねじ込むという。

TV出演で目立ったのを利用されたのに、

またアピールしなければならないのか。

自分の知名度が本当に日に沈まなくなりそうだ。


「で、俺は何を?」

「あんたは部屋の中で隠れてなさい。

 狙いはイベントの後!

 声優の姉ちゃんと一緒にいる場をつくって

 ひがませるわ」


店員の用意した待機室で星の来やすいスペースを保持。

ここはこれまでと同じ作戦だけど、

今回は当人がここに来るように仕向ける方法を打つ。

本当に当たっているのか聞いてもムダそうだ。

で、自分はあえて隠れて犯人が来るのを待ち、

同じく正体を明かす機会をうかがっていた。

最近、ずっとこんな事ばかりやらされてる。

悪魔を利用する人間が相手だけに、

どちらと戦ってるのか判断が鈍りそうだ。

待機がてらに何か人形みたいな物を持ってきた。

キャラクター物のフィギュアだ。

何のために必要なのか分からないけど、

ついでにこれを置いておけと言う。


「なに、これ?」

「星はコレも目当てに寄ってくるから、

 一応置いておきなさい」

「なんで人形?」


話によると、犯人はコレクション癖があるという。

彼女のいうプロファイリングが現在どこの線まで

辿っているのか不明なまま、従い続ける。



そして、当日。

イベントにファンの1人という役目で雛壇ひなだんに座る。

ファンの凄まじい形相に耐えつつ終わるのを待つ。

後に声優に成り済ました自分以外は部屋から退去して

静かで空虚な雰囲気の中、挑発気取った姿勢で

ソファーに座り続けて30分。











(来た!)


なんと、まんまと引っかかり、聖夜の待つ部屋に

あっさりと犯人は現れる。

しかし、外見は人の形を成していないモノ。

ヌメっとした軟体動物が天井の通風孔から這い出てきた。

やっぱり悪魔だったのか。

しかし、触覚らしい部分だけ人の頭に変化。

その頭を見た途端に既視感がでる。


(あいつは!?)


居たのは自分もよく知る男。

昴峰学園で同じクラスの生徒だったからだ。

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