壁の中のエステティック2
2012年2月6日
時は午前0時を過ぎた深夜。
聖夜、マナ、厘香、カロリーナ、郷の5人で
昴峰学園の七不思議の解明をする展開を開始した。
夜の調査なので、メンバー達は昼間の間に睡眠をとって
今を優位にしようと夜間活動に備えてきたが、
何せ、自分の通う場所だけに
「ホントに行くのか?」
「行くわよ、怪しければ調査。これ基本なんだから」
「で、どこから調べるよ?
宿直で先公が必ず1人いるから、
適当にブラついてると見つかるぜ?」
「クリアクォーツを借りてきたよ。
空兄さんのだけど、いざとなったら使えって」
「私は外で見張りをしています。
何かあった時を考えてクォーツで周囲を調べて
連絡しますので」
「その方が良いな、先生がどこにいるのか
知らせてくれた方が安全だ」
厘香は数分間姿を消せるACを持ってきてくれた。
マナは球体から監視カメラの様な映像を観て、
やっぱり、便利すぎるくらい頼もしさを覚える。
今回は無許可調査で不謹慎さ満々な行動だが、
AC容疑が絡むのでれっきとした任務、だと思って
行く事にする。
まずは外壁から回ろうと経路を決めた。
終えてから学園に沿って中に入る算段。
耳撃者の言っていた場所から見回りにいくのだが、
未だに実態のない声に足がつかなかった。
「本当に声じゃなければ良いけどな。
冬は音が通りやすいから、別の方から聴こえたのかも」
「思ったんだけどよ、生徒だけ夜に来んなってのも
ひでえ話だよな」
「学生は基本、学園での寝泊まりは禁止だし。
一般オンリーなんだな、公共用地だから」
「勝手なルールだよな。
じゃあ、生徒の家がなくなったらどうすんだよ?」
今回ばかりは郷の意見も的を得ている。
深刻な状況でない限り“生徒に限る”なんていう
あたかも近づくなと言わんばかりの設定だ。
そこを突くのが今、自分達のやっている皮肉な調べ。
前もって開けておいた上窓から侵入。
ヒトからネコに変えられる高所に長けた者が向かう。
「俺が化けて侵入してやんよ。
15mの高さなんざ屁でもねえ」
郷は
自由意思で姿を変えられると分かるや、
以前よりもはるかに意気マシマシで積極的な足取りで
悪魔化を楽しむようになった。
2階のベランダにすいすい登り、
前に開けておいた音楽室の窓から入って
3人の出入りを確保。
教師の点検
自分達を誘導させた。
「「小声で行くぞ、見つかったらアウトだ」」
足音を立てないように腰を低くして入る。
すっかりと居住区と変わった廊下を歩くと、
住民もすでに寝つきに満ちているようだ。
元々家がないホームレスや一人暮らしの老人など、
特殊な事情の人ばかりのようで、元から身寄りのなく
寂しさを振り払うために来ているような感じに思えた。
仮に見つかっても見逃してくれそうな気もする。
「「この人達って、家がなくなったのか」」
「「直接悪魔に襲われたケースはないそうよ。
独り身で、悪魔の被害じゃなくても
寂しさ紛らわしで来てる人もいるみたい」」
災害そのものというより、元から抱える事情で
1つの出来事を機に人事流動をふと見る。
何かしらなきっかけで居場所が欲しかったのだろう、
普段から来ている厘香の言う事が信味を増す。
まだ数人起きている人達もいる。
中には一室だけ1人のみ居る者もいて、
そっと伺うと様子がおかしい人がいた。
「ううっ」
「「おばあちゃん、大丈夫!?」」
具合が悪くなったようで、助けが要るようだ。
しかし、今騒ぐと巻き添えになり厄介となる。
厘香は運搬能力もあり、ACで宙に浮かせられるので
老婆を病院に連れていくため一度離脱する。
家族も身寄りなくあぶれた核家族の一片に、
人口数も多い反面分散された人の果てを垣間見た気がした。
自分と姉も似たような境遇だが、深く考えるのは止める。
今のところ、これといった異変がない。
教師以外なら大丈夫だと高を
他の噂話も調べる余裕はなさそうだ。
ちなみに、残りの六不思議は以下のとおり。
1:音楽室で夜な夜なラッパが鳴る
2:トイレの便器から水が飛んでくる
3:屋上への階段が異なる方向へ向いている異世階段
4:花壇の中で踊る浴衣を着た男の幽霊
5:理科室で死んだはずの教師が魔術をしている
6:プールの中から白くて細長いものが揺れる
という、しょうもない伝説があった。
もちろん今まで明かされた試しもまったくないが、
壁の中の話だけは現実的に浮かび上がる。
ただでさえこんなにも暗い中で壁伝いに探す自分も――
「「皆さん・・・聴こえますか?」」
「「ビックリした・・・どうした、マナ?」」
「「実は・・・中庭で信じられない光景を発見しました。
あるはずのない所に通路があるんです・・・」」
「なんだって!?」
「「静かにしなさいよ!?」」
自分と郷がつい大声を出してしまう。
彼女は先生がどこにいるかくまなく探してゆく内に、
途中で奇怪な光景を目撃したそうだ。
この学園には中庭がある。
端の周りには花壇があるが、中央の噴水広場の
石垣にあるはずのない地下への階段があったと言う。
「「あそこに階段が?」」
「「よく分からないですけど、いつの間にか」」
当然、昼間まではそんな構造をしていなかった。
夜に限って開くなんて噂の一部にも挙がった事がなく、
もしかすると、壁と何か関係が?
ここでは声も聴こえず、有用な手掛かりもないので
マナの方に変えてすぐに1階に下りて行った。
この頃、一階廊下を歩いていた者が上階の声に気付く。
懐中電灯を持ちながら、足音を立てずに移動を始めた。
非正規雇用の郷を連れた特殊工作班は中庭に到着。
マナの示す位置に着くと、確かに今まで見られなかった
光景が区画線工を変化させていた。
「学園の地下に・・・こんな部屋が?」
「もちろん、一般の人ならこんな場所は知らないはず。
考えられるなら、権限をもった役人だけ」
体育館の半分程広く、古風な床のタイルを見て
壁際に花が咲いていた。
月見草という種類のものが全て中央に向かって
顔の様に注目しつつ開花しているように思える。
「花が全部真ん中に向いてるぜ?」
「天井のサッシから光をここに集める仕組みで、
花弁が反応して向いてるのよ。
光学的には外国の仕様っぽいけど」
「花壇の幽霊の噂とつながってるとみた!
踊りを踊って育てるとか――」
「生えない生えない。
花は光の方向に向けて咲いていただけ。
地下に集めていたみたい」
カロリーナは手をパタつかせて郷の見解を否定、
方解石は上部の白い壁から外の光を集めて地下まで送り、
ランプ代わりに放出させていた。
海外ではシークレットガーデンとよばれる名で、
個人の趣向などで設計されたという。
「じゃあ、この学園が外国っぽく造られてんのも
モチーフにしてるからか」
「となると、白い部分がAC的な効果をもつ事も
あるっていうのか」
「声の発生位置が変化していた理由も分かってくる。
方解石の性質で白色なら、どんな結晶が元なのか
石灰岩の種類へ限られてくるから。
つまり、ACの正体は――」
「そこまでだ」
「先生!?」
いたのは福沢先生だった。
突然の登場で見つかってしまい、言葉がでなくなる。
どうにか言い訳をして逃げようとするが、
逃げきっても翌日に制裁をくらう。
マナから通信がとどくも、時すでに
先生の影が大きくこちらに近づいてきた。
「「みなさん、先生が突然壁の中に!?」」
「いや、あの、これは・・・」
「こんな夜中に何をしている?
夜間登校は禁止のはずだ」
よりによって担任と
マナの連絡が来る前に付けられたのか。
停学の覚悟をもたらされた時だった。
「お言葉ですが、
隠し棚を造るのが得意なようですけど。
教育委員会に断りもなく刻印を壁内に仕込むとは
ずいぶんと周到な規格ではないでしょうか?
福沢先生?」
「ん、何の話?」
「実はあたし、直に声を拾おうとして
盗聴器を学園内のあらゆる所に設置していたの。
確かに謎の外国語は聴こえてたけど、
声の発生する日に限って、この人が夜の当直なの」
「マジかよ!?」
「シークレットガーデンは意外だったけど、
PTAや校長が知らなくてあんたが知ってるという事は、
元外資の関係者だったという訳ね」
「ふん」
不審に思ったカロリーナは通常の教師陣を疑い、
黒板の裏や水道の底に仕掛けてゆく内に、
福沢先生の仕業だと勘ぐっていた。
「お前に言われるのも心外だがな・・・正解だ。
私は元々ここの者ではない」
「変な声を出していたのは先生だってのか?」
「なら、どうしてACを?」
「真の芸術性を知らしめるため。
そして、私の愛しいものとの再会のためだ」
「ここに誰かいるってのか?」
「呼んでいるのだよ、望まれぬ日陰に留まるここで。
我が愛しきマーブルが・・・私を求めているのだ」
先生は懐から白い玉を取り出す。
端にある柱にかざすと、白い塊が分裂する。
壁の中には白い石像。
大理石でできた上半身の人型が入っていた。
「この像は壁の中を自由に移動できる。
彫刻の代表格となるこの純白鉱石は
誰にも気取られぬよう私が管理していたのだ」
「声の正体はこれだったのか!?
あんたがコレを!?」
「いいや、最初からこの中にあったものだ。
彼女は柱の中に傑作品を内蔵していた。
日本へ輸入する前から埋め込まれてな」
「何故、学園に?」
「この学園は元、ヨーロッパ資本家の費用で建てられた。
高度経済成長期に日本で滞在、売り込みとして
材料も現地元から収集された素材の元だ」
「いざこざの過程で先生もここに来たんでしょ?」
「私は美術家だったからな。
再びここに回帰しようとは夢にも思わなかった」
30年前、ヨーロッパに渡り美術を学び始めた。
そこで1人の女性と出会う。
マーブルの
いずれは世界的脚光を浴びる。
日本でいう大黒柱と正反対ながら、
立派な支柱を表現するだろうと願っていた。
しかし、芸術家協会はいつまでも成果をださない
部署を許さなかった。
資金繰りの悪化により売却の対象にされてしまう。
彼女も行方不明になり、資材も日本へ流された。
精を尽くして創り上げたオブジェも、
価値が見なされなければすぐに人事異動の現実壁ができる。
納得できない私は引き返して追い、柱を探し求めた。
気が付けば、部署は解散。
現地での立場は
美術の道は完全に閉ざされてしまった。
「果てに流れ着いたのは教員。
街の隅で細々と暮らす羽目になってしまった」
「向こうで疎外されて仕方なく教師に?」
「断じて違うゥ!
私は研究職の落ちこぼれではないィ!」
「海外の思い出をここで複製していたのね。
現地で叶わなかった事をここで再現して」
「この花も彼女が好きな花で、
月光を集めつつ待ちわびていた。
だが、最近になってから様子がおかしくなった。
夜な夜な独り言を繰り返すようになった」
「どうしてしゃべるようになったの?」
「分からん。
マーブルでどうにか鎮めさせているが、
事あるごとに発声している」
「去年の悪魔発生で影響を受けたかもしれません。
そのマーブルをこっちにわたして下さい」
先生の所持するACはやはり引き受けなければならない。
夜中の侵入はともかく、白球の要求だけは迫った。
「悪魔・・・か」
「?」
「違うな。
私は悪魔の干渉など
自分のォ意思で助けたいと思ってルだけだ。
そんな願いをただ叶えたいだけなんだ。
たった1人の・・・者のためにィ」
「先生・・・あんた」
「思えば、ここにやってきたのも運命かもしれん。
これは掲示であり啓示でもある。
偉大な成果を示してみせる!!」
シークレットガーデンも、向こうで過ごした日々を
味わいために
この学園を通じて晃京から芸術の粋をアピール。
先生のエピソードが明らかになる。
事情は理解しても、ACが人を混乱させている以上、
見逃すわけにはいかなかった。
「先生、悪いけどあんたの主張は通用できない。
俺はACを回収する役目を与えられている。
警察からの依頼なんだ。
だから、引き下がってくれ」
「公権ごときが、芸術性など理解できん!
人間計算機の公務員などに、引き渡すわけにはいかん!」
「これはただの芸術なんかじゃない!
今の晃京を混乱に陥れている物なんだ!」
「彼女は悪魔などではないッ!
人でなかろうが、心の入った存在だ!」
「人じゃないなら、いるのは独り歩きする魔だ!
あんたがそこまで芸術にこだわる理由は何なんだ?」
「純白は世界最高の
マーブルこそ、真の表現に相応しい存在だァ!」
腰を低くしながら白玉をさらに手の上でかざすと、
周辺の白いブロックが次々と動き出して集まってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます