荒ぶる男のローレライ2

 やって来たのは英津玄米本人であった。

番組放送後、無数の報道陣の群れやパパラッチをかわして

どうにかここに着いたようだ。

しかし、彼はうなずいているだけ。

事情があって今は話せないらしく、

懐から紙を取り出して見せてきた。

どうやら筆談に応じてほしいらしい。

書かれた文章にはの音の発声が危険だという

意思表示が理解できた。


「声を出すと、人がおかしくなる?」


おかしいというのは英津さん本人の声で、

聴いた分ではいつもの声と変わらないものの、

その後に周囲にいた女性達だけが異常行動を起こし始めた。


「この人、一体何が?」

「検査しましょう、こっちに来て頂戴」


TV局での異常現象で声に影響を与えたと言うが、

見た感じでは本人の外見に違和感がなく、

普通の歌手といったら誰も不思議がらないだろう。

病院にあるようなレントゲン検査する機器に寝かせ、

全身をくまなく調べる。

すると、主任は横になった断層面の細い管、

透過させた肉体の一部に異常が見られた。


「歌、声帯から発する音に原因があるみたい」


玄米ののどに無機質的な構造を発見。

さらに拡大すると、細胞と結晶が同化した様な

声帯が水色に変わっているのがえた。


「これは・・・アクアマリンね。

 ケイ素やアルミニウムを含んだ鉱石の一種よ」

「のどにACが!?」


どういう訳か、体の中にACが宿っていた。

根本的な要因ではこの人の発声が歌声を通して

脳内、精神を異常にさせる能力が発現。

原因はすぐに特定、人を狂人化させた元は理解できた。

しかし、何故のどにACが同化したのか?

後、男性は何も異変を起こさず女性のみというのも

変な話だ。


「なんで、人の中にACが?」

「融和ね、細胞と結晶が均一に交わる現象よ。

 有機物と無機物が拒否反応も起こさずに、

 再固形するの」

「ゆうわ?」

「時たま、適性が高いと晶質が非晶質に変わり、

 仕組みは異界の者が取り込ませようとするらしいけど、

 原理がまったくといっていい程分かっていないの。

 これは推測だけど・・・」

「え?」

「いいえ、やめとくわ。

 確証がないし、学生に言っても難解すぎる」

「はあ」


言いかけを止めた。

残念ながら、ここで切除はできないようで

別の方法で解決する事を余儀なくされた。

それにしても、硬い物が体内に溶け込むのも珍しい。

ほったらかしににしている郷も、

いつの間にか体内にACを宿していた。

人間と結晶が融合ゆうごうする。

理科でかすかに覚えていた用語は

否が応でも体感させるように染み付いてくる。

主任は近辺でおかしな事がなかったか聞くと、

彼は悲しそうな目で当時の様子を書く。

思い当たるのは楽屋で飲み物を差し出された時。

中に仕込まれたそれと氷と一緒に混ぜられて

いつの間にか飲んでしまったらしい。


「その飲み物は誰から?」

       スラスラ


続けて筆記、詳しくは自分も覚えていないそうだ。

分かるのは、当日に不審者はいなかった事。

スタッフやプロデューサーくらいしか

出入りしていなかったと書く。


「怪しげな人はいなかった・・・か」

「監視カメラも部外者が入ってきた形跡がない。

 TV関係者から洗うしかないわね。

 向かう準備をしなくちゃ」

「主任さんも?」


今回はマーガレット主任もTV局へ行くと言う。

重役が自ら出向くのも珍しいと思うけど、

直接現場を観て何かを考察したいのだろう。

英津さんを帰し、科警研を出て車で向かった。



 数十分後、TV局に着いた。

ここ一帯は都会巡りで何度か来た事はある。

相変わらず人の出入りは多い方だけど、

2000年より前よりかは減ったような気がした。

店のBGMに街の雑音が混じる間を通る。

メディアという広告に間合いなんてものは

放出しっぱなしで測れないのか。

彼女自らパトカーを運転して、駐車場に止めた時。


「!?」


ドアを開こうとした途端とたん、何かを見て

自分にここで待つように言った。


「予定変更、あんたは車で待ってなさい。」

「え、ちょっ!?」


そして、目線はマーガレットに代わり、

局内の受付を通って関係者の1人と会合する。

応対したのは御手洗プロデューサー。

ヒゲメガネの人が話し相手となった。


「こんにちは御手洗三郎です」

「科警研のマーガレットよ。

 ちょっと気になる事があって聴取に来たの。

 いくつかの質問、よろしいわね?」

「は、はい」


敬語も使わず堂々巡りの態度。

TV局といえど、警察を拒む事ができずに

素直に応じるしかないだろう。


「以前、あなたは特殊能力をもつ者をテーマとした

 番組を企画してたらしいわね?」

「ええ、確かに私が企画したものですが、何か?」

「英津玄米氏に異常が起きた件。

 覚えはある?」

「いえ、突然の事で我々も何が起きたのか・・・。

 暴動の根拠は未だに結論がでておりません」

「実は最近になってから晃京で不思議な

 例えば宝石、結晶の様な物を所持してない?」

「ございませんね。

 スタッフ一同も高価な貴金属は身に付けておりません。

 入社時にも目立つ装衣はチェックされていますので」

「そう」


自分は部屋、デスク周辺を流し目で見る。

確かに宝石関連と繋がるような要素はなく、

易々やすやすと尻尾を出す真似はしないだろう。

プロデューサーは眼鏡をブラシで磨く。

ここでは追って指摘をせずに、出張事情聴取を終わる。

ある程度の質問だけで一時撤退した。



 場は主任が車から出た数十分前。

聖夜の場に戻り、1人で車内留守番をする。

いきなり待ってろだなんて、自分は何しに来たのか。

何もする事がないから携帯をいじるくらいで、

時間をつぶしていると。


コンコン


「ん?」


「あんたは勧誘にきた!」

「新堂よ、元気?」


以前の番組出演を依頼しにきた女性が来た。

車の窓に合わせて頭を下げ、仕事でもないのに

自分がパトカーにいたのが気になったようだ。


「警察の人と一緒にどうしたの?」

「いえ、ちょっと最近起きている事件の調査で

 ですが・・・その」


科警研と合同調査してるなんて言えない。

むやみに話すと支障がでて怪しまれてしまう。

それもあるけど、この人がACを知ってる理由も

気掛かりだ。もしかして関係者なのか。

ここで思い切って言い、そして聞くべきか。

この人の素性にも知りたいと、質問を投げかけた。


「お、俺も気になってるんですけど、

 教えてくれませんか?

 どうしてACの能力を知ってるのか」

「どうしてって、君は各地で色々と活躍してるから。

 公園や高速道路で悪魔と戦ってたでしょ?」

「あ・・・え・・・まあ・・・そうですけど」

「君以外でも変わった事をしてる人もいるから、

 情報業界では摩訶まか不思議な話もあるの。

 情報の出入りが活発なのが晃京だから」

「確かにそうですけど」

「勝手に監視してた私達も私達だけどね。

 それはそうと、英津さんの事件知ってる?」

「ええ、何かあったんですか?」

「どうやら集団催眠の一種みたい。

 人はメディアにのめり込むと異常な行動を

 とる時もあるの。英津君って今すごい人気でしょ?

 人が多いところでよくある光景なの」

「でも、あれは人気なんて雰囲気じゃないと思います。

 本当に大丈夫なんですか?」

「ファンの異常行動は今に始まった事じゃないし、

 そんなに長く続くものじゃないわ。

 TV局内の問題は私がどうにかするから、

 心配しないで。それじゃ」


彼女は局内に戻っていった。

人の楽しみは時に行動に表れ、内側に取り込もうと

逸脱行為を起こす。昔は後追い自殺もあったらしく、

一緒にいたい願望が身を投げ出す事すらあるという。

熱狂とは思考という冷静さを省みない。

結局、ここに来た訳はそれを言いたかっただけで、

あんまり勘繰るなとばかりに介入するなと言われた。

まるで、問題が身近にいるような言い方をして

深く考えるなとばかり差し置いていった。

それからしてすぐに主任も戻って来る。


「お待たせ、帰るわよ」

「はい」


話し合いも済んで、自分は結局来た意味をもてなかった。

原因は特定できたのかと聞くと、雲をつかむ様な返答ぶり。

あんまり口を開いていない。

何があったのかよく分からないものの、

彼女の目がいつもよりキツくなっていたような気がした。

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