第21話 荒ぶる男のローレライ1
2012年1月10日
「リビアングラス、光の速度で移動できる性質のACよ」
聖夜は科警研で謎の男から手に入れた黄色いACを
帰ってきた主任に提示する。
謎の番組で現れたヒーローが持っていた結晶は
何故かメディアに利用されていた。
物体に当てると歪曲を起こさずに跳ね返る光で、
念じると瞬時に先へ飛べる能力を発動できる。
移動能力としてはピカイチな性能で、
空中を一時的に跳ぶような立ち回りとして
期待できる結晶だ。
これも剣に加工して移動できたりするのか、
自分の一部としてまた使うのかと聞くと。
「このACも武器に変えるんですか?」
「これは剣に精製する事ができないわね。
仮に変えても、刃の特性に活かす部分がないし。
光源を長身に変える技術がないの」
2cmの小さな黄色の結晶は加工する用量が少なく、
光を刃状に加工できる技量がないという。
懐の深そうな主任でも造れないものがある。
「その様な感じもします。
光で攻撃って眩しくするのか実感が湧かないです」
「レーザーのような熱線でダメージを与えるのは可能よ。
ただ、光剣の伝説なら日本にあるのよ。
太陽光を収束させた闇を打ち払う宝剣として
古来の文献で書かれていたのを読んだ事があるの。
無影師範も同じ話をしていた覚えが・・・」
「厘香の父さんか」
言い伝えでの話なら、あるにはあるそうだ。
ただ、一瞬だけなら光の速さで動ける性質なので
グリーンフローライトに頼る機会が減るだろう。
「まあ、無理に武器に変えなくてもACとして
十分な効果で扱えるはずよ。
あの中年と同じく動けるようになる。
より、フットワークが軽くなるわ」
「光速移動か・・・あの人みたいに」
再び手渡されるこの黄色い結晶。
手際の良さにも関心と疑問がワンセットにくる。
ACの武器化なんて、早々に造れるものじゃないと思う。
この人は最初からこの仕事に就いてたのかと、
「ちょっと聞きたいんですけど、
主任はACの性質って、前から知ってたんですか?」
「そうよ、地質学から魔術学会に足を踏み入れたの。
結晶繋がりの異能に興味があったから」
「あー、えー、なるほど」
いわゆる超能力機関という表には出ない組織の1つで、
国が非公式として設立した部門に移った。
そんな、数奇の流れで心変わりに
自分がここにいるのもさして違いなく大概だけど。
しかし、科警研は製造工場とか設備がある所では
ないような気がするけど、独工房みたいなこじんまりと
1つの部署として成り立ってるのも珍しいと思った。
「実際に武器の製造って、ここで造ってるものじゃ――?」
「ここだけ規格外なのよ。
晃京は日本の中心地、首都だからあらゆる分野に
対応できるよう新設備が常に導入ウンタラカンタラ」
「そ、そうですか・・・」
「まあ、良いじゃない。
次の任務は追って検査していくわ。
今日は、そんなところ。
また何かあったら連絡するから待ってなさい」
という結果で自宅に帰る。
特別枠のポジションとして立っている自分達の
有り様を長く伝えられて任務は終わった。
TV局で出くわした光速男事件は一応終わり。
常識外れな事も少し慣れたような感じで、懐も平常化。
街で遭遇した男の件について聞きそびれてしまう。
カロリーナのメール話もそうだけど、
複数の組織や派閥も少し気になっていた。
対して、家の事情はどうなのかというと、
物資の発注は難なく立ち回れるようになれた。
姉は高速道路ルート以外の道も知っていて、
地元の人達は独自の抜け道を利用して
国の示すエリア外と連携し始めて備えるという。
店もそうだが、晃京の成り行きにも少し不安になる。
こんな状態はいつまで続くのか。
カウンターテーブルに突っ伏して顔を横にする。
時間つぶしと、付いていたTVを眺めた。
――――――――――――――――――――――――
「「あなたに太陽の様な輝きを得られるチャンス。
0.3カラットで指に素敵な出会いを――」」
「「EUは新たに医学部附属病院の再統合を行ったと発表。
薬学複合体の明瞭化と簡略化に勤しむ方向を――」」
「「それでは今日のアーティストはこちら。
――――――――――――――――――――――――
歌番組、生放送のようだ。
最近、都庁に関する報道ばかりだったのに、
時が過ぎれば何もなかったかのようなお決まりの
番組に戻り、ありふれた娯楽ばかり流す。
安定、配列、常識にのっかった定期的な表現。
世の流れは自分達が決めているとばかりに、
情報の塊を拡散させていた。
しかし、TV局もTV局だ。
こんな状況でも番組をやってるくらいだから、
無神経なくらい根性がすわってる。
局、というよりは都民の危機意識が無しに等しい
いつも通りなスタンスで大丈夫なのかと心配なほど。
ボンヤリとしながら観ていたら、
番組内で歌とは関係ない音が聴こえた。
「「ただいま、トラブルがあった模様です!
数人の女性達が暴れ始めて――」」
「なんだ?」
――――――――――――――――――――――――
映像が乱れております
しばらくお待ちください
――――――――――――――――――――――――
画面がテストパターン状態になる。
気まずさを隠すように放送中止になった。
「喧嘩でもしてたのかしら?」
「番組の演出じゃないのか?」
やらせかと思ったが、そうでもなかったようだ。
数分経っても戻らずに番組は結局終了。
画面が止まったまましんみりとすると、携帯が鳴る。
「「聖夜君いる?」」
「主任?」
マーガレット主任から電話がくる。
都心方面で事件が発生したらしく、
街中にいた女性達が押しかけていったという。
原因は不明で、悪魔の姿は確認されていないけど
なんとなく想定はついていたが、
ACの匂いがする気がした。
今日はもう遅いので翌日に来いとのこと。
ただ、明日はマナ、厘香、カロリーナもそれぞれ
仕事があるというので彼女とのみ行動。
またTV局絡み。
最近はメディアと縁があるような気がする。
顔に冷たい風を受けながら公権の地へと向かう。
次の日、科警研に到着。
女性の騒乱も、やはりTV局からによるものだった。
あまりにも事件性が奇妙で、悪魔はどこぞとばかり
今回もまた理解できなさそうな内容のものだ。
「なんで、女の人だけ?」
「全ての女性じゃないみたい。
パッと見、25歳以上の女ばかりで
未成年者には反応を示さなかったわ」
容疑は歌声を聴いていた女性達が突然挙動不審を起こし、
スタジオ内で争乱し始めた。
彼女達は歌手に向かって明らかに無我夢中を超えた様な
言動で番組中に席を外して叫び、彼に迫ったらしい。
最低限、好意的な言葉を発するものの、
相反するように行動が
詳しくは主任もよく理解していなかった。
そして、今日は何をするべきか聞くと、
他にも来客がいるという。
「ところで、今回俺だけですか?」
「今日はもう1人来るのよ。
彼女達じゃなく、依頼人として」
「もう1人?」
しばらくすると護衛に守られるようにロビーに姿をみせる。
帽子とマスクを装着した男がやって来た。
モッソリとした動作で下を向きながら部屋に来る者は
顔が隠れていても、誰なのかすぐに気が付く。
それだけ有名な人だったからだ。
「英津さん!?」
自分はモニターの向こう側にいたはずの人像が
目前にいる大きさの恒常性がズレたと一瞬覚える。
なんと、依頼人は歌手の英津玄米本人だった。
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