第10話  水底の蝕毒

 一連の内容で大体の経緯は理解できたが、

まだよく分からないところもある。

3人は組織がそれぞれなのに、連携をとっているのか?

もしかしたらとっているフリをしているのかと思うが、

利害の一致で水面下で動く節も感じる。

共通点となるACの恐ろしさの片鱗を視た気がした。

譲り受けた宝石を見つめつつ現場に到着する。


「ここが、水完公園ね。あたしは来るのは初めてだけど」

「端から端まで観えないくらいだしな」


約96万㎡と、非常に広い敷地であるここは

いこいの場として多く利用されている公園だ。

いつもは都民が利用しているが、今日は珍しく人がいない。

警戒態勢にしては警備員もおらず、

放置された雰囲気が辺りを散開させていた。


「いつも、こんなに少なかったか?」

「やっぱり、事件が起きてから様子が変わっちゃった。

 昼間だからといって、都民も外に出なくなったかも」

「フラフラする分、逆に目立ちやすいかもな。

 だから、主任は俺達の携帯を調べさせたのか」

「GPSで居場所を特定してるのよ。

 あたしらの動きが止まると悪魔発見ポイントで、

 そこ一帯をさらに洗うやり方だってさ」

「データや計測機器でも推し量れない部分もありますね。

 私達が直に探して発見する事で、

 悪魔のいる所をもっと詳しく――」

「「誰かいる?」」

「「隠れて!」」


カロリーナに頭を押さえつけられて茂みの背後に隠れる。

背広を着た数人の男達が歩いている。

一般人の顔をしていない連中は地面に視線を向けて

徘徊はいかいしていた。


「「厘香のとこ?」」

「「・・・違うわ、別の組織の人かも」」


顔は日本人、天藍会とは違うようだ。

一般人を退けて追い出したのかは分からないが、

今出くわしてしまうと厄介事になる。

自分らと同じようにACを探しているのか、

ゴミ箱や草むらを物色しながら

何かを探す様な挙動をして見回っている。

数分後、あきらめたのか公園から出て行ったようだ。


「物を探してるようにも見えた。

 まさか、俺達と同じものを?」

「かもしれないわ。

 情報を嗅ぎ付けてきた野良の線もありそう」

「科警研って、他にもチームがあったのか」

「いえ、警察や自衛隊以外の組織が探索している

 可能性もあります。

 つまり、ACを別の勢力も探しにきてる可能性が――」

「ねえ、池の中!?」


池の中央の水面から気泡が上がる。

緑色のタコ型悪魔が浮上した。

だが、自分はまともな飛び道具はなく、

銀のナイフは近づけばやりやすい武器といえど、

リーチも短くて安定しない。


「お前達はどうやって――!?」

「観てなさい、あたしらがただの女じゃないってのを」


マナと厘香は飛び道具を専門。

今回は彼女達に頼らざるをえない。

実力も兼ねてACの能力を見させてもらおうとした。


勇進せよ、神雷のベクトルgisgnavandruxgalgraphdon

碧風の矢gongondruxgal!」

「当たれ!」


黄色い電気が伸びて、見えるはずのない緑色の風が

矢尻に付着し、青く細長い針が悪魔に飛ぶ。


(皆の持ち武器か)


ただの女ではない証明を刮目かつもくする。

マナは水晶を手に応対。

厘香は木製弓矢で応対。

カロリーナは10cmある水色の飛針とばりで応対し、

遠距離射撃で討伐する手にでる。

雷、風、氷、3人の得意技とする意図的な自然現象は

異世界のそれをイメージできる。

魔女が実在しているかのような光景で、

このまま続けば終わるだろうと思いきや、

華麗かれいで一方的な展開など許されず。

触手が1本伸びてきた。

巻き添えだけは絶対に避けると、

3人は散開して多角的に攻めようとする。


「俺はどうすれば!?」

「ちょっと待ってなさい!」

「タコって、確か額の中心が弱点のはず」


カロリーナは飛針で頭部にめがけて突き刺す。

だが、効果があまり見込めないようだ。

緑色の皮膚は髪の毛の様な別の繊維をまとっているのか、

内部までとどいていなかった。


が邪魔してるみたいだわ、もーっ!」


池中央にいるので、

威力も減衰気味にダメージを与えにくい。

触手が伸びてひっぱたいてくる。

カロリーナは場の様子を考えている。

人の足場がなければあるように作る作戦にでた。


凍結しろordongraphgraphcephgraph!」


冷気を放出して水面を凍らせる。

優先的に水辺を活かすタコ型で、安易に近寄れずに

人の介入を試みたかった。


「接近するしかないみたい。

 カロリーナちゃんが足場を!」

「氷の上に乗って、聖夜!

 ナイフに属性エンチャント付与して刺しなさい!」


仕事ができたとばかりに接近にもち込む

チャンスを与えられる。

自分は以前と同じように銀ナイフに炎を付加。

今回は相手が人じゃないので遠慮なく突き刺した。


「うおおおお!」

「プギュショアオオォォ!」


手応えは確かに皮膚ではなく、痛覚のない膜の一部で

続けて色の濃い中心部を突き、タコ型の動きが鈍る。

活性化のきざしもなく、どうにか退治できたようだ。

死骸は水に浮かず、血もでない光景で

分解したかの様に散り散りに消えてしまったようで、

生物を相手にした実感が湧いてこない。

彼女達の言う通り、本当に昼間でも現れた。

悪魔という存在は時間帯に依存しない性質で、

ACと寄り添うようにある。


「消えた!?」

「内側にかえった、と比喩ひゆしています。

 異界の者達に命という概念があるのかまでは不明で」


マナの供述で非生物な詳細を浮きりにしてゆく。

こちら側からしては無機物的な存在としか思えず、

作り物と戦っているようにも感じる。


「そうだ、ACはどこに?」

「池の中よ」


誰かが隠したのか、沈められていた。

もちろん、こんな季節にダイブできるはずがない。

カロリーナがタコの出てきた位置のみを凍結させ、

マナが追って溶かしていくと深緑色の塊が複数見えた。

悪魔の出元がこんな石の中からなんて

今だに信じられないが、事実のようだ。


「本当にACから出てきたんだな・・・」

「異界の従者と聖書に記載されています。

 出生出身はもちろん、詳細は明かされていません。」


厘香はACから藍色あいいろの箱の様な物を出して

吸い込ませるように塊を収める。

中には素手で触れてはいけない種類もあり、

自身が怪我をしたり悪魔になる危険もあるという。

カロリーナは自分に肩で小突く。


「分かった?

 世界っていうのは誰かが知られたくないものを

 常識という道具でり固められているのよ。

 あたしらはこういった事を繰り返してんの」

「この世界に非常識をもってきてはならないと、

 組織は昔から陰で動かされ続けた。

 私達は今まで人目を忍んで回収しているわ」

「ああ、この目で見た。

 悪魔は確かに実在するんだ・・・」


彼女達の言葉はもう信憑性しんぴょうせいの域を超えている。

人と結晶との繋がりコンタクト

これが現実だと受け入れるしかないのだ。

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