第5話 虎ノ目
3人の立場と概要は大まかに理解できた。
といっても、行動できる話までは聞いてない。
肝心の目当ても晃京のどこかなんて分からず、
しらみつぶしに歩き回るわけにはいかない。
「今はどこにあるか分かったのか?」
「まだないみたい、科警研もまだ報告がこないし」
「ACはかなり広範囲にバラけたみたい。
一度ここを出ましょ、長居すると先生にも悪いし」
大人方面の組織も捜索中のようだ。
だからといって、すぐ発見できるわけもないので
彼らからの要請がくるまで待機するのみ。
とりあえず今日のミーティングはこれで終わり。
招集がかかるのを待って入口に向かったところだ。
「郷、どうした?」
「リーダーに殴られた」
同級生が1人入ってくる。
頬が赤紫に痛々しく腫れていた。
こいつは
同じクラスで中学から一緒だった。
ただ、他のグループとも付き合いが多くて、
噂の悪い連中とも接している時もある。
トラブルがあったようで、危害を受けたらしい。
「よく分かんねえけど、10万もってこいって・・・」
「そんな大金をせびられているのか!?
警察を――!」
「こんな時にオマワリなんて来ねえよ。
悪魔だかワケ分かんねえ奴らに追われてんだし」
話によると、言い掛かり同然で請求されたと言う。
理由も分からず、金を持って来いと要求された。
「いきなり要求されたのか、なんでそんな?」
「俺だって意味分かんねえ、急に態度が変わってよ。
あの人、昨日からおかしくなった」
「24日から?」
「みんなも気が縮んでる。
あの人は元から強えから、誰も歯向かえやしねえ」
都心の街路周辺にたむろする若者グループの
リーダーが金を要求し始めたらしい。
仲間達も今、現場から退散して当人だけどこかで
待ち続けているようだ。
24日という数字より、何かしら接点があると
これから行う役目の悪魔退治もそうだが、
友のコイツを見過ごすわけにはいかない。
「俺が話をつけに行く」
「お前が!? ぶっ殺されんぞ!?」
3人は連れていけない。
頼もしいけど、何の
今回は念のために自分と郷だけで行こうと決めた。
彼女達が3つのACを差し出す。
「聖夜君、これを持っていって」
「AC?」
「レッドジルコンは炎が発生する。
グリーンフローライトは動きが速くなる。
ペリステライトは硬質化して体が頑丈になるの。
持っているだけで効果を発揮するわ」
「こんなに」
安全を考えて新たにACを受け取った。
何やら能力を向上させる効き目があるらしく、
相手が相手だけに魔の手を制圧できる術を与えてくれる。
頼もしい。
せめてもの助力を足してもらえればどうにかできそうだ。
人目に付かないように手渡されると体の中に
言いようのないものが流れた感じがする。
郷の手当てが終わってから準備を終えて、
都心部にいる連中がたむろっている空き地に行く。
とある人気のない路地裏の一角。
190cmの赤い
ドラム缶で焚き火をしながらこちらが来た事に気付いた。
「金はもってきたか?」
「沫刃さん・・・」
今まで人望があり頼もしい人柄だったという。
何故、金をせしめるようになったのか。
直に話し合おうとした。
「あんだテメエは?」
「郷の友達だ、話をつけにきた。
金をせびっていると聞いて断りにな」
「テメエに関係ねえだろうがよ。
それとも、代行で払ってくれンのか?」
「金が必要なら自分で稼いだらどうだ?
成人なのに、年下からせびるなんて恥じも良いとこだ」
「死にてぇのか?」
「事実を言ってる、事情も考えない紛れもなく恐喝。
あんたがやってるのはれっきとした犯罪だ」
「あぁ~あ、分かってねえな。
これだから良い身分だな、学生ってのはよ」
「なに?」
「努力なんざ報われねぇんだよ!
こっちは死ぬ気でやってきたのに、
用がなくなりゃ、次の日からポイ捨てだ」
「・・・・・・」
「ワケの分かんねえ奴らがしゃしゃりでやがって、
俺の人生、んで、あいつの道も防がれちまった!
けどよ、運はオレに味方した。
コイツを手にしてからは・・・ナニモカモ」
「それは・・・ACか!?」
黄色く中心に黒い線が入ったような石を目にした。
どこかで拾ったのか、この男も適性をもっていたらしく
塊を握りしめて上を向いて吠えだした。
「もうこれからは好きにヤっていく!
欲しいモンは力づくで手に入れるわァ、ゴガルルルゥ!」
男の体中に黄色の毛が生えだす。
人が3mの猛獣に変身した。
「悪魔!?」
トラ型になる。
眼付きは完全に人ではないそれは四つ足体型に変わり、
自分を獲物としか見ていない。
(離れないと!?)
始まりの合図もなくすさまじい速さで突進、
一々ナイフで斬りつける余裕もない。
単純な物理的斬撃では相手の方に分があり、
接近では不利になると回避優先で回ろうとした。
(ACを使うしかない)
事前に扱い方は教わり、何度か使っている。
ここでレッドジルコンの炎で対抗。
「んだ、その火はァ!?」
(みんなと違って上手く火を飛ばせない。
有効に使うには・・・)
自分は火に触れても熱さを感じない。
ACと同化した影響で自身と融合したような状態だ。
ただ、扱いに慣れていないから火の玉などに変えられず、
ナイフに炎を付加する事で暴挙を止めようと計画。
天然繊維は簡単に燃えないが、
脅しでも分からせようとした。
猛獣といえど、火を恐れる。
コケ脅しだろうと、
殺すつもりはないが、相手はこちらを殺すつもりだ。
「ニンゲンが獣に勝てるわけねぇんだよォ!」
「ぐっ!」
男の爪が腹をかすめる。
服は切れたが、内蔵までとどいていない。
物理的耐性のあるペリステライトが抑えてくれた。
獣なりの感触で判断したのか、
沫刃は似た者同士だと言いつけた。
「テメェ、ふつうのニンゲンじゃねぇな!?」
「悪いが俺も事情がある、観念してくれ」
斬撃でも急所を避ければ致命傷にならないはず。
刺突だけはしたくないから、
大して広くもない路地裏で利用できる物がないか
気づかれないように見渡す。
ポリバケツを男の顔面に投げつけた。
「効かねえよ、ンナモン!」
バケツはあくまでもフェイント。
ハイジャンプして男の裏へ回り、連中なりの作法で
しがみついて炎に満ちた銀ナイフを押し付ける。
「ンダ、アッチィ!?」
根性焼きという“
即死には至らず、時間をかけて苦痛を味わわせる。
次第に動きは鈍くなり、猛獣の膝が地に着いた。
「クソガァ、こんなヤロウにコノオレガァ!」
「お互いに新しい力を得たのは同じだろう。
だけど、むやみにふりかざせば跳ね返ってくる!」
「聖夜・・・お前」
様子を観ていた郷は形容なき場を
これで男も
そう簡単に反省する性格にも思えないが、仕打ちは仕打ち。
まだ続ける気なのか、悪魔の姿でのたうち回るまま
少し空気の間が空いた瞬間だった。
「グギャオオォォ!」
「えっ!?」
突然、上部から人影が降りかかり、
長身の細長い物がオオカミを斬る。
1mはある刃が赤い
人型としかいえない何か、ゴツゴツとしていない
丸みを帯びた白銀の機械が立ち上がった。
(ロボット?)
沫刃の手に持っていた黄色の玉が地に転がる。
やはり、本物のACなのか。
地面に転がる地上の異物に注目すると。
「あっ!?」
人型にACを持っていかれてしまった。
並みでないジャンプ力でビルの隙間をかいくぐるように
大きな音を立てずに跳んでいった。
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