9-6
蒼い女は、相手に同情しながらも、気になっていたことを問いかける。
「ところでさ、泣いてるとこ悪いんだけど」
「はい、なんでしょう?」
「さっきはスルーしたけど、釣り師って。あのどこでアレ釣っただの、これ釣っただのってただ自慢しあってるだけのアノ釣り師?」
「はい、その釣り師です」
「へぇ~~~。あのバラエティ職でまともに戦闘しようなんていう酔狂な者が現れたこと事態奇跡だわ」
「まったくにもって同感です。と、言いたい所なのですが。彼に、関して言えば天職といってもいいかもしれませんねぇ」
「ふ~ん。じゃぁなに、その釣り師とやらは、きちんと戦闘できてたりするってわけ?」
「きちんとっていう感覚を、まず捨てるべきですね。まぁ、ボクもログを見ただけで判断するのは軽率だとは思いますが。彼に関して言えば、釣り師イコール、使えない職業という概念は捨てて考える必要があります。なにせ、レベル1の時にレベル22のストーンゴーレムを、ほぼ単独で倒してるみたいですからね~」
「あのね……あんた常識っていう物差なくしちゃったの?」
「残念ながら、独自の試算結果から限りなく不可能に近いが不可能ではないと出ているんですよねぇ」
「は~? そんなわけないでしょ!」
「お忘れですか? 釣り師が遠距離型の職業において最も攻撃力の増大という恩恵が与えられているのを?」
「まぁ、確かに一時は、あまりにも攻撃力があり過ぎるって問題になったけど……当たらない大砲に対する価値は宝くじと同じでしょ。結局、それで誰も見向きしなくなっちゃったじゃない。だいたい、錘飛ばして的に当てる実力あるくせに、それでモンスター釣るわけでもなし……そもそも……釣りは釣りでも、連中がやってるのは魚釣りじゃない……まったく」
本来の釣りの意味で言ったら全く問題ないはずなのだが、こうして蒼い女が嫌な顔をするほどに――彼ら釣り師は、完全に戦うステージを湖や、川、に特化させていた。
本来の恵まれたスキルを全く使うこともなく、ただただ魚を釣り続ける日々。
それが蒼い女だけでなく他の職からも一線引かれる理由だった。
「ええ、まったくにもってその通りなのですが。彼の命中率100%なんですよね~」
「はい!? なにそのふざけた命中率は!」
「しかも、攻撃力を最大限まで上げた状態での命中率なんですよ~」
「なるほど、それでストーンゴーレムも倒せるかもしれないと……」
「いえいえ、それだけじゃないんですよ。実は、彼って非常に珍しい成績を残していましてねぇ。6大会連続2位。しかも終了間際にその日一番の大物を釣り上げて入賞するという実に興味深い内容なんですよ~。つまり、大物賞は6大会連続で彼がモノにしてます」
「確かに、それは狙ってできるものじゃないわね……」
「ええ、ですから彼の場合。普通あまり変化のないステータス。運というステータスがかなり大きくなっているんですよ」
「なるほど、以前宝くじを当てたって人が凄い数値になってるって話を聞いた事があるわ」
「はい、それと同じと思ってくれていいでしょう。それに、この運というのはクリティカル発生率にも影響しているのはご存知ですよね?」
「なるほど。つまり、その最大攻撃力とクリティカルのコンボでなら倒せるかもしれないと?」
「はい、それもあるのですが。実は、彼にも裏の顔があるんですよ」
「なんでも、先程申し上げた釣り大会終了後には、指定された錘を使った遠投競技。裏の大会がありまして、そこで彼6大会連続で優勝してるんですよねぇ~」
「まぁ、非公式の大会といえど、その情報がリトライのデータベースに入力されてれば当然なんらかの恩恵を得れるでしょうね」
「はい、裏の大会とはいえ。表の競技はしっかりとしたものでしたから、普通に今でもネットで情報が拾えるレベルですし。確実にリトライのデータベースには登録されていると思います。でなければ、決定的な攻撃力の増大になりえませんからね」
「ふ~ん。それらが複合して、驚異的な攻撃力を叩き出していると?」
「はい、それもありますが」
「まだなにかあるの?」
「はい、実は彼、一度利き手を骨折した状態で大会に出場しているんですよ」
「ふっ。でも、それって表の大会終了した後の競技でも優勝してるんだからたいした怪我じゃなかったか我慢できるレベルだったってことでしょ?」
「それが、画像付きでアップされてましてね~。文字通り歯を食いしばってリールを巻き上げていましたよ」
「は~なに、みっともない。そこまで無理するほどのものじゃないでしょうに」
「ええ、でも彼は痛みで気絶するまで、耐えたそうですよ。正直、ボクとしたことが感動してしまいました」
「それは、天変地異の前触れね。よしてくれないかしら」
「ですが、そういった執念ともとれる、努力、信念、それらが隠しステータスとして上乗せされている事実は否定出来ません。利き手が使えない状態でありながら、左手で竿を振り、口でリールを巻き上げる。痛みに耐えながらも勝利に飢えたギラつく瞳。口からは血がしたたり、かっこ悪いどころか不気味な姿。でも、最高にカッコいいと評価を受けていましたよ。そんな、怨念にも似た強い思いはしっかりとエッグに刻み込まれ、ここリトライでは驚異的な武器になります」
「なるほど、つまりそれら全てがプラス方向に働いて奇跡的な現象を生み出しているといいたいのね」
「はい、その通りです」
「ちなみに彼がそこまでして競技を頑張ったのにはきちんと理由がありましてね 何だと思います?」
「どうせ、男の意地だとでも言うんでしょ……」
「半分正解ですね~」
「ふ~ん。じゃぁあと半分は、何かしら?」
「あなたなら、なんだと思いますか?」
「さぁね。理由はともかく私のためになにかしてくれてるんだったら、その男に惚れるわね」
「ご名答。実は彼。自分を怪我させた女の子を泣かせたくないために頑張ったらしいんですよねぇ~。それが、未だに美談として語り継がれてる理由なんです。そして。これが、その泣かせたくなかった女の子でして」
奇術師がモニターに映し出した画像は釣り大会にて船外だったら大物賞は彼のモノ?
というタイトルで使ったアノ画像だった。
そこには、いかついシャチの飛行艇を背景にして。
ごく自然に微笑んだ女の子が男の子の頬にキスを添えているシーンだった。
照れも恥じらいも無い。
純然たる無垢なおめでとうと、ありがとう。
その一枚でお互いが信じ合う特別な存在なのだと伝わってくる画像データだった。
「ああ、あれね。選外だったのは飛行艇釣っちゃったからだっていう」
「はい、あの時の新聞もバカ売れしましてね~。おかげで、ボクもほくほくでしたよ~」
「は~」
「ん……どうしました? 顔が赤いですよ……心拍数も増大しているみたいですし。診察が必要でしたら特別にただで診て差し上げますよ?」
「あんた、少しは乙女心ってのを理解した方がいいわよ」
「それはまた、ご冗談を。ボクが恋を知った時は、世も末でしょうからねぇ」
「まったく。いやな話を聞いたものだわ」
「そうなのですか?」
「ええ、そうよ! 惚れた男にいきなり恋人が居るって知らされたようなものですからね!」
「なるほど、確かに。彼、興味深い戦闘スキルを持っていますからね~。一緒のチームでやりたいと思う気持ちは分ります。ですが、彼。既に、真剣狩る☆しおん♪に登録済みですからね~」
「……ばか」
「まぁ、いいじゃないですか 今度のクエストは一緒に共闘出来ますから」
「はぁ?」
「事後承諾になりますが。我々、神々の頂と真剣狩る☆しおん♪は同盟を組みました。ですので、いつでも共闘可能となってるのですよ」
「それって、つまり……」
「はい。貴女が欲しがっていた太陽の腕輪を取りに行くということですよ」
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