9-2


 山賊達は、無駄口を一切こぼさない。

 簡単な手のサインと目配せだけでターゲットを追い込んで行く。

 厄介な奴らだ。

 装備にも統一性が見られない。

 他のプレイヤーから剥ぎ取った物のみで身を固めているからだ。

 追い剥いだものだけで楽しむのが彼らのスタイル。

 そうして、自分達にルールを設け、縛る事が強さに変わることもある。


 彼らが正にソレだった。


 相手よりも劣る武具。

 ソレを補うための気転と判断。

 隙を的確に突く思い切りの良さ。

 相互理解が深く連携も見事。

 そしてそれら全てを後ろに居る魔法使いを庇いながらさばき切る騎士。

 こいつも相当のてだれだった。

 だからこそ己の実力を疑う事無くこんなところまで来たんだろうが。

 今回ばかりは相手が悪い。

 アイコンタクトだけで銀色の装飾剣を持った男が指示を出す。

 一端いったんだけで判断すれば、こいつがリーダーに見えるだろうが、後の二人も同様の動きを見せる。

 それは状況に応じて誰かが主導を握り、後の二人はその指示に従順するからだ。

 相手、地形、状況から適切な陣形に形を変えて強者を屈服させる。

 そこに悦を見出したからだった。


 狩人には油断も過信も隙もない。


 徹底的に騎士を狙って攻撃していたのは罠にはめるため。

 ロングソードを持った二人が魔法使いに同時に切り掛かる。

 一人は上段から脳天目掛けて振り下ろし、もう一人は足を狙って突き刺す。


「うを~~~~!!」


 一人ずつさばくのは無理と判断した騎士は、力技で大地ごと抉り払い二本の剣を弾き飛ばす。

 金属同士が激しくぶつかり合い火花が散る。

 がきーんと音を立てる。

 その瞬間、騎士は感じ取った。


 軽すぎる。

 やられた――と。


 右腕を伸ばしきった体制で垣間見た二人の手には短剣。

 長剣での攻撃は隙を作るための罠だった。

 二人が勢いそのままに騎士に突き掛かる。 

 一人は盾で捌き、一人は鎧の防御力を頼って痛いのは我慢と割り切った――その時。

 完全にもう一人の存在に対する意識が希薄になっていた。

 ソレこそが、彼らの狙いだった。


「メイルブレイカー!」


 銀色の宝飾剣が輝き騎士の脇を深々と貫いていた。

 鎧を砕かれ、鍛え抜かれた筋肉は一瞬だけ抵抗するもプチッと弾ける様に裂け騎士の体内へ剣を導く。

 その手応えは擬似的ながらも銀色の宝飾剣を持った男にも伝わる。


「はぁぐぅ……」


 苦悶の表情を浮かべた騎士は膝をつくも、血が噴出すことはない。

 痛みと苦しさは、あっても。

 ダメージは、あくまで数値でしかない。

 しかし、騎士は致命的な一撃を食らった事により行動が困難な状態となっている。

 不痛症でもない限り脇を貫かれた痛みに耐えられる者なんてそうはいない。

 そこに、短剣を持った二人が追い討ちをかける。

 一人は、短剣を逆手に持ち替えて首を貫き。

 もう一人は低い姿勢のまま太もも目掛けて両手で打ち刺す。

 その追撃で首が落ちることもなければ足がもげることもないが……

 騎士は沈黙。

 行動不能状態へとおちいっていた。

 こうなれば自己回復は、ほぼ不可能。


 ならば、もうじゅうぶんだろうとあおい女が言う。


「ちょっと悪いんだけど! 私の獲物横取りしないでくれるかしら!」

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