8-12
龍好達と、遊ぶようになったみらい。
まず、影響を受けたのは、言葉づかいだった。
元々両親が西守らしくない立ち回りをしていたために爵位を剥奪され。
取引先もほとんどが疎遠になり。
社交界に顔を出す必要もない。
ならば、どうでもいいと思ったのだ。
本来なら、親代わりとしてみらいの従者を務める者がたしなめるものなのだろうが。
彼らは、別段それらをとがめることもなく日々は過ぎ、みらい本来の自由奔放な性格が暴れていた。
結果的に残った資産と数少ない取引先とのやりとりで凌いでいるのが現状。
始めて自分で釣った魚の味はびっくりするくらい美味しかった。
ハーブの香りを強目にし、柑橘系の酸味を加えた特製のバジルソースはみんなにも好評だった。
「やっぱり、始めて自分で釣った魚の味は特別だからな!」
龍好の言うとおりだと思った。
教えられれるがまま、半信半疑の釣りだった。
ルアーを飛ばすのは難しかったので、糸を巻き取るだけだったのだが……
魚が食らいついた時の手ごたえは、いまだに、みらいの手に残っていた。
釣った魚は小さくとも、みらいの心は、はしゃいでいた。
それこそ、歳相応の子供のように。
そんな感じで日々は過ぎ――
中学生になる時期が近づいてきて。
そこで、起こった問題があった。
刹風がこの街を離れ、遠くの町で両親と共に暮らすというものだった。
しかし、それは決して楽な生活ではない。
むしろ刹風がソコに行けば両親の負担が増えるのは明白だった。
そこに付け込んで、みらいが提案をする。
それは――
お金を貸してあげるから、一緒に西守学園に通おうというものだった。
もちろん条件はある。
特別就労学生育成プログラム。
それは西守により育成され西守にとって都合の良い人材を育てるシステムである。
それにより定められた基準をクリアするためにいくつかの仕事を課せられる。
まず、みらいが目を付けたのは労力の割りに見入りの少ない朝の新聞配達だった。
学内の敷地で発刊される西守学園新聞の配達である。
殆どが高層住宅での配達になり、その件数が多すぎるため、大抵の学生が半年と経たず挫折する厳しい内容だった。
そのため、それを必ず引き受けるから、という条件は、話を通しやすかった。
それらの仕事に従事し、得たお金は学費や生活費に消えていく。
早期から自立し大人に混じって就労する事で卒業と同時に即戦力となる人材を育成する。
それによって、両親の負担は減らせるのだ。
次に求められる条件は、西守学園敷地内にある寮で暮すこと。
これも、親元から引き離し自立心を養うためとされていた。
刹風は、これを受け入れ母親もしょうだくする。
そして――
「言っとくけど、お金貸してるからって偉そうな態度とったらぶっ飛ばすから!」
「あら、奇遇ね。私も、お金借りてるからって卑屈になったりしたら絶交しようと思ってたところよ!」
「ぷっ! あははははは」
「うふふふ」
二人は笑っていた。
本来友人同士での金の貸し借りは、あまり良しとされない。
しかし、なんにでも例外はある。
そんな程度で揺らぐ事のない友情の前では、それら否定的な意見は、むなしく聞こえるばかりなのだから――
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