5-24
安全性を重視したイージーモードでの開催のため、釣った魚が暴れ回る事もなければ、超巨大魚をブッコヌキしたとしても水面が上昇はすれど、その余波が他のプレイヤーにとって致命的にならないよう、直ぐに収まるようになっている。
釣った魚も臭みやぬるぬる感もない。
恋人同士の参加も多いため。
釣果を喜び合う二人が生臭さでいまいち盛り上がれなかった。
という過去の意見を参考にして、これらが実装されているのだ。
刹風とみらいは小物でも釣ってポイントを少しでも稼ごうとしていた。
参加費さえ払えば初心者用の扱い易い釣りセット一式が貸し出されるためソレを使って釣り始める。
使い慣れたスピングリールと柔らかめで良くしなる竿。
刹風には、ちょっと物足りなかったが。
非力なみらいにとっては、ありがたかった。
使えるルアーは三種類用意され。
深場を狙う赤とオレンジが混ざった小魚に模した物。
薄い緑に青が映える中層用は、ひらひらが付いていてどことなくイカっぽい。
比較的表層を狙うための黄色い背中に七つの赤い斑点がついたものは可愛らしい天道虫だった。
みらいは、最も釣れる可能性が高いとされるイカもどきを選択。
刹風は、少しでも高いポイントを稼ごうと小魚モドキをチョイス。
魚が食い付きたくなるアクションを起せば起すほど釣れ易くはなるが、この大会はスペシャルイージーモードでの開催のため。
全く釣りをした事がないド素人でもルアーさえ一定距離飛ばせればバンバン魚達は食いついてくる。
つまり、卓越した技術よりも個人が持つ天運というステータスが大きく左右するルールだった。
そのため、リアルでプロをやっている最強のチームが、素人の寄せ集まった合コングループに苦渋を飲まされる可能性すらあるのだ。
刹風とみらいがはしゃぎながら魚類を釣り上げていく。
いったん仕掛けに食いついた獲物は、取り逃がすことのない簡単お手軽お楽しみ仕様は面白い様に獲物を運んでは大会を盛り上げていた。
あちらこちらで歓声を上げては大会に華を添えている。
刹風が始めに釣り上げたモノは、トゲトゲのない丸みを帯びた桃色のタラバガニ。
みらいは、オレンジ色した星形のヒトデだった。
「なに、ここってカニも釣れるの!?」
「ええ。魚類なら何でも釣れるみたいよ、
「あはは。いいじゃんそのヒトデ可愛いし」
「ええ、生臭くもなければ不気味に動き回る事もない。実にファンシーな企画よね」
「確かに、このイベントががカップル推奨になってた理由も分るかも」
「ちなみに、今私達が釣ったモノは両方ともポイント対象外だからゼロポイントよ」
早速ポイント加算用に渡された空色のバケツにカニを入れようとしていた刹風の手が止まる。
「は~。なによそれ! なんでも釣れればいいんじゃなかったの?」
「あのね~。これはゲームなのよ。こうした意外性のあるファンシーなモノじゃなくてきちんとポイント加算用のグロテスクなモノだってあるみたいだし」
「げ、そうなの……」
「ちなみに、刹風が狙ってるタナだとアンコウやシーラカンスなんかがポイント高目よね」
「や、でもさ。あれってリアルに再現されてたら不気味じゃない……これってカップルがいちゃいちゃするために用意された企画なんでしょ?」
「はぁ~。あのね~。あんたみたいに男勝りな娘ばっかりじゃないのよ」
「なによそれ! いいじゃんべつにっ!」
しゃべりながらも手は止められていないとばかりに。
早速シーラカンス狙いでルアーを投げ入れる刹風。
一投毎にその距離を伸ばしていく刹風は、早くもこの竿の使い方をつかんでいた。
「つまりっ! そういった触りたくないものを女の子に代って男がつかみ取ってポイントを大量ゲット。そのポイントで女の子にプレゼントでもしてみなさいな。意外に頼りになる男だったというアピールが出来ただけでなく。大会でしか手に入らない可愛いアクセサリーの一つでもプレゼントすれば思い出に残るサプライズイベントにまで昇華する事が可能があるのよっ!」
投げては、リールを巻き取り。
また投げる、を繰り返しながらみらいは、予想される企画者の真意を自分なりに解析した結果を伝える。
「ピー助。その海星と蟹。食べちゃっていいわよ」
「むぴゃ!」
ピー助は、大喜びでヒトデとカニに食いついていた。
「なるほどねっと! きたー! 大きいわよコレ!」
「やるじゃない早速シーラカンスでも釣って見せてくれるのかしら、って! こっちもかかったわ!」
刹風が釣り上げたのは、巨大な琵琶湖大ナマズだった。
大きさにして1メートルを超えているのに――それほど引きも強くなければ……
岸まで引っ張ってこれば大人しく捕まるのを待っていた。
手にした感触でせいぜい40センチ位の魚だと思っていたのに――で、ある。
「ねー。いくらなんでも、これってリアル無視し過ぎじゃない?」
「いいじゃない。それ10ポイント入るわよ」
「んまぁ。それならいいけど……って! これっ、持ちにくいし、重い」
自分で持ち上げてバケツまで運ぶのを諦めてヘルプを出す。
「ねー栞~! お願い~!」
「はいな~」
ぱたぱたと栞が駆け寄って来る。
「やったわ! 50ポイントゲットよ!」
みらいの手元には、つかんだ糸を振り子にして金色の金魚がゆらゆら揺れていた。
その大きさは10センチほどしかない。
「はぁ~、なによそれ! なんで、そんなに小さいのにポイント高いのよ!」
「ほえ~。かわええ金魚さんやなぁ~」
「だって、これ。簡単にポイントゲット出来るために用意されたイベント用の魚だもの。それと、早速来てくれた栞には悪いんだけど、そこのバケツ持って岸で大人しくしてるナマズに被せてみて」
「は~。なにそれ」
刹風が、意味わからないからと抗議する。
「いいから、見てなさい」
「ほな。いくよ~」
雪だるまを仕上げるとき。
頭に乗せるバケツよろしく栞がナマズの頭にバケツをカポッと被せると!
☆ピロリ~ン☆
可愛らしい効果音と共にバケツの横に貼り付けられたポイント表示がゼロから10に変わった。
「おお~! ポイント入ったよ~!」
ぱたぱたと栞が寄ってくる。
「何度も、言ってるけどこの大会は超簡単お手軽仕様で開催されてるの。どっかの馬鹿が鯨釣り上げても簡単に持ち運べる様になってるのよ。それに、私達には、わざわざ体張って自己アピールする理由もないわけだし」
みらいは、呆れた顔で、真剣に鯨を狙う龍好を眺めていた。
それに刹風も栞も習って見つめる。
「あはは、ほんとに鯨釣っちゃいそうだから笑えないのよね~」
呆れた顔で笑う刹風に栞は遠足前の子供の様なはしゃいだ顔で、その結果をみじんも疑っていないとこたえる。
「当然や~! たっくんは鯨釣ると言ったら釣っちゃう子やからね~。ほなうちは戻るなぁ~。くろにゃんとお話しとったんよ~」
「そ、話の腰を折っちゃってごめんなさいって伝えておいて」
「あはは。なんかわざわざ悪かったわね」
みらいと刹風が、詫びを述べると。
「ほな。また後でなぁ~」
栞は、手を振りながらパタパタと奇術師の元へ戻って行った。
「っと! ところで、他にイベント用に用意された魚って他にどんなのがあるの?」
時間を無駄にしてはいられないと刹風が竿を目一杯しならせて遠くまでルアーを飛ばしていく。
その感性の良さをうらやみながら、バケツに金魚を入れると――みらいもルアーを飛ばす。
その距離は、刹風の半分もなかった。
竿のしなりも、ルアーの垂らし量も、きちんと計算して調整してるのに、運動神経がプッツンした体は相変わらずギクシャクするばかりだった。
「……そうね。一番ポイント高いのは、私がさっき釣った金色の金魚。次に銀、赤、と続いているわね。基本的に大きいほど高得点なんだけど、赤だけは三回連続で釣るとスペシャルボーナスが発生して4回目からはポイントが倍になるそうよ。しかも累積して倍々に加算されてくから場合によっては鯨釣るより効率いいんじゃないかしら?」
「なるほどねぇっと! それじゃ、運で勝敗が決まっちゃうっていう可能性もありえるわよね?」
「ええ。現在最高スコアを出しているチームも7回連続で赤い金魚釣り上げたのが大きいって書いてあるから、実際、私達に、もっと! その、可能性は残されてるってことよ」
竿を振ってルアーを投げては、狙う獲物が居るであろう深さまでルアーが沈み込むまでの合間に半透明の画面を指でタッチして情報集めに専念するみらいだった。
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