5-10



 自分の現在位置から龍好は、刹風と栞との合流を選んだ。 

 釣具屋さんからフィッシュライフが近かったからである。

 その隣を、嬉しそうに歩くピー助(仮)。

 そして、迷うことなく店に着くと直ぐに――

 案山子になっている栞と合流出来た。

 当然栞の目は、龍好の足元に向く。


「なぁ、たっくん。その子どないしたん?」

「なんか、迷子みたいでさ」


 すぴすぴと鼻を鳴らしている小動物は、とても可愛らしかった。


「そうなんや、迷子ならしゃーないなぁ」

「にしても……なぜか、あいつって不思議と仕事だけは、きちんとこなすんだよなぁ」


 刹風の仕事振りを見て龍好は思ったまま言葉を零す。


「当然や。それがせっちゃんの長所やからな!」

「まぁ、そうなんだけどなぁ」


 龍好は、普段もう少しなんとかなったらなぁ。

 そんなことを考えていた。


「仕事はテキパキとこなすのに、私生活ではボケまくる。そんな設定の荒さがせっちゃんのええとこやん」

「って、そっちかよ!」

「そんなんこっちに決まっとるやん! たっくんは、頭が良くてお金もってるせっちゃんとか想像できるん?」


 首を傾げ腕を組んで唸ってみるも……


「スマン、全く想像できんかった」

「せやろ、何でもそつなくこなすせっちゃんなんて。ただのつまらん、なんでも屋さんやよ!」

「ん~、言われてみるとそうなのかもな」


 ☆バシン☆


 オレンジ色のスリッパが栞の頭で良い音を奏でていた。


「ったく! 人が仕事してる横でよくもまぁ好き放題言ってくれるじゃない!」

「やっぱ、陰口は好かんからなぁ」

「あぁ、全くにもってその通りだ」

「そうだけどね! 確かにそうだけどね! あと、あんた達が言ってるほど私は、ボケまくってなんかいないんだからね!」


 周りに居たお客さん達がくすくすと笑っている。


「そんなことない! せっちゃんは毎日ボケまくってる!」

「それは、あんた達が余計なことばっかするからでしょ!」

「そないなことない! うちが何もせんかて、せっちゃんはボケボケや!」

「あぁ、俺も栞が正しいと思う……」

「ちょっ! なに裏切ってんのよ! っていうか、あんたいっつも栞ヒイキしてるよね!」

「そうかぁ?」

「そうよ! 現に今だってそうじゃない! ってゆーより。いつ私がボケたっていうのよ!?」

「いつもも何も今日だって思いっきりボケかましてただろ!」


 龍好の顔が赤くなる。


「って! なに急に照れてんのよ! 気持悪いわね! だったらなに! いつ私がボケたか言ってみなさいよ!」


 龍好は、恥ずかしさのあまり言葉が出なかった。


「ん~、うち的には、現在進行形でめっちゃボケまくってるようにしか見えへんけど。せっちゃんが否定するってゆーなら、それはそれで構わんし~」


 栞が龍好に向き直り、にんまりと微笑む。


「よかったなぁ、たっくん。せっちゃんボケやなかったんやって!」


 パンパンと龍好の肩を叩く。


「そう、だったんだ……」


 さらに、龍好の顔が赤く染まっていく。


「って、だからなんであんたが照れるのよ!?」

「そんなんせっちゃんがたっくんと一緒にラブラブ、ちゅーちゅーしながらアイス食べれて幸せやったって言っとるからに決まっとるやん!」

「えっ! ……あ……」


 刹風の顔が一気に赤く染まった。

 龍好の顔も負けじと真っ赤に染まり耳まで真っ赤だ。


「ほな、うち、みらいちゃん迎えに行ってくるなぁ」 


 ほどよくハードルが上がったところでまる投げだった。 

 刹風は、仕事が終わったばかり。

 栞の後を追う理由が思い当たらない。

 二人とも真っ赤っな顔して、視線を合わせたり外したり――また合わせたりを繰り返していた。

 傍から見れば一目瞭然……

 会話の内容からも『ああ、アイツが刹風の特定の相手なのか~』といった感じである。

 触れ合い、深く語り合える間柄なのだろう。

 そんな憶測が浸透して行く。


 刹風には恋人がいたんだなぁ……


 そんな噂が広まるのは早い。

 多かれ、少なかれ、これで刹風に言い寄ってくる男が減少するのは確実である。

 正に栞クオリティだった。


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