3-31

 高くそびえ立つ立体迷路の入り口に三人の少女が現れる。

 小さな黒と中くらいの白と大きめな白黒だった。

 白と黒が開口一番に叫ぶ!


「せっちゃんのドアホ!」「このバカ!」


 ハリセンもなければスリッパもない。

 真剣そのものの真っ直ぐな四つの眼光!

 赤の混じったタレメがつり上がり刹風を睨んでいる!

 それに負けじと、キラキラした空色の瞳も同様に睨んでいた!


「って、ちょっとなんなのよ二人とも! なんで、こんなとこに入っちゃってるのよ!」


 刹風も負けじと言い返し!

 いがみ合いが始まった!


「うちは、せっちゃんがこないにドアホやとは、思わなかった!」

「まったく! 全部あんたのせいじゃない!」

「っとに、なんなのよ! せっかくあの人達親切で言ってくれてたのに!」


 みらいは手にした瞬間移動石を見せる。


「最悪の場合使うつもりだったわ……」

「ちょっと、なんでそんな危ないもん使わなきゃなんないのよ!」


 最悪の場合、精神的ダメージに耐えられず死亡扱いになるデスアイテム。

 押してはいけないボタンがあったら確実に押すような栞ですら仲間の身を案じて使わない代物。

 そうまでして守りたい友への思いゆえだった。


「あんたをバカから引き離すためよ!」

「うちは、汚名覚悟で張倒すつもりやったよ!」


 最悪禁じネタを発動させて山賊に成下がるつもりだったのだ。


「って! だからなんであんた達はそんなにムキになってるのよ!」

「バカ! アレは危険物よ! 不用意に係わっていい相手じゃないわ!」

「っていうか! 犯罪者の顔丸出しやったしな!」

「って、だから、なんでそうなるのよ!」

「いくらあんたがバカでも相手が変な目であんたのこと見てたのは気付いてたわよね!?」

「ったく、そのくらい分かってるって! っていうか男なんて大抵そうじゃない!」


 実際、刹風に関わろうとする男の大半は、体目当てだった。


「ドアホ! 下心と悪巧みは、全くの別もんやよ!」

「その通り。もし、あんなバカに付いて行って見なさい! どうなったと思うわけ!?」

「どうも、なんないわよ! 別にリアルで会おうなんて思ってないし!」

「だったらいい顔するのは控えることね! それと今後は相手を勘違いさせる様な言動も慎みなさい! 裁判沙汰になった時に不利になるわ!」

「いや、そのなんか。その、ホントにそんなダメな人達だったの?」


 刹風は、ここに至っても未だに半信半疑だった。

 こんなにも、二人が真剣に怒っているというのに。


「バカ! 犯罪者が自分は、犯罪者ですって看板掲げてるとでも思ってるわけ!?」

「あ、いやそれはないけどさ」

「あの手合いはしつこいえ! きっと次のてー打っとるよ! どないするきなん!」

「最も確実なのは、今日限り。っていうか今すぐにでも止める事ね!」

「ちょっ! いくらなんでもそこまでしなくたっていいじゃない!」

「ドアホ! 自分から止める覚悟ないんやったら痛い目見る前に止めとき! ココはせっちゃんが考えるとるような甘い世界ちゃうよ!」

「全くバカに効く薬が欲しいくらいだわ! 私達は整形もしてなければ名前は実名! つまり、リアルで会おうなんて思ってなくてもあってしまう可能性もあるの! 想わせ振りな態度とってたら致命的な事になりかねないんだから!」


 刹風の脳裏に二人の相手を睨みつける態度が思い浮かぶ。

 正直なところ。

 あの態度は、どうかと思っていたからだ。


「やっ! でもそれ言ったら相手怒らせたって同じじゃない!」

「ドアホ!! だから、みらいちゃん丁寧に頭下げてお断わりしてたやん!」

「あ……」


 確かにアレは、みらいには不似合なほどに丁寧な対応だった。


「とりあえずあの場はアレでやり過ごして対策を考えるつもりだったのよ!」

「それやのに、話し合わせて喜んで見せるから、相手その気になってもうたんよ! せっちゃんのドアホ!」

「う……」

「どないするつもりなん!?」

「あうー」

「はぁ……、とりあえずあんたのバカ頭にも少しは私達の気持理解してもらったと思いたいけど、分かってくれた?」

「ぁえ、うん、なんとなく……」

「はぁ、うちはせっちゃんがこないにアホやと思わんかったんよ~」


 栞は、へなへなと崩れ落ちてペタリと座り込む。 

 その顔は友人をこの世界に踏み入れさせてしまった後悔で溢れていた。


「いいこと! 今後は、男と見たら全部、敵か悪だと思いなさい!」


 みらいの声は厳しいが、その表情は泣いていた。

 悲しげに歪む友の顔を見て――ようやく自分が愚かだった事に気付く刹風だった。


「全く、アナタのこと見損なったわ……」


 みらいは、そびえ立つ立体迷路の入り口を見上げて溜め息を零す。

 薄い茶色の壁は、厚く高い――

 時折強く吹く乾いた風が砂を巻き上げて視界を曇らせていた。 


「最悪っていうか3分の1ぐらいの確率で、無傷で出口に出れるんだけど」

「うちは、このままログアウトしてペナルティ受けるんがええと思う」

「やっ、ちょっと、それじゃ今日のポイントなくなっちゃうじゃない!」

「はー、今日で止める人のセリフじゃないわね……」


 みらいはげんなりとして言う。


「せやなぁ、当たり引けば、めっちゃ強いヤツが待っとる所。外れ引いたらさっきのヤツラが雇ってた山賊が待ち伏せとる」

「こんな状況で他になにか手があるって言うわけ?」

「真っ向勝負の中央突破よ!」


 二人の呆れきった表情に笑みを点す一直線の言葉だった。


「はー」

「ホンマにドアホーやなぁ」

「なによ! 当たり引けばボスと戦えるんでしょ! 最後になるかもしれないなら、その、さ。顔くらい拝んでおきたいじゃない」

「まぁ、その考えは嫌いじゃないわね」

「せやなぁ、どうせペナルティ受けるんなら玉砕もえーかもなぁ」

「でも……きっと明日になれば、お店に顔を出すでしょうね」

「う……反省してます……」


 二人は、苦笑いを零し。

 刹風は、大きく肩を落としていた。


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