2-7
「矢月さん! どうかお願いします!」
「あ、いえ。そんなにかしこまらないでください芒原さん」
「ですが、人の足元を見るような頼み方をしている以上せめて頭は下げさせてください」
俊夫が頭を下げるには、相応の理由がある。
息子、龍好の面倒を長期に渡って見て欲しいという頼み事だったからだ。
日々生まれては消えていくオンラインゲームの世界に置いて国内でも優秀な業績を上げているブルークリスタル。
その開発が日々前倒しに前倒しされ、両親揃って不在になる日々が続き。
息子は両親不在の生活をよぎなくされていた。
いつまでも息子を一人でいさせるわけにはいかない。
だからといって、施設に預けたりはしたくない。
頼れる親類は、遠方にしかおらず。
信頼できないハウスキーパーを雇うのもどうかと思っていた。
誰か信頼出来る人に頼めないだろうか?
その一念が、旧友矢月の存在に気付かせてくれた。
芒原と矢月は、昔馴染みの付き合いで。
互いの子供が物心付く前は、良く行き来しては食事会を開いたものだった。
矢月が事業を始め。
芒原は開発チームのチーフを任され――それぞれが、お互いの道を突き進むようになってから疎遠になっていた。
そのため矢月が事業に失敗した事も知らず。
やむにやまれず高利貸しから金を借り。
その返済のために危険な仕事をやっていることも知らなかった。
事業拡大を目指して新たに建てた倉庫が放火に遭い――
その時発生した賠償金を払いきれなかったのだ。
逮捕された犯人が未成年だったと聞いて全て察した。
矢月が全て背負ったのだと。
自分に迷惑を掛けたくなくて何も言わなかったのだと。
そんな事になっているとは知らず。
久しぶりに友人の声を聞きたくなって電話したら――話は、とんとん拍子に進み。
『それでしたら、私が息子さんの世話をさせて頂きます』
二つ返事で受けてもらえてしまったのだ。
理由を聞けば、矢月家にとって、この話は渡りに船。
いくら切り詰めたとはいえ、家賃に光熱費などの固定費は出て行ってしまう。
しかし、芒原の家に住み込めばそれは不要になり。
さらに、給金がもらえる。
これ以上、願ってもない条件だったのだ。
刹風の母は、娘の同意も無く勝手に決めていた。
そして、頼んだ。
「お願いだから、龍好君と仲良くしてあげて……」
「うん。わかってるよ。お母さん」
刹風は、死んだ魚の様な濁った目で良い返事を返した。
仲良くしてあげて、それは本心ではない。
正解は、『問題を起さないでね』である。
自分を殺すことなんて、いまさらだった。
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