1-11


 それは、入学早々――


 通過儀礼的に行われる自己紹介の時から始まった。

 廊下側の最前列から窓側最後尾に向けて比較的順調に進んでいた。 

 そして破壊神の出番になると、少なからずクラスに張り詰めた空気が漂い始める。

 担任であると同時に世界最高の危険人物と認定されている紅と対をなす存在とまで呼ばれた栞。

 例え見た目が可愛かろうと、その固体が持つ戦闘能力は幼少時ですでに戦車並みとされていた。

 それが同期生というだけで初の定員割れを起し。

 その大半が普通科に逃げのびていた。


 まぁ、普通の親なら当然といえば当然の処置といえるだろう。

 なにせ感情の起伏による制御不能状態を押さえ込む事が現時点で不可能だったからである。

 平常時ならばエッグが制御してくれるのだが。

 人生なんて何があるか分ったもんじゃない。

 不用意に触れて怪我した者が居る以上。 

 そんな者が居るクラスに我子を預けても良いなんて思う親は、私設部隊配属を願う親くらいだった。

 結果的に席の数も三割ほど空席となり。

 クラスメイトの数も総勢25名。

 普通科と比べると格段に少なかった。


「はい! 紅先生~!」


 ごく普通に手を上げて立ち上がっただけですら栞の左隣に座っていた女生徒は涙ぐみ。

 その隣に座っていた男子生徒も気を利かせてか席を替わってあげていた。


「は~」


 その光景に紅は、溜め息を吐き。

 新たに受け持った連中を見渡す。


「もういい。逃げたいヤツは後ろに下がってよし! それから、なんだ由岐島……」


 栞が、とてとてと紅の所に歩む間に大半のクラスメイトが椅子取りゲームでもしているのが如く最後尾を得ようと動く。

 その速さは、実に俊敏だった。

 栞の目的は自分流の特別な自己紹介。

 それを耳打ちで直々に願う。 


「ふっ、だったら好きにやってみろ」


 紅は、出来るものならやってみろ的に言い捨てた。 

 正直二度手間になるだけな気もしたがマンネリ化は否めない。 

 大抵の事は、慣れと下準備があればなんとでもなってしまうからである。 

 もし、本当に由岐島の言った通りになるのなら、それに便乗するのもアリだと思ったからだった。


「了解です~」


 栞は敬礼すると、専用の長いタッチペンで転校生みたいに自分の名前を書き始める。

 黒板代りのデカイ画面には――でっかく、しおりん惨状と書かれていた。

 そして、にこりとしてクラスメイトを見渡す。

 その意味を察したのは、こめかみを押さえている二人だけ。

 龍好と右隣に座る、みらいだけだった。

 あとのクラスメイトは皆、


(普通参上だろ。ってゆーか漢字もまともに書けーのかよ。やっぱ、才能だけで入学したヤツはバカだな)


 こんな感じの見解で栞を見下していた。

 そんなツッコミが全く入らないクラスを変えてみようと、栞は宣戦布告をする。


「今日からこのクラスで芸人目指す事になりました、由岐島 栞いいます。皆はん、よろしゅうなぁ 」


 ぺこりとお辞儀をする姿は普通の大人しい女の子そのもの。

 何も知らないで出会っていたなら見とれている男子生徒が居ても不思議じゃなかっただろう。

 もし席が自由に選べるなら先程女生徒に席を譲った者の様に栞の横や後ろを狙うべきであろに。

 後ろは、空席のままだった。


 ――そして。


 2時間目の授業。

 世界史が始まった。

 本来は、担任である紅の魔法学だったはずなのだが。

 急きょ2時間目と3時間目が入れ替えられていた。



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