1-8
刹風がネットを見ていた画面に、友人が近付いてきた事を知らせる表示が出る。
友人登録してある端末が近付くと、こうして誰が来たのか教えてくれるのだ。
近付いて来る端末は3つ。
みらい、栞、龍好の準だった。
(あれ? いつもと、並びが違う)
これは、ひともんちゃくあったのだろうと刹風が顔を上げれば。
手足を一生懸命にぶんぶん振りながら、鞄を持っていないみらいが足早に近付いて来る。
全体的に落ち着いた雰囲気がある制服は、ちっちゃいみらいにも良く似合っていた。
もっとも、小等部――それも新入生にしか見えないというのは決して口に出してはいけない禁句だったりするが。
布の総面積で値段が大きく変わる西守学園の制服。
刹風にとってみらいの小ささは羨ましい限りだった。
実際、成長と共に心許なくなってっくるスカート丈だって値段を安くするためだけにギリギリで設定したのであって、ファッション的な意味は全く無いし。
上着だって入学当初は全く問題なかったはずのSサイズ。
それが今となっては、ぱっつんぱっつんになっている。
正直なところ、これ以上成長して欲しくない!
それに対し、むくれ顔で近付いてくる、みらいのスカートは長めで踝ほどまでもある。
『きちんと成長するからこれでいいの!』
と言っていたはずの身長は全く伸びず今も昔も変わらない。
でも、その過去を知っているだけに実に可愛らしく思え。
それと同時に、ウエストのサイズは、ほとんど変わらないのだから、交換してほしいなぁ、なんて思ってしまう。
みらいのスカートの方が長目だからだ。
「おはよう……」
「おはよ。で、どうしたの?」
みらいは一度後ろを振り返って作った顔のままで罠を仕掛ける。
「龍好にプロポーズしたら栞にふられたのよ」
「はぃー!?」
みらいは、刹風の表情変化から心に隙を作った事を確認すると――にやり、としたい頬を押さえ込み。
なるべく、平静を装って相手が気になりそうなセリフでエサをちらつかせる。
「冗談よ」
刹風は、なんとなく栞がネタを仕込んでいそうな気配を感じながらも、気になってしまった以上聞かないと気が治まらない。
溜め息をこぼして、「はぁ…」もう一度聞く。
「で、なにがあったの?」
みらいは、心底嫌そうな顔をして、食いついた獲物に罠を吐き捨てる。
「あんたのパンツの色を調べてこいっていう罰ゲームを課せられたのよっ!」
「ちょっ!」
刹風は、慌ててスカートの前後を押さえると、胸の高さに表示した画面がエッグと共に下に移動して行く。
見事に対象を、前かがみさせるのと同時に両手を塞ぐことに成功したみらいは!
その一瞬を狙い打つ!
相手の狙いに気付いた刹風は自分に向かって伸びて来た手から逃れるため後方に飛び退く!
「ちょっ!」
しかし!
背中側には壁。
「ぅぐっ!」
当然跳ね返った身体の一部は、みらいの両手に納まる。
ぐにゅ――!
後方退避した後悔と共に、胸が持ち上げられるやられた感!
みらいは、ぐにゅぐにゅとたわわに実ったブツの重さを量ると。
「やっぱり、栞の言った通り、またおっきくなったわね……」
任務完了とばかりにやにやしたのも束の間、
「こんな屈辱を感じたのは、生まれて始めてだわっ!」
薄っすらと涙を浮べ。
マジ泣き寸前の憎しみを込めた顔で刹風を睨んでいた。
「そっちが勝手にやったんでしょうが! ってゆーか普通怒るの私だよねっ!」
さすがに、ちっちゃい女の子を引っ叩くのは気が引けたので文句を言うだけに止めておく。
「だってっ! こんなに悔しい思いする罰ゲームだとは思わなかったんだものっ!」
「あや~! みらいちゃんお見事やったなぁ!」
「あんたのせいで! 私の心は、ズタボロよっ!」
「それは、みらいちゃんが悪い子やったからやよ~」
刹風は、してやったりって顔した栞を睨み下ろす。
「エッグ・オフ!」
手にしたエッグをスカートのポケットに仕舞い込むと、ほぼ同時に鞄を拾い上げて、中から茶色いスリッパを取り出す。
そして、真上から栞の頭頂部を、
☆バシン☆
と、ぶっ叩いていて、
「あんたは、新学期早々なにやらせてんのよ!」
怒声を吐くが、
「せっちゃん! おはよやぁ~!」
栞は、何事も無かったかの様に、いつもの笑顔で元気な挨拶を返してきた。
手には二人分の鞄が抱きかかえられている。
それに龍好も続く。
「おはよ~。んじゃ行こうぜ、いい加減時間やべーだろ?」
その、顔は少し照れていてた。
数秒ではあるが、しっかりと刹風の胸を、じ~~~っと見ていたからである。
それを見たみらいは、
(なによ! 嬉しそうな顔しちゃってさ! バカ!)
心で悪態を吐くと――
先程の重量が両手にズッシリと蘇ってくる。
(そりゃ…ちょっとどころじゃなかったけどさ……)
そして自分の胸を見下ろす。
くやしくて涙が溢れてきた。
どうして、こんなにもこの身体は無様なのだろう。
心底呪わしかった。
「はぁ…」
刹風は、いつもながらの深い溜め息を吐く。
「はいはいはい、おはよ~」
げんなりとしながらも、やや遅れて新学期初の挨拶を返すのだった。
その、様子を見て、守衛さんがくすくすと笑う。
胸板の厚い体育会系のおばさんにとって彼らのやり取りは、一種の娯楽と化していた。
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