翼竜討伐 2

 スーナの街から山を目指す6人の人影があった。


 先頭はオークの女だ。恐ろしい切れ味の剣で襲い来る巨大コウモリやクモを真っ二つに切り裂いている。


 その後ろには魔術師が居た、剣が届かない高さのモンスターを火や雷で撃ち落としている。倒しそこねた敵は少女が木の杭を投げて撃ち落としていた。


「モモちゃんは裏の武器を使っているけど、それを抜きにしても二人共成長はやいねー」


 ルーはパチパチとモモとユモトに拍手を送る。


「あ、はい、ありがとうございます」


「ルー殿のご指導のおかげです」


 ユモトは照れながら頭を下げ、モモは剣を鞘に収めて言った。


 ムツヤは最後尾で探知盤とにらめっこをしている。


 万が一にもキエーウが裏の道具を奪いに来ないか警戒のためと、コイツを先頭にすると歩いているだけでモンスターを蹴り飛ばし、手で払っただけで粉々にしてしまうからだ。


 モモとユモトを早く1人前の冒険者にしようと考えているアシノの提案で、翼竜討伐に遅れない範囲で二人に前衛を任せている。


「そろそろ日も暮れてくるな、野営の準備をしよう」


 アシノがそう言うと全員が返事をしてムツヤのカバンからテントを取り出す。


 開けば家が出てくる魔導書もあるが、誰かに見られたらまずいのでテントで寝ることにした。


 モモとユモトは料理当番で、残りはテントの設営だ。料理を作ってムツヤのカバンに入れてくれば楽だったのだが、急だったのでそんな準備をする時間は無かった。


「私もー限界!」


 テントの設営が終わるとルーは倒れ込んで寝てしまった。前日寝ずの番をして今に至るのだから無理もない。


 ヨーリィは迷い木の怪物から教わった結界を張っている。


 マヨイギのように空間を結界で閉じ込めることは出来ないが、侵入者が来た場合すぐ察知できるようになるらしい。


「みなさーん、ご飯できましたよー」


 しばらくすると、ユモトが大きい声で言った、それにつられて皆ぞろぞろと焚き火の前に集まる。


 相変わらず美味い料理達を平らげると、疲れからか、みんな眠気に襲われた。


 テントは2つあり、男女別だったが、ヨーリィは魔力の補給があるのでムツヤとユモトと一緒のテントで寝ることになる。


 テントに入った後、ムツヤがやたら上機嫌だったのでユモトは質問をしてみた。


「ムツヤさん、何か良いことがあったんですか?」


 するとムツヤは笑顔で答える。


「いや、こうして皆で歩いて旅をして、テントで寝るって憧れてた冒険みたいでちょっとワクワクしでしまっで」


「なるほど…… そうですね、こういう旅は僕も初めてなんですよ」


 フフッと笑った後ユモトはすぅーっと眠りについた。


 まだ空が暗い時間だというのにモモは目が覚めた。アシノとルーを起こさないようにこっそりとテントから出て空を見上げる。


 標高が高い山の上だからだろうか、満天の星空はいつもより綺麗で幻想的だった。


 ふと何かの気配がして後ろを振り返る。


 するとテントからにゅっとムツヤが出てきた。


「誰か人が動く気配がしたんですが、モモさんでしたか」


 モモはムツヤを起こしてしまったことよりも、流石だなという感情が上回ってしまい、少しくすりと笑ってしまう。


「起こしてしまって申し訳ありません、ムツヤ殿」


 ムツヤは歩いてモモの隣に来る。そして誰に言われるでもなく空を眺めた。


「今日は星が綺麗でずね」


「えぇ」


 そしてポツリとモモは話し始める。


「ムツヤ殿と一緒に旅をした日にちはそこまで長くないはずなのに、何だか不思議と長い間一緒に居る気がしています」


「俺もですモモさん」


 二人は目を合わせない、座り込んで夜空を見上げながら話しをしていた。


「二人で始まった旅なのに、今ではこうして沢山の仲間が居て」


 そこでモモは言葉に詰まってしまう、最近思っていた感情が溢れそうになり、抑えようとするが、抑えきれずに聞いてしまう。


「私は、私はムツヤ殿の旅に必要でしょうか? お役に立っていますか? 戦いが強いわけでも魔法が使えるわけでも…… 知識や技術も無い私が……」


 思わず言葉と一緒に涙が溢れそうになる。


 最近感じていた自分の無力感と役に立てない情けなさをついにモモはムツヤへ話してしまった。


「何言ってるんですかモモさん、モモさんが居ない旅なんて考えられないです」


 そう言ってムツヤはモモの方を見て笑顔を作る。そしてふと思い出したように言った。


「あ、もしかして街まで案内するっていう約束だったから…… 旅するの嫌になっちゃいました?」


 そう言えばそういう約束だったなとモモも思い出す。


 そして、慌てて首を横に振る。


「い、いえ、そういうわけではありません。ただ、私がこれ以上一緒に居ても邪魔になってしまうのではないかと思って……」


「邪魔だなんて思いませんよ、モモさんとはずっとずーっと一緒に旅をして欲しいです」


 ムツヤの素直な言葉に思わずモモは夜空を見上げた。


 何故この人は恥ずかしい言葉をサラリと言うのだろうと。


「そうですね、私も、ずっとムツヤ殿のお側にいたいと思いますよ」


 言って自分で恥ずかしくなった。それと同時に流れ星が1つ見える。


「今、見えましたか? 流れ星。流れ星が消える前に3回お願い事を言うと叶うらしいですよ」


「そうなんですか!?」


 ムツヤは驚いた声を上げた、そんなムツヤを見てモモは目を細めてクスクスと笑う。


「次見えたらお願い事をしてテントに戻りましょうか、明日も早いですし」


 モモが言うとムツヤは返事をし、真剣になって夜空を見上げた。


 しばらくすると、また一筋の光が夜空に線を描く。


「ハーレムを作れますように! ハーレムを作れますように! ハーレムを作れますように!!」


 雰囲気がぶち壊しである。そう言えばムツヤの夢はそうだったなとモモは思った。


「ちゃんと言えまじだよモモさん!!」


 笑顔でムツヤはモモを見るが、彼女はそっぽを向いている。


「えぇ、それは良かったですね」


 ムツヤは不思議そうな顔をしていたが、そうだとモモにたずねてみる。


「モモさんは何かお願い事をしましたか?」


「内緒です」


 そしてモモは立ち上がるとムツヤの方を見た。


「テントに戻りましょう。休める時に休んでおかないといけません」


「そうですね」


 モモの態度が急に変わったことをムツヤは不思議に思いながら、テントの中でまた眠りにつく。

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