翼竜討伐 3

 朝になりユモトは目が覚めた。テントを出ると空は快晴で、眩しい朝日が出迎えてくれた。


「ムツヤさん、ヨーリィちゃん、起きて下さい」


 ユモトが二人の肩をトントンと叩くと、二人共むくりと起き出した。


「ふーんあー…… おはようございますユモトさん」


「おはようございますユモトお姉ちゃん」


「おはようございます、でもお姉ちゃんじゃないからね?」


 いつもの様なやり取りをして3人はテントを出る。そして、ムツヤのカバンから食材を出して朝食の準備をした。


 簡単な朝食ができる頃、ヨーリィは女性陣のテントへ3人を起こしに行く。


 全員が揃い、心地よい朝日のもとで穏やかな朝食が始まる。







「ウゴオオオオオオオォォォォ」


 それは突然だった。とっさに反応できたのはムツヤだけだった。遅れて他の皆も空を見上げる。


 翼竜だ、トカゲを大きくして羽を生やしたあの姿は間違いない。ムツヤ達からだいぶ距離はあるが、雄叫びを上げて飛び回っている。


「まずい、藪の中に隠れろ!!」


 皆、弾けたように立ち上がり藪の中へと隠れた。声を潜めてユモトは言う。


「あ、あれって獲物を探してるんですか!?」


 その質問に、猟師であるモモは憶測で答える。


「いや、狩りならば自分の居場所をわざわざ大声で知らせることはしないと思う」


「ご明察ぅー」


 どさくさに紛れながらジャムを塗ったパンを持ち出せたルーは、それを食べながら言う。


「アレは求愛行動ね、いわゆる『お姉さん、俺とお茶しない?』みたいな、簡単に言えば翼竜のナンパってやつ?」


 なるほどとユモトは納得した。アシノは木にもたれかかって腕を組んで目を閉じる。


「一応アイツがどこかへ行くまでは隠れるぞ」


「何か、突然大変なことになっちゃいましたね」


 不安そうに言うユモトとは対称的にアシノは余裕そうだった。


「悪いことばかりじゃない。アイツはまだつがいの竜を見つけてないって事が分かったんだ」


 確かにとユモトとモモは納得する。翼竜は一通り飛び回って叫ぶと、山の向こうへと飛び去ってしまう。


「さてと、厄介な客人が消えたことだし飯の続きだ」


 能力や技術を失っても、肝が座っている所はさすが勇者だなとムツヤ達は思った。


 思わぬ訪問者に邪魔をされたが、6人は朝食を済ませ、翼竜の巣へと向かう。


 前衛はモモとユモトに任せ、その後ろからヨーリィは木の杭で、アシノはビンのフタで支援しながら魔物を蹴散らし進んでいく。


 ルーとムツヤは交代で反応のない探知盤とにらめっこしていた。


 昼は少し開けた草原で休憩を取り、あっという間に夕暮れだ。


 翼竜の巣には明日到着できるだろう。皆それぞれ野営の準備を進める。


 日が暮れて虫たちの声がする中、ムツヤのカバンにバラバラにして入れておいたバーベキューセットを組み立てて、6人でそれを囲んでいた。


「よーし、楽しいバーベキューパーティーの始まりよ!!! とりあえずかんぱーい!!」


 ルーはノリノリで乾杯の音頭を取る。肉が焼けるジュウジュウとした音といい匂いで腹の虫が鳴った。


 ムツヤは本で読んだような冒険者らしいことをしていると少し感動に似た感情を抱く。


 翼竜は変温動物なので気温が下がる夜は活動が鈍る上に、夜目も効かないので基本的に行動をしない。だから夜はコソコソせず思いっきり騒げるのだ。


 全員が肉を充分に堪能した頃、アシノとルーは飲み比べを始めていた。モモもルーによってなかば強制的にそれに参加させられた。


 ムツヤとユモトは青いシートの上に隣同士に座ってパチパチと燃える炎を見ている。


「みんな楽しそうですね」


 酒を飲む3人を見てユモトは言う。


「そうでずね」


 ムツヤは満腹感と探知盤を操作し続けた疲労感。そして少しだけ飲んだ酒のせいでトロンとした顔をして生返事をした。


 うつらうつらとしていたムツヤは眠りかけたようでユモトの方にもたれかかって来た。慌ててユモトはムツヤを支える。


「大丈夫ですかムツヤさん? もう寝ましょうか?」


「だ、大丈夫れす」


 どう見ても大丈夫じゃなかった。うーんとユモトは悩む、ムツヤをテントに運ぼうにも自分じゃ重くて背負えない。


 ユモトは正座をした。そしてムツヤの頭を太ももの上に乗せる。自分でやっておいて何だが、恥ずかしくて顔を赤くしている。


「ムツヤさん、冒険は楽しいですか?」


 半分寝ているムツヤにユモトは聞いてみる。


「はい、たのしいれす」


 気持ちよさそうに寝かけているムツヤは答えた。それを見てユモトはクスッと笑いひとり言のように小さく「良かった」と言った。


 結局ムツヤはユモトに膝枕をされたまま寝てしまい、それを見たモモが背負いあげてムツヤをテントに放り込むまで続いた。

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