裏の道具を装備していくかい? 2

 ツーサイドアップにした銀色の髪をたなびかせてルーはけらけらと笑った。


「僕は男なのでちゃん付けは…… やめてください」


 ユモトは右手を軽く握って口元に当てながら言った。その仕草からは男っぽい感じが伝わってこない。


「ごめんごめん、でもユモトちゃんの服って『ゴイチ一族の服』でしょ?」


「はい、僕もその血を受け継いでいますから」


「そう言えばそうだったな」


 ルーとユモトとアシノの間で話が進み、ムツヤとモモは蚊帳の外だった。


「ゴイチ一族って何ですか?」


 ムツヤが疑問を口にすると、モモもずっと聞いてみたかったことを話してみる。


「そうだ。その服は母上の形見で、着ていると魔法の威力が上がるとは聞いていたが、それ以上の事は知らなかったな」


「そうですね」と言ってユモトはうーんと目を閉じてどこから説明するかを悩んでいた。


「ゴイチ一族ってのはね、簡単に言ってしまえば有名な魔法使いの一族なのよね」


 ユモトの代わりにルーが説明を始める。だがこの世界で生きていたはずのモモはその一族の名前を聞いたことがなかった。


「そうなのですか、知りませんでした」


「仕方ないですよ、ゴイチ一族よりも有名な魔法使いの一族なんて沢山いますから」


 少し照れた顔をしてユモトは続ける。


「それにゴイチの一族は、何ていうか…… シャイな人達が多くて表舞台に立ちたがらないんですよ」


 なるほどなと、モモはユモトを見て思った。確かにユモトが有名な魔法使いの一族だと自慢している姿は想像が出来ない。


「それで、ユモトちゃんが着ている服はゴイチの一族が着ると魔力のコントロールがしやすくなるってわけ」


「そうなんです、それと……」


 1つ間をおいて恥ずかしそうにユモトは話し始める。


「これはお母さんの形見ですから…… 恥ずかしいですけど着ていると安心するんです」


 ユモトは照れながらニコッと笑って言った。


 白を基調として、胴回りや袖に青色や金色でアクセントを付けたそのローブは機能性の良さもあるが、それ以上にユモトの精神面で必要なものなのだと全員が理解した。


「それだったら、ローブの下に何かを着ておいた方が良いんじゃない?」


「それだったらこれはどうですか?」


 ムツヤが取り出したのはパッとしない鎖帷子だった。


「おっ、これも魔法でかなり強化されてるわね! これ着たほうが良いわよユモトちゃん!」


 ルーの助言を聞き入れてユモトはムツヤから鎖帷子を受け取る。体力のないユモトにも羽のように軽いそれであれば負担にはならないだろう。


 と、これでユモトの防具の選定は終わるはずだったが。


「あ、そうだ。魔法使いの衣装があったので、一応出してみますね」


 ユモトは何となく嫌な予感がしていた。ムツヤがカバンに手を突っ込んで取り出したそれは。


「あったあった」


 白い布地に胸の部分はピンク色。すこし胸元がはだけており、ヘソは丸出しになるだろうという着丈だった。


 ふわっと広がっているスカートはフリフリとしている。それに合わせるように白いニーソックス。先端がハート型になっている杖のおまけ付きだ。


「これが魔法使いの服?」


 顔を傾けているルーの頭の中にはクエスチョンマークが出ている。


「なっ、よく分かりませんけどこれ女の子用じゃないですか!」


 流石にユモトも大きな声が出てしまった。


「別の世界の魔法使いの服なのかもしれないわね。って事で」


 ユモトは後ずさりをしていたが、ニコニコと笑顔を作って衣装を持ったルーが近付いてくる。


「着てみよっか?」


「い、嫌ですよ!!」


 普段は皆に合わせて大人しい性格のユモトも、こればかりは断固拒否していた。


「それに、使い心地を試すならルーさんが着れば良いじゃないですか!」


 もっともな意見を言うが、それはどうやらルーの耳には入っていかないらしい。


 ルーに手を握られてユモトは別室へと連れて行かれる。


 ムツヤに助けを求める目をしたが、いってらっしゃいと手を振るだけだった。


 そして待つこと少々、ルーが部屋から出てきてグッと親指を立てる。


「こんな格好で皆の前になんて出られませんよ!!」


「大丈夫だって、安心してよー。似合ってるからヘーキヘーキ」


 ユモトは顔だけをこちらに覗かせていた。その頭にはティアラが乗っていた。


「こんな、これじゃ女装じゃないですか!」


 顔を真っ赤にしてユモトは言った。そんなユモトの肩をルーはパンパンと叩いて言う。


「これは実験なんだから、この服とユモトちゃんがいつも着ている服のどちらが魔法を使う時に向いているかの」


 「うぅ……」とユモトは下を向いてうなり、もうどうにでもなれと扉からバッと飛び出した。

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