裏の道具の自由研究 3
「ムツヤ殿!!」
メイド服を着たモモが玄関の扉を開けると開口一番に言う。
「本当にご無事で良かった……」
日は少し前に暮れてしまい、モモの潤んだ瞳は魔法の照明の光を反射してキラキラと輝いて見える。
街からの帰り道は特に何も起こらず、ユモトが無駄に怯えただけで終わってしまった。
「ただいま、モモさん」
「おかえりなさい、ムツヤ殿」
「あー、イチャつくのは良いが家の中に入れてくれ」
二人を見てアシノは頭をぽりぽりと掻きながら言った、するとモモの目線はムツヤから慌ててアシノに移る。
「そ、そんな、い、イチャついてなどおりまちぇ、おりません!!」
「はいはい、わかったわかった」
そんなモモを押しのけてアシノは家に入った。「うぅ……」と言いながら顔を隠すように下を向いてモモは道を譲りムツヤ達も家の中へと入る。
「それじゃあ急いでお夕飯を作りますね!」
割烹着に着替えて台所に入るとユモトは袖をまくり上げて「お任せあれ」といった自信満々の顔をする。
「はい、お願いじまず。あ、あと皆にお土産にクレープ買っできだがら後で食べましょう」
「うわぁー、僕クレープ大好きなんですよ、ありがとうございますムツヤさん!」
その華のある笑顔は、一瞬ユモトが男であることを忘れてしまいそうになった。
台所から少し離れた居間で鎧を脱いでソファに座ってくつろいでいるアシノは対面に座るムツヤに尋ねる。
「なぁ、本当にユモトって男なんだよな?」
「そうでずよ」
そう、決して忘れてはいけない。ユモトは男だ。
「それで、隣のヨーリィは迷い木の怪物の眷属で、今はお前が主人なんだよな?」
ムツヤにもたれかかって眠そうにしているヨーリィをあごで指してアシノは言う。
「えぇ、そうでずよ」
ふーんと目を閉じてアシノは考える。
「なぁ、お前の夢って何だっけ?」
「はい、この世界でハーレムを作るごどでず!」
純粋な笑顔を作って最高にゲスな考えをムツヤは口にする。こいつは多分本気なんだろうなとアシノは理解した。
「えーっと、お前さ。色々なことに目をつむれば今の状態ってハーレムなんじゃないのか?」
3秒ぐらいムツヤはぽかんとしていたが、騒がしい声を上げて言う。
「うっそ!? 本当でずか!?」
アシノはため息をついてアホのムツヤに説明をしてやるかと話す。
「まずモモはお前の従者なんだろ?」
うーんとムツヤは腕を組んで考える。
「はい、モモさんは従者だって言っでまずが、俺はどっちが偉いとか抜きにして仲間だと思っでいまず」
「まぁ良い、それでハーレム要員が1人だろ?」
「待っでぐださい」
そういうアシノにムツヤは真面目な顔をして待ったをかけた。
「俺もごの世界で、モモさん達オーグに合うまでオーグは人間の女の子を襲うものだと思っでましだ」
ムツヤは胸に手を当て、身を乗り出してアシノに言う。
「でもそれは違っだんです。オーグは女の子を襲わないし、オークと人間が異性として相手を意識するのは物語の中だけらしいんでず」
すぅっと息を吸ってムツヤは高らかに宣言をする。
「ですから俺はモモさんの事をハーレム要員だとか、異性だとか、そういう目では見ていません!」
廊下で何かがコトンと落ちる音がした、何が起きたかアシノは大体察しがついた。
「お前それ、モモの前で言ったら、多分あの子泣くぞ……」
「えっ、どうじてですか?」
ムツヤは悪意の一欠片も無かったのだが、心からの言葉は時に相手を傷付けるものだ。
「じゃあ次、ユモトだ」
次は台所から何かが落ちる音がした。それと同時にムツヤは声を出して笑い始めた。
「ははは、アシノさん。ハーレムって沢山女の子に囲まれる事ですよ、ユモトさんは男ですって!」
アシノは遠い目をして思った、今日の夕飯のハンバーグ丸コゲにならないと良いなと。
「それじゃその隣に座っているヨーリィはどうなんだ?」
言われてムツヤは隣を見る。下からはヨーリィが首をかしげて真っ直ぐ見上げていた。
「ヨーリィは流石にまだ子供でずし」
「でも実年齢は100歳越えてんだろ?」
言われてムツヤは確かにと気付いた顔をする。
「アシノ様、それは私が生きていたらの話。私は1度死んでいますから年齢はありません」
そう言えばそうだったなとアシノは思った。
「私はお兄ちゃんの命令であればどんな事も応えるつもりですが、死体がハーレムに居るのは周りから気持ち悪がられると思いますよ」
ヨーリィがそこまで話し終えるとムツヤはヨーリィの頭に手を置く。
「俺はヨーリィの事を死体だとか気持ち悪いって思っだごとは無いよ」
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