迷い木の怪物 2
迷い木の怪物はメキメキと音を立てて木から体を剥がす。
木から離れると疲れる上に魔力も弱まってしまうので、なるべくなら歩きたくなかったが仕方がない。
静寂が支配している深い森の中を2人は歩き続けた。
家とは何だろうかと迷い木の怪物は考えている。ヨーリィに与えた魔力はまだ尽きていないので見間違えをすることはないはずだ。
「この先ですマヨイギ様」
「どれどれって」
ヨーリィが手で指し示す先にあったのは……。
「お家がおったてられてるぅぅぅ!?」
迷い木の怪物は取り乱して変な声が出た、そこにあったのは立派な一軒家だった。
「え、なんで、意味分かんないんだけど」
「私もわかりません」
一方その頃ムツヤ達は家の中ですっかりくつろいでいた。
ムツヤはソファで横になり、モモは外をたまに警戒しながらも、椅子に座って疲れを休めている。
ユモトはムツヤのカバンから取り出した食材で鼻歌交じりに料理を作っていた。
時間は少し前の事、ムツヤはカバンから大きな魔導書を取り出して地面においた。すると光とともに2階建ての立派な家が地面から生えてくる。
「こ、こんな召喚ができる魔導書なんて初めてみました!」
ユモトは興奮気味に言う。小さなテントを召喚する魔導書なら見たことがあるがここまで立派な家が出来るものは初めてだ。
3人が家の中に入るとモモがふと思い出して進言する。
「そうだ、ムツヤ殿! あの離れた人とも会話ができる宝石で応援を呼んでみませんか?」
「そんなものまであるんですか!?」
また驚くユモトと、なるほどと思うムツヤ。
話し合いの結果ゴラテに助けを求めようとして壁に宝石をぶつけるが、割れずに床にコロコロと転がるだけだった。
「おそらくなんですけど、迷い木の怪物の魔力で邪魔をされているのだと思います」
ユモトの言葉にモモは不安を覚える。A級クラスの魔物なのだから強いのは当たり前だが、ムツヤの道具を無効化することまで出来るとは思わなかった。
「迷い木の怪物の魔力が尽きるまでここで耐えるのが良いと思います。道に迷わせるための魔力が尽きるにしろ、戦いになるにしろこちらから攻めるのは危険なので」
真面目な顔をしてユモトが言う、そこには頼りなさげな印象は無く、さすがに先輩冒険者だなと2人に思わせる。
「分かりました、ユモトさん頼りにしてまずよ」
「あ、いや、そんな、頼りだなんて……」
真面目な顔は長く持たなかった。ムツヤに頼りにしていると言われたユモトは右手を口元に当てて身を小さくしてしまった。
そんなやり取りがあり、今は家の中でユモトの料理が完成するのを待っている。火はコンロの下に魔導書が置いてありそこから出る。
水はカバンの中にいくらでもある。ムツヤは外の冒険の準備として井戸水を直接カバンの中に入れておいたのだ。
「出来ましたー」
ユモトが台所から嬉しそうな顔をして言った。サラダにパンにシチューとステーキまで付いている。とても森の奥での食事とは思えない。
「美味しそうですね~、いただきます」
料理には性格が出るのだろうか、繊細な味付けはありあわせで作ったとは思えないぐらい美味しかった。
ムツヤはガツガツと食べ、モモも料理の腕でユモトに負けている事が悔しいと思いつつ手が止まらない。
食事が終わると眠気が襲い、ムツヤはうつらうつらとしていた。
「ムツヤ殿、私が外を警戒しておくのでどうぞお休みになって下さい。ユモトも疲れただろう? 寝ると良い」
モモはそう言って鎧を着ようとする。しかし、それはムツヤの言葉によって止められる。
「あぁ、大丈夫ですよ。この家って頑丈だしモンスターが近付くと物凄く大きな音がなっで起きられますがら」
それならばと鎧を置いて寝ることにした。モモも1日中森を歩いたせいで疲労が溜まっていたのだ。
「寝る場所は二階です」
そう言って案内をするムツヤ。2階には部屋が2つある、なんだかモモは嫌な予感がした。
「左が小さい部屋で右が大きな部屋です。どっちもベッドは1つだけですが、右の部屋のほうが大きなベッドがあるんで俺とユモトさんはそっちで寝ましょう」
「ま、待って下さいムツヤ殿!!」
男同士がベッドを共有する事にモモは待ったをかける。
「そ、そうですよ!! 同じベッドで寝るって! あ、あの、僕は今日1日歩いて汗臭いですし…… 僕は下のソファーで寝ますよ!」
「そうですか? 全然汗臭いとは思わないですけど」
ムツヤはユモトに近づいてクンクンと匂いをかいだ、顔が火照っていたユモトだが、追撃で匂いをかがれ恥ずかしさで両手で顔を隠す。
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