冒険者になろう 6

「先程は失礼しました。しかし驚きましたな、こんな術がこの世に存在するとは」


 村長は感心していた。離れていても、こうして会話が出来る道具など実際に目にしているモモでさえ現実感がわかない。


 モモは村長にムツヤの村での活躍と、持っている不思議な道具の事を村の皆に口外しないよう伝える。


「確かに、伏せていたほうがムツヤ殿も冒険がしやすくなるだろう。わかった、村の皆には私から伝えておく」


「お願いします、ムツヤ殿これで話は終わりましたが」


「あぁ、そうですか。それじゃ村長さんまた会いましょう」


 そう言って壁から破片を取り外す、この破片は溶けて消えてしまうので掃除も必要ない。その後モモはなにか言いたげにもじもじとしていた。


「ムツヤ殿! もしも、余りがあるのであれば私にこの玉を1つ分けては頂けないでしょうか? 父と…… 話がしたいのです」


 モモの父親は傭兵として各地を渡り歩いていた、3ヶ月に1回の仕送りと簡単な近況報告の手紙が来ていたのだが、もう数年も来ていない。


 久しぶりに父の声を聞きたい気持ちと、オークの村の件を伝えておきたかったのだ。


 しかし、もしかしたらこの玉は貴重なものなのかもしれないと遠慮してしまう気持ちもある。


「あぁ、良いですよ。1000個ぐらいありますし」


 やっぱりムツヤはアホほど持っていた。ムツヤがカバンから取り出したそれを受け取ると、モモは父の事を思いながら壁に叩きつけた。


 しかし、玉は割れず、床にコロコロと転がる。その後何度か試したが同じ結果に終わってしまった。残念そうな顔をしてモモは拾い上げた赤い玉をムツヤへと返す。


「モモさん?」


「父は遠い所で戦っているのでしょう。ありがとうございました、この玉はお返しします」


 そう言ってモモは寂しげに笑った、ムツヤの道具は便利なものばかりだが、流石に性能には限界がある。


「では、行きましょうか! 冒険者ギルドに」


 モモは笑顔を作ってムツヤにそう言った、共に旅をすればどこかで父に会えるかもしれないと思い自分を奮い立たせて。

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