はじめての武器屋 7

 旅の疲れからか、ムツヤがウトウトし始めた頃に大きなひと仕事を終えたとばかりにギルスは二人に声を掛けた。


「お待たせーお二人さん、いやー時間掛かっちゃったよ、流石にこれは。回りくどいことは嫌いだからハッキリ言わせてもらうけど、今の俺の持ち合わせじゃ買い取りが出来ないな」


 一瞬モモは驚いて目を丸くしたが、ムツヤの持ち物だと思えば納得もいく。


「なるほど、素人目にも業物だとは思ったが」


「本当ですかギルスさん!?」


 ムツヤも驚いていた、あれって塔の1階に毎回2本3本は落ちてるから最近は見向きもしなかった剣だったのにと。


「あぁ、これは武器としての価値はもちろんあるが、どちらかと言うと骨董品としての価値があるね~」


 続けてギルスは言う。


「今から200年前のパン・トーテ戦争時にこの国の部隊長が持っていた剣だね。ってことは君のご先祖さんはパン・トーテ戦争に参加してたのかもね」


 剣の由来までギルスは解説を入れてくれた、あの剣にそんな歴史があった事をムツヤはもちろん知らなかった。


「まーそれほど珍しい剣じゃないけどこれは保存状態も良いからウチで買うなら80000バレシかなぁ。前もって言ってくれれば金は用意しておくんだけど平日じゃそこまで現ナマ置いとかないからなーウチは」


「8万バレシ!?」


 安物の剣でも売値が3000バレシ程度だとするとかなりの高値だ。予想以上の値段にモモは驚きの声を上げる。


「どうしてもって言うなら今の俺の手持ちで買ってもいいけど3万バレシが限界かなー。鑑定料は初回サービスでまけておくから古物商に持って行ったほうが良いよー」


 そう言ってギルスはコーヒをすすり、タバコのパイプに草を詰め終えていた。


「それでも良いです、買って下さい」


 オイルライターを持つギルスの手がピタリと止まり、そして顔を動かさないで目線だけをパイプの先からムツヤへ向ける。


「それ、親の形見なんだろう? そんなに安売りして良いのかい? まるでその辺で拾ったみたいにさ」


 ムツヤはドキリとし、流石にモモも冷や汗をかいた。


 モモは今の情報を元に、適当な作り話をして古物商にでも売り渡そうかと考えていたので、突然のことに思考が停止する。


 ムツヤは別に後ろめたい事は無かったが、拾ったという事を当てられて言葉が出てこなくなった。


「お、俺はその剣を売っで鎧とが剣とが、冒険者の必要なものを買っで! 冒険者になりたいんです!」


 ムツヤは本心を話してみる、するとふーんとギルスは言った後に続ける。


「まー家庭の事情ってそれぞれだから深くは言わないけどさ、俺は金にさえなれば何でも良いからね。君にはだいぶ不利だけどこの剣3万バレシ……」


 そこまで言って一旦ギルスは言葉を止めた。


「だけじゃ流石に俺も『大通りの肥溜め以下の悪徳商人』みたいになっちまうから、金とは別にこの店の好きな剣と防具をどれでも一つずつプレゼントでどうだい?」


「あ、ありがとうございます!」


 ムツヤはパァーッと笑顔になって感謝の言葉を口にし、やっとギルスはタバコを味わうことが出来た。


「いやいや、むしろお礼を言うのはこっちの方なんだけどね…… お金の準備をしておくから適当に選んでてよ」


 厳重に鎖で繋がれている剣、壁に立てかけられている剣、色々な形の剣があったが、ムツヤは木箱の中に適当に入れられた何本かの剣に注目する。


 見つけた途端大声を上げそうになるが、自制し小声でモモに話しかけた。


「モモさんモモさん、これ塔の中にあるやづですよ! 斬ると炎が出てくるやつ!」


 確かに先程までムツヤが腰に下げていた剣にそっくりだ、使っている所は見たことがなかったが。


 だがそんな貴重なそんな物が1本3000バレシで投げ売りされているはずが無いことだけはわかった。


「多分それはよく似た別物でしょう、それよりどうせでしたら値の張る良い武器を」


 モモの言葉を完全に無視してムツヤは見覚えのある武器を手に取っているのを見てあぁ、絶対に「これが良い」って言うんだろうなと察しが付く。


 仕方がないから鎧だけでも何か良い物を見繕うことにする。

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