一番てっぺんに! 7
「待って待って待って、本当この子可愛すぎ、どーしよ、年の差なんてまぁうーんいやでもーうー…… やっぱり小さい頃から見てたから情が移っちゃったのかしらね」
さっきまでの気品と神々しさはどこへ言ったのか、サズァンは小声で言いながらくねくねと悶ている。
ふと、独り言をピタリとやめて振り返った。
そのサズァンには気品と妖艶さが戻っている。
そして、聞き分けのない小さい子供を諭すように言う。
「いいムツヤ? 私は神で、あなたは人間、しかも私にとってあなたは弟とかそんな感じなの」
そう言われたムツヤはこの世の終わりが来てしまったとそんな顔をしていた。
その後はもう、わかりやすいぐらいに落ち込んだ。
おそらく人生初の恋はすぐに幕を閉じたのであった。
「あーそのえーっと、あなたが嫌いってわけじゃ無いわよ? むしろ好きだし、でも私は邪神だしね、それにアナタには外の世界を見て来て欲しいの」
ムツヤは聞いているのか聞いていないのか、口を開けたままアホっ面をしてピクリとも動かない。
「わかった、もうわかったから! 外の世界を見て成長なさい。それでハーレムでも作って、色んな女の子を知るの、それでも好きな人間の子が出来なかったらその時はまた戻ってらっしゃい。そうしたらまたもう一回考えてあげる」
ムツヤはその言葉を聞くとコレまたわかりやすくパァッと笑顔を取り戻した。
この時サズァンはムツヤが尻尾を振る可愛い子犬の様に見え、抱きしめて頭を撫で回したい衝動に駆られたがぐっと堪える。
「わかりました、サズァン様。俺は外の世界を見て、外の世界で成長すてハーレムを作ります!」
「はいはい、わかったわかった。そのペンダントを付けてればたまーにお話もできるから困ったら頼って頂戴ね」
ムツヤはハッと思い出して頭を下げる。これは感謝の気持ちを表す行為らしい。
来た道を戻る途中、一度だけサズァンを振り返ると笑顔でひらひらと手を振り返してくれた。
急いで階段を駆け下りた。
途中またモンスターと出くわしたが剣を取り出すのも面倒だったので全てぶん殴って片付ける。
「じいちゃん、てっぺんまで登ってぎだからあの結界って奴を壊しでぐれ!」
ムツヤは家に帰るなり祖父のタカクへと言った。
タカクはお茶を飲みながら目線だけをムツヤに移して、とうとうこの時が来てしまったかと湯呑を置く。
「そうか、それならば仕方がねー、明日の朝に結界を解いでやっがら」
「いんやダメだじいちゃん、俺は外の世界で成長しでハーレム作んだ! もう今すぐに行く!! 今すぐじゃなぎゃダメだ!」
ムツヤは鼻息を荒げてそう言うと、やれやれとタカクは重い腰を上げた。
家から結界の間際まで歩く二人の間に言葉は無い。
途中また巨大なコウモリが何度も襲撃してきたが、ムツヤが飛び上がって平手打ちで全て叩き落とした。
「ムツヤ、いづがはこの日が来るど俺も思ちょった」
タカクは家から出て初めて話し出した。その表情は当然だがどこか寂しげだ。
「外の世界を見てこい、ムツヤ」
「じいちゃん……」
タカクがそう言って結界に手を伸ばすと青白い光に切れ目が現れ、左右に開いた。
あれほど行きたかった外の世界なのにムツヤは少し足取り重くその裂け目へと歩く。
「じいちゃん、カバンの予備に薬死ぬほど入れでおいだがら死にそんなっだら飲めよ! あどー広げたら竜巻が起こる巻物も入れとったから魔法使うのしんどい時は使えよ、それから」
「俺の心配はすんでねーよ、ムツヤ」
シワだらけの顔を更にクシャクシャにし、ニッと歯を見せてタカクは笑った。
ムツヤは黙って頷いて一気に結界の裂け目に走り出す。
中は一面が真っ白で、急に高い所から落ちたような浮遊感がし、たまらず叫び声を上げる。そのまま気を失い、気付いたら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます