一番てっぺんに! 4

 だが、ここ二週間で『命中するとメッチャ光ってモンスターがパパウワーってなる弓』を練習してきたので、ムツヤにはあの触手トカゲを仕留める自信がある。


 最悪、我慢して剣で斬ればいいしと楽観的だ。


 しかし、何度か臭いで吐いてしまうだろうから出来ればやりたくは無かったが。


 片目を閉じて弓を引き絞ると、ムツヤは左手を離す。


 放たれた矢は触手トカゲの顔に当たり、例の光がパパウワーと現れ、触手トカゲは部屋中にビリビリと響き渡る咆哮を出してのたうち回った。


 その間もムツヤは素早く弓に矢をつがえ直し第2射、3射と矢を浴びせ続ける。


 命中した矢の光が消えると、そこを中心に半径40cmほどのグロテスクなクレーターを触手トカゲの体に作る。


 怒った触手トカゲは緑の毒液を放射状にばら撒いて階段の入り口の後ろに隠れていたムツヤへと降らせた。


 流石に毒液を浴びたくないとムツヤが飛び出すと、待っていたとばかりにトカゲは伸ばした触手を鞭のようにしならせて襲いだす。


 それでも、足の早くなる魔法を使い、部屋を縦横無尽に駆け巡るムツヤを捉えることは出来なかった。


 その間も絶え間なく矢の雨が降る。


 触手トカゲの発する咆哮も段々と弱くなり始め、天を見上げて一度だけ一際大きく咆哮を上げると、それを最後にその巨体は煙とともに消え去ってしまった。


 今までのムツヤの経験上、モンスターの中には死ぬと死体が残るやつと煙になって消えるやつの二種類が居る。


 死体が残るやつは食べると大体は美味いので食料になっていた。


 触手トカゲを初めて倒した達成感などは微塵も感じず、ムツヤはアイツは煙になるタイプだったのかとちょっと関心を持っただけだ。


 まぁ、肉が残ったとしてもあんなに臭いモンスターは食べる気がしないのでどうでもいいのだが。


 ムツヤは『割ると辺りのクサイ匂いが消える青い玉』を触手トカゲの消えた場所に投げる。


 これは割れた場所を中心として、約半径30メートルの空間に漂うどんな有害物質でも除去できる代物なのだが、普段は使い道が見つからないのでトイレのちり紙の横に山積みにされていた。


 大きい方をした後のエチケットだ。


 もちろん、これも外の世界で1玉売れば1週間は酒場で豪遊が出来る価値がある。


 部屋は快晴の空の下で心地の良い風が吹いたように、爽やかな空気になった。


 さっきまでの匂いを嗅いでいたムツヤは普段より余計に清々しく感じている。


 ムツヤは知らない事が多い。


 触手トカゲの吐き気を催す臭いは、常人であれば一吸いで昏睡状態に。ゆっくり深呼吸すれば次の瞬間にはあの世へ行っている毒ガスだと言うこと。


 触手で触られれば痒みを感じるどころか、その部分から細胞の壊死が始まり体が腐り落ちる事を。


 それでは、何故ムツヤは平気なのかと言うと、おそらくどんな病気も治す幻の秘薬を小さい頃からジュース代わりにガブガブと飲んでいるからだろう。


 長年気持ち悪いと思っていたトカゲが消えて、ムツヤはもっと早く倒しておけば良かったかと思いながらもちょっとした喪失感じた。


 ヤツが居た場所には鱗が数枚落ちていて、変わった匂いも、触って皮膚がどうこうなる事も無かったので、とりあえずカバンにしまって階段を登り始める。


 ここから先は未知の場所なので少しだけ身構えたが、そんなムツヤの心配は杞憂に終わり、どのモンスターも一撃で真っ二つに出来た。というか素手でも倒せるぐらいに弱い。


 それから塔の内部の森を抜け、砂漠を抜けてこれまた1時間もしない内におそらく最上階付近まで来た。


 そこには開けた広間があり、天井からはガラス製の燭台がいくつも垂れ下がっている。


 床にはフカフカの赤い絨毯が広がっている。そして奥の大きな扉の前の豪華な椅子に何者かが座っていた。

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