第十六話 覚悟が足りない
「無力化…、まあ、倒せってことなんだけれど。まだ奴がどこに逃げて、どこに
「じゃあ、どうやって無力化するんですか?」
「ノンノン…。
「見つかるまでは、待機ってことですか?」
「そうだねえ。D.M.Sは、別に戦うだけが仕事ではないからねえ。いろいろと他に任務はあるんだろうけど…。そうだ!」
「じゃあ、見つかるまで休暇なんてのはどうだい?ここ2、3日でいろいろ大変だったろう。ここは、任務を離れて気楽に待っているってのも悪くないんじゃあないかな?」
「悪くないとは思いますけど…、良いんですか?皆さんはともかく、僕はまだ入ったばかりですし…、なんだか悪いなあ」
「まあ、良いんじゃないか?せっかく、こう言ってるんだし。ここは、ありがたく受け取っておこう」
「黄瀬さんがそう言うなら…」
赤根君も、納得はしていないようだが、受け入れたようだ。
それにしても、昨日『敵だ』とかなんだとか言ってた割には、黄瀬さんはいつも通りだな。まあ、聞かなかったことにするとか言ってたし、そういうことなのかな?
機動が、手を叩き、話を切り出す。
「さ!お話は、これで終わりだよ。解散解散。カイサーン‼」
「お休み、ありがとうございます」
「気にしないでくれたまえ、執クン‼キミの活躍に期待しているよ‼もちろん、他のみんなもね」
ワタシたち43班は、ラボを後にした。
◇
休みか…、これからどうしたものか…。やはり、俺のほうでも個人的に【ラジオット】を探しておくべきか…?しかし、何も手掛かりがないのではな…。
ラジオットについては、能力のほかにも、少しわかっていることがあるらしい。と言っても、能力に関係していることに変わりはないのだが。
奴の能力の、『取り込み』と『再生』。それには、ある媒体が必要になるということだ。それは持ち運びができるものだという話だったが、それはどうやら『カセットテープ』型のモノのようだ。そして、それを設置して使う場合があるらしく、街中などで見かけたときには、注意すべき…、だったか。
そんなことを考えていると、黄瀬さんが、話しかけてくる。
「どうした、
「ええ…、待っているだけというのは、どうも
「まあ、お前はそういうタイプだよな。でもな、黒川。そういう時こそ、ゆっくり行こうぜ。それこそ、楽しくな」
「楽しく…」
黄瀬さんは、いつもこうやって、俺の焦りなどを解きほぐそうとしてくれる。しかし、どうも黄瀬さんが言っていることは、俺には少し難しいようだ。楽しくなんか、なれるわけがない。
「そうだな…、そんなに不安なら…。どうだ?ここはひとつ、特訓でも」
「特訓…?」
「そのままの意味だ。オレフにも言われたが、お前はまだまだ弱い。それを補うためにも、努力を重ねろ」
「努力…、自分では出来ていると思ってはいるのですが…」
「まあ、お前は頑張っていると思うさ。ただ、何かが足りないのかもしれないな。それを見つけるという意味でも、どうだ?」
赤根が、話に入ってくる。
「いいですね、それ!これから、三人でやりましょうよ‼」
「お、執は乗り気だな。それじゃあ、お前はどうする?」
そう、黄瀬さんは、俺に聞いてくる。
実際、俺が弱いというのは事実だ。そして、それは簡単には
「やります」
「よしきた。それなら、今からトレーニングルームにでも向かうか」
「わーい!」
「それなら、私たちはどこかでお茶でもしているとしようか」
「……、そうですね。行きましょう」
「ちょうど、行ってみたいカフェがあったんだ。せっかくの休みだ、有効活用しよう」
どうやら、あちらは二人で出かけるようだ。まあ、女性同士でしかわからないものというのもあるだろう。俺が、考えるほどのことはないだろう。
とにかく、俺たち三人はトレーニングルームへと向かった。
◇
「ほらほらどうした!もっと気合い入れろ‼」
「……はい‼」
トレーニングルームにて、黄瀬さん、赤根、俺の三人による特訓が行われていた。これは、俺のためのもの、という目的ではあるが、三人の連携などを強化するという意味合いもある。それぞれの動きの癖や、得意なことを理解しておき、それに合わせ行動する。これも大切なことだ。そして今は、チョーカーを使わずに、生身での組み手を行っている。
「こっちにも居ますよ‼」
そう言いながら、執が飛び掛かってくる。そして、そのままいつもの蹴りに移行する。
「くっ…!」
俺は
「そんなんじゃ駄目ですよ‼」
赤根の蹴りは、腕で
「うぉ…⁉」
「それ‼そこだ!パーンチ‼」
赤根が放った拳は、俺に命中するかと思われたが、すんでのところで停止する。
「だめだなあ、そこは早く反撃に移らないと。入ったばかりの僕でもわかりますよ?」
「む…、だが防がなければ、モロに喰らってしまうからな…」
「それがだめなんですよ」
「どういうことだ?」
赤根は、やれやれという感じで答える。
「攻撃を全部、受けきれるとは限らないってことですよ。まして、今の黒川さんならなおさらです」
黄瀬さんが、声を出す。
「そうだな。執の言う通りかもしれない」
黄瀬さんは、続ける。
「確かに、攻撃は
「守りに…、入りすぎている…」
「そうだ。俺の力でも、これまで何度も亜人にダメージを負わせている。なら、お前の攻撃だって、充分な威力を出せるはずだ」
赤根が付け加える。
「その通り。だから、下手に受けに回るよりは、攻めたほうが良いんですよ。それに、今の黒川さんには、どうやっても守りに入るのは難しいと思います」
赤根が続ける。
「簡単に言うと、『覚悟』が足りないんですよ」
「……、覚悟」
「そうです。黒川さんは、『攻撃を受ける』覚悟が出来ていない。自分の身を案じるあまり、逆に適切な防御が出来ていない」
黄瀬さんが付け加える。
「執の言うとおりだ。『受け』に回るなら受ける。『攻め』に回るなら攻める。そのメリハリが必要なんだ。と言っても、俺のような防御向きな能力でもない限りは、攻めるほうが最善だとは思うが」
赤根が声を出す。
「結局のところ、今の黒川さんは何もできないってことですよ。」
「…‼」
「『亜人を許さない』『亜人を倒す』、と言っている割には、それに
「…、なるほど」
二人に言われるまで、そんなこと、考えたこともなかった。覚悟なんて、とっくに出来ていると思っていた。しかし、現実に出来ていなかったのだ。自分の甘さに、腹が立つ。
俺は、どうすればいい?考えてもわからない。覚悟…、俺の覚悟…。やはり俺には無理なのか?ここまで来て、諦めなくてはならないのか?
——いや、それは駄目だ。
俺は…、この【
『覚悟』…、その意味を考えるべき時が来たようだ。
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