テラー・オブ・テイルズ ～人マジUZEEEな排他的器用貧乏系おっさんが自由欲しさに異世界探訪～

第1章 ガルクスト王都編

第1話 根暗系器用貧乏が異世界転生してみました

　この世界にはパソコンがない。

　当然、スマホもない。

　テレビもなければ、ラジオもない。

　ネットはもちろん、人類の英知と呼ばれた代物は何一つ存在しない。

　しかし異世界（ここ）には機械などでは語れない何（・）か（・）がある。

　拡大ルーペの代用品を器用にまぶたで挟んだファブリックは、いよいよ繋がった導線を爪先で弾き、「よーし」と呟いた。

　　　　　☆☆☆☆☆☆

　転職を重ねて得たものは、数多の生成能力だった。

　パタンナー、調香師、ITエンジニア、精密機器製造メーカー、プログラマーにCADオペレーター。健康機器開発から食品衛生士。それから花火師バイトに生産管理に至るまで。

　興味のあることは片っ端から触って覚えた。しかし慣れた頃には退屈に押し潰され辞めてしまう、の繰り返し。

　"退屈は敵"と興味のまま突き進んだ先に待っていたのは、どっちつかずの烙印と就職難の現実だけだった。

　三十を過ぎれば、派遣で得られる仕事の種類も限られてくる。

　言わずもがな、現代社会は広く浅い知識ではなく、一点に突き詰めたスペシャリストを望んでいる。飽き性の人間が新たに踏み込むことのできる分野は時間とともに狭まり、次第に退屈が日常へと変わってしまう。

「「　退屈は敵だ！　」」

　言葉に圧殺され堕落した飯豊誠也（いいとよまさや）の体は、ある日 突然動かなくなり、家賃42000円のボロアパートで長い眠りにつく。

　心臓発作か、それともいよいよ脳が生きることに飽きて自ら呼吸を辞めたかはわからない。

　ただ飯豊として手に入れた経験はそのまま、幼く無垢だったファブリックという青年の肉体にそっくりそのまま移り宿ったという事実だけは変えられようもない。

「マジ最高！！　ネットも便利道具もなんもないけど、異世界（ここ）には無限の可能性が溢れてやがる。魔力に魔法に魔石、スキルにモンスター、巨大生物（バケモノ）にアンデッド。現実世界（あっち）では冗談だったものが、異世界（こっち）では常識常識。しかもほとんど手付かずのまっさらときたもんだー、アーッハッハ！」

　真夜中の薄暗い小屋の片隅から不気味な男の遠吠えが響いていた。

　ただ、それを聞く者の姿はない。ポツンと建つ小屋の周囲には、光の一つもなかった。

　早い話……

　ファブリックはとても孤独な青年だった。

　転生した今も昔も、気難しい性格が難となり、徹底的に人との繋がりを絶ったことで、根暗で陰気な生活に陥っていた。

　だがしかし……

「親兄弟嫁全部不要！　家族肉親全部不要！　必要なのは興味と欲求、自由な物作りライフ。異世界サイコー！」

　ずっとこの調子である。ただ、異世界（ここ）でも変わらぬことは当然ある。

『ぐぐぅ』と何かを訴えるように腹が鳴った。どうやら異世界でも等しく腹は減る。

「め、飯の一つや二つ、食わんでも死にやしない。まだたったの"三日"よ。たったの三日で腹など減るはずがない！」

　言うまでもなく、ファブリックは貧乏だった。

　今も昔も等しく――