第20話 魔法の練習 そして、魔王級な空間⁉︎
「
「ん? なぁに、
「うん。美亜お姉さんは、どうしてそんなに、お兄ちゃんのことが分かるんです? お兄ちゃんの考えてること……とか」
「どうして……って言われても」
桃からの問いかけに、今度は美亜が首を傾げた。
「それに、お兄ちゃんもだよぉ。どうして、美亜お姉さんが、今、望んでいることが分かるの……? それって、魔法を使うから?」
「さくらくんは、そんなことに魔法は使わないよ……。それは、桃ちゃんもここに来て分かったでしょ? さくらくんは、自分のことに魔法を使わない……って」
さくらの代わりに、美亜が桃の質問に答えた。
「うん、そうですけど……。だったら、どうして?」
「桃ちゃんはまだ、さくらくんと知り合って、さくらくんの優しさを全部経験できていないから……なんだと思うよ」
美亜の優しい口調に、桃が対抗するように話し出した。
「お兄ちゃんの、優しいところなら、たくさん知ってますよぉ……」
桃が美亜の言葉に、少しだけ拗ねた素振りを見せながら、返事をする。その口調に、美亜もそれを感じ取ったようだ。
「うん、そうだね……。桃ちゃんを、ここに受け入れてくれたのもそうだし。魔法の使い方を、教えてくれてるのも、そう……でしょ?」
「はい」
「でも、それだけじゃないと思うの。さくらくんは、見た目はとてもかわいいけど、魔法を使わなくても、とても強い人だし……」
桃が頷いてみせる。美亜が桃のその様子を見て、話を続けた。
「さくらくんが、あの時、あの場所にいなかったら、わたしは、今ここにはいられなかったの……。さくらくんは、自分だってケガするかもしれないのに。ううん、ケガだけですまなかったかもしれない……。それなのに、迷わずわたしのことを助けるのに飛び込んできてくれたの……。そんな、男の子のことをもっと知りたい……って思うのが、女の子じゃないかなぁ……」
美亜の言葉が、視線が、さくらに向けられていく。
見つめられたさくらは、僅かに首を傾げて、立ち尽くしている感じだった。
そんなさくらの様子に、美亜は微笑んだまま、今度は桃に向きなおり言葉を続けた。
「こんな、困ったような表情をする、さくらくんはかわいいと思うし、電気街で、桃ちゃんを助けたときのさくらくんは、とても格好よかったと思うの……。その全部を知りたい……って思うから、なんとなく、さくらくんの考えていることが
おとなしく、桃が美亜の言葉に耳を傾けている。時々、頷いているのは、自分が助けられたときの光景を、思い浮かべているのだろう。
「わたしが助けてもらったときは、お兄ちゃんのこと……、お姉さんだと思ってましたから。勇気のあるお姉さんだなぁ……って。その時から、お兄ちゃんが、ホントはお兄さんだと分かってたら、わたし……」
「わたし……?」
「わたし、兄妹の一線を越えてたかもしれませんっ」
「わぁ、桃ちゃんたら、大胆な発言だねぇ。もうおかしなこと言わないです……って、約束したばかりなんだけどなぁ……。さくらくんが、また、困った顔してますよ」
美亜に優しく窘められて、我にかえる桃。恐る恐るさくらの顔色を窺う。
美亜は、桃のそんな様子を、ほほえましく見つめている。
「あれっ? そういえば桃ちゃん? さくらくんのことは、お兄ちゃん……って呼ぶよね? それなのに、ほかの男の人をお兄さんって、呼ぶのはどうしてなの?
「へっ? お兄ちゃんは、わたしのホントのお兄ちゃんで、拳お兄さんは違うからですけど……。それが、なにか?」
桃が、当然のことみたいな返事をする。
「使い分けてるのね? ……どうして?」
「どうしてって、お兄ちゃん……って呼んで、こう、見上げたほうが、かわいく見えるじゃないですか? 妹属性アップですよぉ。それに、上目遣いは、わたしや美亜お姉さんみたいに、背の小さい人しか使うことができない技ですから、有効に使わないともったいないです。お兄ちゃんと同じくらいの背の
「桃ちゃん、あなた……」
「なんですか? 美亜お姉さん?」
「魔女というよりも、悪女になる素質がいっぱいなのね……」
「そこは、美亜お姉さんには言われたくないです……」
「そうよね……」
「はい」
美亜と桃の間に、奇妙な連帯感が芽生え始めていた。そのふたりを見て、さくらは、控え目にため息を
「ところで、さくらくんはどうしてここに……? ホントにオチを狙ってきたわけではないでしょ……?」
「そうですよ。お兄ちゃんったら、タイミング良すぎです」
美亜と桃のふたりがかりで詰め寄られるさくら。
「いえ、あの……、桃と魔法の練習をしようかと思って。練習用に場所も用意してきたので……」
「えっ? ホントですか? お兄ちゃん? それに場所を用意したって、魔法、使ってもいいですか?」
桃の瞳が、好奇心に満ちて輝いている。
そんな桃に対して、さくらが一度頷く。
そして。
「桃だって、試してみたいと思ってるでしょ? 自分の魔法が、どのくらいの威力があるのか……。言葉だけで理解するのは、難しかったでしょ……?」
「そんなことないよぉ……。お兄ちゃんの教え方、わたしにはよく
さくらは桃たちと買い物に出かける前、桃自身の意思に関係なく発動してしまう、桃の魔法の特性とその制御のしかたを、言葉として教えていた。
桃もまた、さくらの言葉での教えを、感覚的に理解していたようで、無意識に魔法を発動してしまう自分を、完璧に押さえ込めてはいるようだった。
さくらが買い物途中で巻き込まれたナンパ騒動も、さくら自身による一撃必殺の行動のお陰で、桃が魔法でぶっとばす必要がなかったこともある。しのぶと沙羅に揃って制止されたのもあったのだが。
ただ、この商店街にいる間、桃が魔法を発動しなければならない、そのような危険な状況に陥ることはあり得なかった。
いたって平和な、夏休みの商店街の風景が物語っているのだった。
「さくらくん……? 魔桜堂にこんな場所、あったんだ……?」
「はい、もともとは、母が魔法を試すための場所だったみたいです。沙羅さんたちがここに来ることになった時に、片付けをしてて、この入り口を見つけました。その時、いつでも使えるように、ボクの魔法領域に作り変えたんですけどぉ……」
美亜からの質問にさくらが答えた。魔桜堂の店内と奥のリビングスペースを繋ぐ途中にあったドアを開け、地下へと続いている階段を、揃って
桃の魔法の練習場所として、さくらが用意した場所に、沙羅と美亜も好奇心を抑えきれずについてきたのだ。
しかし、結構な時間、階段を
「沙羅さん、怖かったら、無理しないで上にいていいんですよ……」
「こ、こ、怖いだなんて……、誰が言ったのよっ」
「いえ、違ったのなら、ごめんなさい。でも、沙羅さん? 震えてますよ……。それに咬んでますし……」
「こ、怖くなんてありませんっ。これは、桃の魔法を見られるから、そ、そう、こ、興奮してるのよっ。たぶん……?」
沙羅の苦し紛れの言い訳に、さくらが苦笑しながら。
「そういうことに、しておいてあげますね……」
「沙羅ぁ? 怖い時は怖い……って言っても、いいと思うよぉ」
さくらの呟きに、美亜までが続く。
ふたりからの攻勢に、沙羅の反抗は頬を膨らませて見せるだけだった。
そんなやり取りを、どのくらい続けていたのか。階段を下りきった四人の目の前に、重厚なドアが姿を現した。さくらの身長の三倍は高さがあるだろうか。木の質感を醸し出した、古めかしい造りのドアだった。
いかにもな雰囲気が、そのドアから放たれている。
圧倒されそうな巨大なドアを前に、さくらを除く三人が固まっている。
「さくら……くん? ここ、魔桜堂の地下だよね……?」
最初に我にかえった美亜からの質問。
「はい、地下五十メートルくらいを想定して設定した、ボクの魔法領域下にある空間ですけど……」
さくらが優しく答える。
次に当事者の魔法使い、桃。
「お兄ちゃん……? 入り口がこの大きさだと、中はどのくらい広いの……?」
「うん……。桃が魔法を全力で展開しても、耐えられるくらいには広いけど……」
そして、最後に沙羅。
「凄く、雰囲気でてるよねぇ……、さくらちゃん? 魔法使いの物語に出てくる、学院のドアみたいだ……」
沙羅がひとりで感心している。言っていることは、少しだけずれているようだが。
「沙羅? なに言ってるのよぉ……。さくらくんたち、本物の魔法使いでしょ? なによ、学院のドアって?」
「そうですよっ。お兄ちゃんが魔法で作った……って、言ったじゃないですかっ。まったく、沙羅ったら……」
美亜と桃も揃って沙羅を責め立てる。
その光景を、さくらは笑って見守っている。
「あぁ、うん、そうだったね……。さくらちゃん、魔法使いだった……。でも、ホントに雰囲気でてるよねぇ? 入り口だけでもこれだもん、中も相当こだわったんでしょ? さくらちゃん……?」
「はい……? 中ですか?」
「中には、ドラゴンとか……いるの?」
「沙羅ったら、現実の世界と、ファンタジーの世界を一緒にしないの。今度は、ドラゴン……ってなによ」
「そうですよっ。ホントに沙羅は、子どもなんだからっ」
なおも、美亜と桃からの集中砲火が止まらない。
「いやいや、この科学の全盛の現代で、魔法使いだって相当現実離れしてると思うけどさぁ……。大魔王さま候補のさくらちゃんなら、やりかねないと思って……」
そこまで言った沙羅が、チラリとさくらに視線を向けた。
美亜と桃は呆れた様子で、沙羅を見ている。
「大魔王……やりませんよ、ボクは」
さくらの反撃。落ちついた声で呟く。
「あぁ、うん、そうだったね。それも……、ごめん」
慌てて否定する沙羅。
「
「な、なによぉ……?」
沙羅が思わず身構える。
「沙羅さんは、ドラゴンを見てみたいですか? なら、用意しますけど……?」
このさくらの言葉に、今度は桃が、大きく反応して噛みついてきた。
「お、お兄ちゃんっ? なに、沙羅の子どもっぽい冗談を本気にしているですか? そ、それに、用意します……って、どういうことですか?」
「えっ? どういうこと……って、桃の魔法の対戦相手に、いろいろ考えてただけなんだけど……、アンデッドとか、ワーウルフとか、バンパイヤとか……」
「ど、どうして、わたしの練習相手が、そんな魔界の住人なんですかっ? ファンタジーすぎですっ。そ、それに、ドラゴンなんて、どのお話でもラスボスクラスの大物ですよ。わ、わたしにどうしろと……」
動揺しまくりの桃。さくらに向けて一気にまくし立てた。ところどころ言葉を咬んだのは、興奮の表れだろうか。それを隠すように、桃はさくらのことを睨んでいる。
「うーん……、桃もボクを相手にするよりも、やりやすいかと思ったからだけど……」
さくらが、少しだけ考える素振りを見せた。
「桃ちゃんがやりにくい……って、どういうことなの? さくらくん?」
今まで、様子を窺っていた美亜が、桃の頭を撫でながら、さくらに聞いてきた。桃を落ちつかせようとしているその手が、やさしく動いている。
「はい、もともと、桃の使っていた魔法は、超強力な防御魔法なんです……。桃に向けられた敵意に反応するんでしょうね。桃を護るために使われて、残った魔力が相手に跳ね返る……みたいな感じですね」
「その余分な魔力が、攻撃的な魔法に見えてた……ってこと?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます