ロト777で777777777!

ゆーり。

ロト777で777777777!①




大学卒業を控えた勝利(カツトシ)は、アルコールの残る頭を抑えながらベッドから起き上がった。 昨日は親友の福志(フクシ)が家に来ていて、久しぶりに酒を飲んでのどんちゃん騒ぎを開催した。

福志もまだ床で大の字に寝ていて、散らかったゴミや空き缶もそのままだ。 欠伸交じりに郵便受けを確認すると、アパートに届いていた封筒を発見し絶望の谷へと突き落とされた。


『厳正なる選考の結果、誠に残念ではございますが、今回はご希望に添いかねる結果となりましたことをお伝えします』


もう何度となく見た似たような文章を見て溜め息をつかずにはいられなかった。


―――また不採用か。

―――この半年で50件は会社を受けたぞ?

―――それなのに全て落ちるってどういうことだ!?


勝利は就活真っただ中である。 周りが次々と就職が決まり焦る一方だった。 部屋へ戻ると福志も目覚めたようで、既に起きて待っていた。


「また不採用だったよ」

「マジかぁ、残念だったな。 まぁ次があるさ! 俺も応援するから!!」


ぴらぴらと不採用通知を見せながら床に座り込むと、福志は心から残念そうにしてくれた。


「いや、もう流石に俺の心もブロークンハートだって。 何か全てが嫌になりそう。 ・・・今度会う時はもう俺はこの世にいなかったりして」

「馬鹿野郎ッ! そんなこと言うなよ!!」


そう言ったのは悪いが、本当に勝利の精神は削られて参っていた。 表情を暗くしている勝利を見てか福志が言う。


「あ、そうだ! 今日いいものを持ってきているんだよ」

「いいもの?」


福志が取り出したのはブリスターパックに入った錠剤だった。


「い、いいものって!? 流石にそれはヤバいって!!」

「ん? 何の勘違いをしてんだよ。 これはヤバい薬じゃないから。 合法的にストレスを和らげてくれる薬」

「本当かよ・・・。 合法的にっていう響きがよく聞こえないのは何なんだろうな」

「違法にストレスを和らげてくれる凶悪さよりマシだろ? まぁ、試しに飲んでみろよ。 俺も一緒に飲むからさ! それでまた酒飲んで騒ごうぜ!!」


福志は既に内定が決まっていて勝利を支えてくれる存在だった。 時々その差が辛く思うこともあるが、一人よりもいいのだ。

そんな福志が持ってきてくれたものだけに、少々怪しみながらも錠剤を受け取った。


―――にしても不運過ぎるよな。

―――このままだと俺は今年度中に就活できず、フリーター生活になりそうだ・・・。

―――もういっそのこと、大金持ちにでもなって仕事なんかしなくても生きていけるようになればいいのに。

―――そうだ!

―――そう言えば、ロト777の結果がもう出ているんじゃなかったか?

―――当たるわけがないけど、当たっていてほしいよな。


そのようなことを考えながら福志にもらった錠剤を口に放り込み水で流し込む。 二日酔いで痛む頭が少し和らいだような感覚に確かな効能を感じた。


―――確かに何となく気分いいな。

―――本当にヤバい薬じゃないんだろうな・・・?


不安ではあったが福志をあまり疑いたくはなく、くじを保管していた棚へと向かった。


「ん? どうした?」

「ちょっとロトを買っていたの思い出して」

「ふぅん」


ロト777は去年から発売されている特殊なくじで、一枚のくじで3種類のくじを楽しむことができる。

購入時にスクラッチ、選択式ナンバーズ、固定式ナンバーズを選ぶことができ、購入者の選択に幅が持たせてある。

購入時の選択次第で当たりくじになったり外れくじになったりする公平性の高いモノになっているという売り文句だ。


―――確か新聞のここら辺にあったはず・・・。


先日買った宝くじの番号と新聞を照らし合わせる。 今確認しているのは自分で番号を指定するもの。 ゆっくりと見間違いがないように番号を確認していく。


「・・・駄目かぁ。 つか、全ての数が外れているとか何なんだよ」

「それって逆に凄いんじゃね?」

「凄くても何の当たりにもならないからなぁ」


当然当たるわけがなかった。


―――本当にいんのかな?

―――6億円当たる人間が。


ナンバーズを外すと結果のすぐ分かるスクラッチを削ってみるというのが楽しみ方の一つ。 

もちろんナンバーズを記入した時点でスクラッチくじとしての意味は失ってしまっているが、それでも確認してみたいのが人の性。 というわけで、早速試してみたが見事に外れだった。


「こっちも駄目かよ。 まぁ、当たっていたら発狂するところなんだけど」


選択式は当たりの公表が他のくじより遅く、今はまだ結果は分からない。 ただもし当たっていたとしてもこの時点で単なる紙切れである。


「俺の人生どうなるのかなぁ・・・」

「宝くじなんて当たらないのが普通だから。 まぁでも、毎回宝くじに希望をかけると人生楽しいかもしれないな」

「そうかもなー・・・」

「・・・」

「ん? 寝たのか? 何なんだよ突然。 おーい、福志さんよー?」

「・・・」


―――全く。

―――俺一人でどうしろって言うんだ。


正直これだけ面接を落とされればやる気も失いかけていた。 何気なく外の空気が吸いたくて福志を置いて外へ出る。


―――死にたいとまでは思わないけどさぁ。

―――もっとこう、人生って上手くいかないもんかな。


ぼんやりと考えながら歩いていたその時、水まきしていたおばあちゃんに水をかけられてしまう。


「あぁ、すみません・・・」

「いえ。 大丈夫なんで」


かけられたといっても汚水じゃなく普通の水道水だ。


―――天気もいいし歩いていれば乾くだろう。


ツイてはいないがどこかポジティブな性格の勝利である。


―――でも俺がツイていないせいで、絵梨花(エリカ)からは振られるし踏んだり蹴ったりだ。


それでもこの先の生活や人生に不安があれば、悩み苦しむいたって一般的な思考。 大学生になってから付き合い始めた絵梨花とはつい先日別れたばかりだ。


―――『しばらく勉強に専念したいから』なんて言われたけど、おそらく嘘だろうな。

―――何故なら絵梨花は既に内定をもらっていて勉強する必要がないからだ。


一方勝利はいつになっても内定をもらえない。 おそらくこのまま一緒にいても将来が不安だと思い、絵梨花から別れの話を持ち出されたのだろう。


―――俺も自分が絵梨花の足を引っ張るならと思って別れを受け入れた。

―――社会に認められないだけでなく、好きな女にまで捨てられるなんてな・・・。


自販機で飲み物を買った。 くじ付きの自販機であるが当たりなんて人生で一度もないし、商店街のガラガラではいつもティッシュしか当たらない。

なのに頭上を見上げると大きな隕石が空で煌めき少しずつ大きくなっていく。


―――・・・何だ、あれ?


昼間に見えた流れ星。 などではなくただの隕石だ。 周りもそれに気付き騒がれている中、勝利はぼんやりとその隕石を見据える。

ちなみに隕石が個人にぶつかる確率は宝くじ高額当選の確率と比べても大差ないものだ。


―――もういっそのこと、俺の願望が叶えられる世界にでも変わってくれればいいのに。

―――・・・あれ?

―――あの隕石の模様、福志にどことなく似ているような・・・。


そのようなことをぼんやりと考えている間に周りは大騒ぎである。 どうやら隕石は自分に向かって落ちてきているようだった。


―――・・・ッ、嘘だろ!?

―――くじは当たらないのに隕石は当たるのかよ・・・ッ!!


もう諦めたその時勝利の視界は真っ白に染まった。


「何だ!?」


そしてそのまま深い白い霧の中へと落ちていったのだ。



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